純愛乙女ストーカー
初めましての投稿です。幼馴染ものです。
あの胸の痛みと羞恥を忘れた訳じゃない。けれど、どうしてだろう。
「気づかれない。多分…きっと…大丈夫…」と深呼吸。
もう3年も経っているんだもの。
あれから少し図太くなった私は、週末TVで話題のパン屋に並ぶ為にバスから降りる人の群れに滑り込んだ。
一目でいい、そのアイドルに会いたかったから。
“出禁”のストーカーなくせに…変装紛いのことをしてまで。
「──好き!!!」
幼稚園の時から仲良しだった、“愛くるしい”という表現がピッタリだった高也に告白したのは中2の時。誰かに相談する以前の、天啓のような初恋の自覚。
偶然2人きりになれた瞬間、つい口をついて出た言葉でとっさに恥ずかし過ぎてうつむいてしまった。
自覚したとたん好き…すぎて直視できない。お互いしばらく沈黙の後
「…じゃ、付き合う?」
と頭に降ってきた言葉に驚いて顔を上げると、機嫌良さげに笑う高也と目があった。
青天の霹靂とはこういうことを言うのかと、お空にも昇る心地だった。
その日、一緒に帰りながら勇気を出して「付き合う」とはどうすればいいかを尋ねると
「俺も部活と家の手伝いあるからなー。とりあえず、こうやって帰れる日は一緒に帰ろう。」
と返された。
「一緒にいる許可」を得た私が舞い上がるには十分で、まずお互い部活のある日以外は学校→高也んちでバイバイすることを決めて。
舞い上がりすぎで高也の5歩ほど後ろを真っ赤になりながら歩き、時折高也が「これじゃなんも話せないじゃんか」「なんか犬の散歩みたい。あ、珍獣か。」と、からかい気味に笑って振り向くのがひどくうれしかったんだけど…。
緊張のあまり話せない自分がもどかしすぎて…つい、高也のうちのイートインコーナーの隅っこで、一つ50円のミニパンを買ってちょっとずつ…ちょっとずつ長居をするようになり。
レジ向こうで仕事してて、目も合わせない高也に見惚れて気づくと30分くらいポーっとして過ごしていた。
レジで高也が嫌そうに小声で「お金いいから」って言うから「自分で食べる分だからちゃんと払うって!」と見栄はって。お小遣いあんまりなかったけれど。
本当に周りが見えてないストーカーだったなと今でも反省しています。ホントよ。
緊張も解けないままふた月ほど経って、一緒に帰れなかった日につい高也んちのお店をショーウインドウごしに覗いてしまった。するとお店の従業員さんらしき雰囲気イケメンな人と目が合い、出てきて
「お店に迷惑なんだよね?そういうの、『ストーカー行為』っていうんだよ。もうやめてくれないかな?」
と、心底困った口調で静かに諭されてしまった。
(お仕事の邪魔?最安のパンばかりで居座ってみみっちい客だったから?そういえばそもそも…!!!)
高也は…私のこと、何とも思ってなかったのかもしれない。
告白されたから受け入れたけど蓋を開けてみればとんでもなく迷惑な女で、段々と幻滅していったんだろうか。
お付き合いとか初めてで…いっぱいいっぱいで迷惑かけていつのまにか嫌われてて情けなくて恥ずかしかった。
取り返しのつかない気持ちでどうしようもなく泣いて。
SNSで「ごめん、高也のこともう好きでいるのダメみたい。」
と伝えて。
しばらくして高也から「こっちこそ本当にゴメン」とだけ返ってきて。
「終わった」と思った。
クラスも違ったから学校で会話する機会も勇気もないまま進級、卒業してそれぞれ別々の高校に進んだ。
高也は、私なんかよりずっと頭のいい進学高へ行ったと人伝てに聞いた。
「これ以上好きでい続けてちゃ、いけない」
そう思って中学の残りはなんとかやり過ごせたのに、高校やバイト先で「今、好きな人、いる?」ときかれるたび恋心はぶり返す。
小柄な私はどうやら「先輩に当たる男性の庇護欲を誘う」らしい(と、友人談)。心底不可思議な現象だけど高校生になってメガネをコンタクトに変えたあたりからちょびっとモテ出して。その流れで告白されるたびについ「すっごい好きな人、いるんです。だからダメ」と答えていた。
忘れようにも何も知らないお母さんは時折高也んちでパンを買ってくるもんだから、「これ高也が触れてあるいは作ったパンなのかも…?ウヒャア!」そう考えるだけでもう、人知れず悶えてしまう。
高也はもはや私の心の中でアイドル。近寄ることすらできない、片想い。
凹んだ時などはかのご尊顔を思い出し心の中のペンライトや応援うちわを振りまくる。
イタいけど「今はもう迷惑かけてないからいいじゃんかー!!!」と部屋で1人、あの頃の夢のような日々と悲惨なオチを思い出しのたうち回りながら吠えてリセットを繰り返す、不毛すぎる日々。
なのに、ある日夕飯時のTVに見慣れたパン屋が…
そして、知ってるようで私の知らない、大きくなった高也がちらっと映ってた。
「!!!ッぎゃァカッコいいいいいえぇええええええええー!」
即録画ボタン押して部屋に戻ってから奇声をあげのたうち回る。編集はあとだ。お代わり用でスマホにも入れよう。入れ方わかんないけど。とにかく心の目にも焼き付けようなんとしてでも。
もうなんなの、なんなンッのあれ?TVに映ってるとかもはやフツーにアイドルでしょう?!いやそんじょそこらの団体様アイドルより眩しいレベル!(私目線)
ついでにどうでもいい情報だけれどあの時の従業員さんは高也のお兄さんらしくて一緒に「イケメン兄弟」として映ってた。
うん、お兄さんの方が腹黒うさんくさそう(あの日の私目線)。
お兄さんが喋ってたけどトラウマぶり返すから編集でカットしとこう、うん。
うん。
それにしても…子供っぽさが抜けてカッコよくなってたな…高也。
もう呼び捨てできないね「高也様」だよねもう。
はたと、気づいた。もはや彼の人気はお茶の間レベル。(私目線)
「崇拝者」が増えれば、私、コッソリそこに紛れこめるんじゃ?
いちファンのままでいても、よくない?
あの頃とは違う。気を紛らす為に始めたバイトで資金力もある。
今なら推しにたんとお布施もできるよ?
「会いたい」というより「拝みたい」
→「拝もう!」「今ならできる!」「多分大丈夫!!」
根拠のない自信に裏打ちされてナゾの行動力を発揮してしまった。遠方からきたお客のふりしてバス停側から来て、お行儀よく入店制限(TV出たばっかだもんね)の列に並んで順番待ちして。もうすぐ入店、というところで。
「ちょっと…こっち」と従業員さんに突如手首を掴まれ
店の裏側まで引っ張って行かれ…
どこか聞き覚えのある声とこの背丈。これはもしや例のお兄さん…?
あの時の恐怖が駆け巡る。メガネオフなのに前科者だとバレた。でも。言わなくちゃ。
手首を掴んで前を俯き気味に歩くその人の背に向かって。
「お、お金ならちゃんといいいッツぱいちゃんと…私、ただの、ただの客です!!!パンいっぱい買えたらすぐ帰ります!!!あの時は迷惑かけてすみませんでした!!!」
やっぱり私如きストーカーが高也様のご尊顔なぞ拝めるはずも…ッ
恐怖と悲しみでボロボロ涙が溢れて顔を上げることも出来なくなっていた。
「違う…怖がらせるつもりじゃ…ごめん。千佳。」
記憶より低い声の名前呼びに驚いて顔を上げると、そこには背が高くカッコよく育った高也がいて、私の手首を掴んでいた。
店の裏側から家の中に通され、私の涙が落ち着くまでいていいと言われ。
私は「そんなわけには」「迷惑かけるわけには」とひたすら恐縮つつもタオル押し付けられ顔を洗わせてもらったり、「売り物にならないやつだけど…」とより分けてあったらしい山ほどのパンとお茶まで出して貰い…高也が店に出たり戻ってきたりとややあって。
「もう、落ち着いた?」
と、ふいに覗きこまれた。
はう、涙は落ち着いたけど心は落ち着かないぃぃ…!
今絶対、顔真っ赤。昔も耐性なかったのに、至近距離無理に決まって…
そんな私を見て、高也がうれしそうに笑った。もはや何しに来たんだっけ?推しが供給過多すぎてもう限界。
「帰りますぅッ!」
「まだダメ。送るからあとちょっと俺の部屋で待ってて。」
強引。推しが強引。なんで?プチパニック。
推しの部屋。推しの匂い。ドアくぐって軽く失神。
高也は一旦仕事場戻って、コックコート脱いできたらしく。そして家までの道のりに何故かまた手首掴まれてます。あれー?
昔みたいに後ろについて歩こうと思ったけれど高也が私の手首を掴んだまま歩きだすので、とんでもなく気恥ずかしい。
「……………」
「……………」
無言も、怖い。けど、昔より、大丈夫。
私、ちゃんと話せるはず。勇気、出して。
「…あの、ちゃんとお金払って、ちゃんといっぱいパン買えたらって思ってたのに…今日もちゃんと出来なくてごめんなさい。」
高也が振り向く。
「俺は払ってほしくない。」
「でも…迷惑で…」
「迷惑じゃない。昔も、自分の彼女の分くらい俺が出そうと思ってた。店にもうちょっと居てほしかったし。」
「でも…前にお兄さんが…」
「あー…」
「…迷惑って…ストーカーって…」
「だいぶ後になってからソレ知った。それわかってから兄貴とは今でもぶり返して時々ケンカになる。」
「え?」
「兄貴の勘違い。自意識過剰なアイツが自分のストーカーだと勘違いしただけ。俺は」
「ちょっと待って頭追いついてない」
「俺は、あの時お前に『もう好きでいるのダメ』って言われて、愛想尽かされたんだと」
「そんなことあるわけない!」
だって、今でも好き。ずっとずっと好き。
この気持ちだけはあなたにも否定されたくない。ジト目で見上げると、高也は苦笑した。
「家の手伝いであんま構ってやれなかったし?帰りも家まで送ってあげられないし?わりと彼氏として欠陥品だったんじゃないの?俺…って落ち込んだんだけど」
「高也様に会えるだけでお釣りがきます!!」
…しまった食い気味にやらかした。最近の悪い脳内口癖が出た。顔から火が出そう。
高也、なんかウケてる。
「…なんだよそれ。俺のこと好きすぎじゃんか。今でも…だろ。違うの?」
もう開き直るしかない。
「悪うござんした!もうほっといてよ好きすぎで意識しちゃって上手く喋れないのよ昔も今も!!!」
「いや俺もだけど。」
…え?
「俺も、好き。昔も今も。」
もう高也は笑ってなかった。
「ちゃんと、お互い気持ちを伝えられるようになりたい。だから照れずに言えるように、俺の側にいて。いることに慣れて。もう離れて行かないで。」
抱き寄せられて、ゼロ距離で。ドキドキが止まらないけど「いつ終わるの?」ってくらいずっと抱きしめられるものだからほんのちょびこっとずつ、慣れてきて。
腕の中の私の頭上で
「今度絶対、兄貴に土下座させるから。」
高也はそうつぶやいて、見上げると照れ臭そうに笑った。
欄外に「だからどうした?」という感じの構想メモや設定注釈、削った文章などをつらつら載せる癖がありますが、基本「設定は一切無視しても話が通じて気楽に読める内容にしたい」といつも思っています。
覚え書として欄外はネタバらし要素もあるかもしれませんので、欄外読み飛ばし推奨です。もしも読み返す機会があるようでしたら舞台裏や書き手の脳内妄想の参照をお好みで。
<例>
〜スルー推奨の設定余談〜
高也兄
家業のパン屋大好き、あとを継ぐ気マンマンの家第一主義。
弟も出来れば一族経営に巻き込みたい。取材時も売り上げにつながるのならとなんでも(弟の顔もセットでウリに)する。例の件に関しては高也に頭が上がらないので手伝い頻度はある程度高也の好きにさせている。モテるので自意識過剰。例の件では千佳が自分のことを好きで弟から情報を引き出そうとしていると盛大に勘違いしていた(だって高也迷惑してそうに見えたんだよッ)。弟カップルを無意識に別れさせといて自分はちゃっかり彼女と順調なのも弟に嫌われている一因。
基本客に愛想はいい優男系。
いつのまにか弟に背を抜かされ実はちょっと悔しい。
高也
千佳がメガネをかけ始める年齢前から幼馴染。「小動物みたいで目が離せない、くるくる表情が変わってかわいい」と千佳を昔から意識している。告白され舞い上がり急転直下、家業が理由で千佳に振られたと思い家の手伝いに嫌気がさし、将来一般企業就職を目指し学業に集中し進学校へ。高校ではコワモテポジション(観賞用イケメン)。一時兄と険悪。
繁忙期はイヤイヤ手伝わされ毎度あの手この手で兄貴に利用される(当然バイト代は請求する)。愛想は悪いが真面目で客受けはいい(兄とのギャップで)。
さすがにこの日ばかりは職場放棄して千佳との復縁に賭けた。
結果上手くいったので兄を一応許すことにした(地獄のような忙しさに兄貴を突き落とせたので溜飲も下がった)。
「だからうちのパンなんかで良ければいつだってご馳走したかった。だって千佳は食べてる姿もリスみたいでかわいくて…(二度と後悔したくないので降って湧いたチャンスに逃げ道塞ぎ口説きまくる)」この日実は泣きすぎて千佳のコンタクトがダメになったので、「足元おぼつかないだろ」と口実に高也は手を引いて帰り送っているつもり(手首掴んでるあたり不慣れさが窺える)。
メガネはキスするのに邪魔そうだから「持ってあげる」と鞄ごと取り上げて千佳にかけさせる隙も与えてこない。あわよくばこのままするつもり。
千佳
互いに愛くるしい見目の幼稚園時代から無意識のうちにずっと一途、成長過程の高也にどこまでも目が釘付け。近年拗らせ崇拝レベル。成長しきった高也が割とコワモテ系だということに気づいていない。
軽口叩きあえた小学生時代を懐かしみつつも、何とか今の恋人関係に心の中で折り合いをつけようとキャパオーバーになりながら高也の腕の中で誠心誠意努力中。自分の心の王子様はハンターとなりつつあることをまだ知らない。
背と自己評価が低い。高也に好かれている自信がなかった。
わりと対人恐怖症(高也兄のトラウマのせいもある)。
接客バイトでだんだんと挙動不審は減るが、相変わらず高也の突然のドアップには耐性がない。
両家の母親
昔からPTAなどで顔見知り。小さい時は「このままなら将来嫁に来れば」「うちのでいいなら」などと裏で軽口言い合ってたほど。
千佳が行かなくなってから高也のうちのパンを時折買って来たのも、高也母経由でTV放送日を知ってワザとTVつけたのも、実は千佳の本当の気持ちを知ってて知らんぷりしている千佳母の仕込。
高也母も派手な兄弟ゲンカの裏を知り、千佳に今の高也と会っても気持ちが向いて貰えるのならばとワザと母親づてでTV放送の話をしてあわよくばダブル仲直りを狙っていた。
計画通り(ニヤ)。