キメラ魔導師、パーティを組む
「へっ……?」
モニカの目が真ん丸に見開かれる。
私の誘いに驚いたのだろう。
当然だ、今日出会ったばかりの異性に旅の誘いを受けるなんて。驚くに決まっている。
「嫌ならば結構です。ただ、旅をするのも良いかと思いまし――」
「やりましょう!旅!一緒に行ってくれるなんて、嬉しいです!」
今度は私のほうが驚く番だった。
冒険者としてパーティを組み、共に旅をするというだけだが、男女二人というのはなかなか勇気がいるだろう。
私が衝動的にこぼしてしまった言葉だったから、断られるものだとばかり思っていたのだが、逆に彼女はかなり乗り気なようであった。
「え、良いんですか? 私なんかと、二人旅ですよ?」
「全然ですっ! むしろあんなに頼りになるケイオスさんが旅に付いてきてくれるなんて、心強いです!」
ぱたぱたと手を動かしながら、テーブルをはさんでぐいっと身を乗り出してくる。彼女の整った顔が目の前まで急接近してきて、思わずこちらが仰け反ってしまう。
今まで陰気な職場にずっと居たせいで、交友関係はおろか人付き合い自体ほぼ無い状態だったのだ。無論、女性慣れなんてしているはずもなく、彼女に急接近されたことでカッと顔が熱くなる。
「そ、そうですか。こちらこそ、提案を受けて頂けて嬉しいです。勢いで口に出してしまったもので、まさか乗ってもらえるとは」
「だって、元・王宮魔導師のエリートが旅に付いてきてくれるんですよ! 女の一人旅だと思っていたので、とっても心強いです!」
手持ち無沙汰にゆらゆらと空を泳がせていた両手が彼女の小さな手にぎゅっと握られ、暖かな柔らかみに包まれる。胸の高鳴る音を感じながら、真っ直ぐに彼女の瞳を見つめた。
「あ、でも、確かに二人旅で男女って、そういう風にみられるかもですよねぇ……」
「はい、それで本当に良いのかと思ったのですが」
「でも、ケイオスさん紳士そうですし、無理矢理そういう事してくるようなタイプじゃないと思うので!」
「え?いや、まあ、確かにそうですが。ハハハ……まあ、女性経験も一度も無かったですし」
「大丈夫です!わたしも男性経験皆無です!」
褒められているのか、貶されているのかこれではわからない。一応、好印象に受け取られているということで良いのだろうか。だが、世間ではがっつくようなタイプの男性の方が人気があるとも言うし、わからないものだ。知識云々でどうにかなる問題ではないが、こうした事に興味ぐらいは持っておくべきだっただろうか。
というか、あまりにも距離が近い。一応、今日出会ったばかりのほぼ初対面だと言うのに、気の知れた友人同士のようにパーソナルスペースにぐいぐい入り込んでくる。こちとら女性経験なんて産まれてこのかた一度たりとも無いのだ。
何だか恥ずかしくなり、寄ってくる彼女の顔から思わず視線を外してしまうが、すると今度はゆさゆさと揺れる彼女の豊満なアレが視界に入ってきて気まずくなる。一緒に旅をしようだなんて、私のほうが早計だったらしい。
「じゃあ、グリーンワイバーンの換金が終わったらパーティ登録の申請をしましょう!あっ、そういえばケイオスさんは今はどこに住んでいるんですか? 私は今のところ毎日宿屋暮らしなんですけど。一緒のパーティになるなら住むところも一緒がいいですよね」
「私は一応王都に家を持っているんですけど、流石に収入も落ちるので明日には売ろうと思っていまして。というか、いくらパーティとはいえ同じ部屋はまずいのでは……」
「大丈夫ですよ〜。私も大聖堂時代は集団生活してましたから」
「そういう事では……まあ、良いか。そういう訳で、明日は少し用事があるので、午後にギルドで待ち合わせでも良いですか」
「はい!待ってますね!」
そうして、モニカと私でパーティを結成した。
パーティの名前は『闇払う光の杖』。私と彼女が共に杖を使用する戦闘スタイルであるから、彼女がこの名前を決めてくれた。
グリーンワイバーンの素材の換金だが、石化してしまった部分が多かった為に相場よりもかなり額は落ちてしまったが、3週間は生活していけるだけの金額になった。
お金の分配について、モニカは最初受け取りを拒否していたのだが、私が戦い続けられたのには彼女のおかげもある。パーティを組むのだからそのお祝い金のようなものでと押し切って、半額を彼女にわたしてその日は解散した。
そして、家に帰ってきたのだが――
「おや、手紙が」
ポストに一通の手紙が届いていた。
差出人は、弟のハリス。
封を切って読んでみて、その内容に私は驚愕した。
「父が、私に暗殺者を差し向けるつもり、だと」
どうも、私に魔法の才がなく、王宮魔導師としても落ちこぼれだったからと廃嫡までするのは外聞が悪い。ゆえに、暗殺者に使って私を殺し、病死したという事にしてハリスを時期当主に据えたいのだと言う。
いちはやくその情報を手に入れたハリスは、私を死なせないように手紙を送ってきたのだ。そして、急いで王都から逃げるようにと、彼への連絡先と共に手紙の最後に書かれていた。
「ハリス、ありがとう……」
自分には出来すぎた弟だ。
私よりもずっと優秀な彼が、なぜこうも私をずっと慕ってくれているのかわからない。だが、最後にたった一人残ってくれた私の家族が彼で本当に良かった。
彼の情報が本当ならば、すぐにでも家を出なければ。
手紙を服の内側にしまい、腰から下げている道具袋の中へと、家に置いていた家具を次々と収納していく。しかし道具袋とは便利なものだ。中に入れたものは互いに干渉しあって壊れたりする事もなければ、ナマモノは腐ることもない。作るには高い技術と気の遠くなるような手間がいるが、それだけの手間に見合った素晴らしい性能をしている。
こういう時、自分があまりものを持たない性質でよかったとしみじみ思う。物を持ち運ぶだけであれば、道具袋一個だけで簡単に済んでしまうのだから。
そうして、すっかり自分の家からものがなくなった時、日は落ちてあたりは暗くなっていた。外で適当に夕食でも食べて、今日はもう休もうかと思った時だった。
ふと、家の中に気配を感じた。
「予定だって聞いたんだが。父上は随分と気が急いているらしいな」
道具袋から杖を取り出して、ため息をついた。
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