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第十六話 学園入学、目立ち過ぎる悪役令嬢

「なるほど、ここが学園……。案外小さいものなのね」


 学園を前にしたアイリーンの第一声がそれだった。

 ライセット公爵邸から遥か南方。馬車に乗せられ何日も移動し、南の国境沿いまでやって来た私たちは、護衛や従者をつけずに単身で放り出されたのだ。

 ちなみにファブリス王子とは別行動。学園で落ち合う予定でいる。


 ずらりとレンガを積まれて作られた、三階建てほどの建物。大きな窓がいくつもあり、いかにも古い感じの洋館という風で、敷地の広さはライセット公爵家の約三倍と見える。

 王城と比べてしまえば確かに小さいのだが、学校としては充分広いし古そうだ。そしてお金持ちのエリート校感がぷんぷんと漂ってくる。


「なんだか私は場違いな気がしないでもない……」


「と言ってもあんたはわたくしの中にいるんだから仕方ないでしょ。それとも出て行ってくれるのかしら?」


 それは物理的に無理な話なので黙り込まざるを得ない。

 精神年齢的には今年で二十三歳になってしまう私が今更学園なんて、と思わないではないが――。


「出ていきません。おとなしく学ばせてもらいます」


「よろしい。せいぜい頑張りなさいよね」


 勉強嫌いのくせに上から目線なアイリーンはそう言って、学園の中に足を踏み入れる。

 その足取りには少しの躊躇いもなかった。


 今回入学するのは男女合わせて百人くらいの貴族子女だと聞いている。

 一番身分が高いのは王子のファブリス。そして一番低いのは男爵家出身の令嬢や令息だ。


 男爵家、子爵家、伯爵家、侯爵家、公爵家、王家。

 一応貴族階級は覚えたし、学園生活で最低限必要になるマナーは使用人の女性……侍女に教え込まれた。


 それでもまだまだ知らないことだらけ。しっかりと勉強していく必要がある。

 もちろん、アイリーンにも覚えてもらわないといけないけれど、果たして彼女は交流というものができるのだろうか。


 私の不安をよそに、アイリーンはうきうきしているらしかった。


「まずは入学式ね。ああ、楽しみだわ」



◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 公爵令嬢アイリーン・ライセットはその場の誰よりも目立っていた。

 重たい宝石がたっぷりとついたとても華やかなドレス姿で、さらりと流れる長い銀髪は青い花飾りで彩られている。

 アクセサリーは全て滅多にお目にかかれないような高級品ばかり。扇の柄まで目に鮮やかな真紅の薔薇が描かれたものだ。


 着飾っている令嬢は他にも大勢いる。

 アイリーン以外にドレス姿の人物を見たのは初めてでとても新鮮な気分だけれど。


 誰一人としてアイリーンの魅力に勝ててはいなかった。


「あの方は……?」

「ずいぶんとお美しい方ですこと」

「あんなに着飾っているということは……」


 ぽつりぽつりと独り言が聞こえてくる。

 アイリーンは彼女らの方を振り向き――扇を広げて言い放った。


「ごきげんよう。あなたがた、わたくしの装いがそんなに気になるの? わたくし――アイリーン・ライセット様を褒め称えてもよろしくてよ」


 他の令嬢なら決してしなかっただろう強烈過ぎるその一言に、動揺が広がる。

 しかしそんなことは承知の上とばかりに笑うアイリーンを見て、私は呆れのような尊敬のようななんとも言えない気持ちを抱いた。


(まったくブレないな、この子は。私には絶対真似できない)


 私の高校デビューなんて本当にありふれたもので、入学初日、良い意味でも悪い意味でもこれほどまでに目立つことなんてなかったのに。

 七年前――と言っても一度死んでいるが――の私とは比べ物にならないほど派手なアイリーンの学園デビュー。祝福すべきなのか、またやらかしたことを叱るべきなのかはわからない。


 こうして私にとって二度目、アイリーンにとっては初めての学生生活が幕を開けたのだった――。

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