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キメラ魔導士、遭遇する





 冒険者ギルドで依頼の受付を済ませてから数十分後。

 街を出た私は、エテルナの森にやってきていた。


「あっ、あったあった。これだな」


 森に入ってからすぐ、お目当てのものは見つかった。

 探していた『洛陽香の木』だ。見上げてみれば、ちゃんと実もたわわに実っている。


「『ウィンドカッター』!」


 指を軽く振りながらそう唱えれば、真空の刃が無数に飛んでいき、狙った果実をヘタの部分から綺麗に切り取って落としていく。

 落ちた果実が地面にぶつかる前に全てキャッチして、腰から下げていた袋の中へとしまった。


「さくっと5個集まったな。これで一日分の生活費になるんだから、冒険者って凄い仕事だな」


 今回採取した『洛陽香の果実』。

 確かにあまり市場に出回ることのないものではあるし、高価なものだと言うことは間違いないが、こうして街を出て森へとやってくればすぐに手に入る。

 まあ、それだけ魔物という存在が恐れられていると言うことなのだが。だから以前までの私のような王宮魔導士が定期的に魔物の駆除に出向いていたり、腕に覚えのある冒険者が依頼を受けて魔物の討伐を行っていた。


「普通の人達からすれば、今までの私たちの仕事も命懸けか」


 一応これでも高給取りという枠ではあったのだ。元々お前は貴族だろうと言われればそれまでなのだが、多くの人々が関わりたくない魔物という生き物に関わる仕事をしていたのだと思うと、なんとも感慨深い。


「実感がなかったが、私も人の役に立っていたんだな」


 閉鎖的な環境は思考すら狭めていたようだ。

 単純な労働へと変化しただけなのに、今までよりも『働いている』という実感がある。


「なんか、元気出てきた……!」


 今日の依頼はこれを納品すれば終わりだが、明日はもっと難しい依頼に挑戦してみよう。

 ブロンズ等級の私では受けられる依頼もほとんど無いだろうが、どんどん依頼を成功させて等級を上げていけば受けられる依頼ももっと増える。


 今までの職場では誰にも認められなかった自分の能力が、誰かに必要とされて、そして認められていく。それが何よりも嬉しく、やる気が湧いてきた。


「いよっし、明日からも頑張るぞ!」



 そうして、森を出ていこうと歩き始めてから少したった時だった。


 視界の端。草木の影に、ちらりと何かが映り込む。


 おやと思ってその方向をよく見れば、それはどうやら靴のようだ。冒険者がよく履いているのを見る、厚底のブーツ。動きやすく、そして壊れにくい。


「同業、者……?」


 エテルナの森は王都からも近く、希少な資源に恵まれた森だ。依頼を受けた他の冒険者もきっとよく訪れる場所なのだろう。


 あんなところで寝っ転がっているのか知らないが、せっかく同業者と出会えたのだ。将来のためにも仲良くしておくに越したことはない。


「すみませーん、そこの方!」


 道からはずれ、足が見えた方へと向かう。

 一応遠くからも声を掛けてみるが、返事はない。


 ある程度近付いてみたところで、やはり何か変だと感じた。

 返事が無いのはまだわかる。だがしかし、動きが全く確認できないのだ。


「あの、そこの方……?」


 少し怖くなり、姿勢を下げてあたりの藪に身を潜めながら近付いていく。

 王宮魔導士の仕事で魔物の討伐に向かった時に、似たような事があったのを思い出した。確かあの時は、魔物に食い殺された村人の足だけが、建物のかげから覗いていたのだった。

 あれは恐ろしい想い出だった。今でもたまに夢に出てくる。


「………あ」


 そんなあの日の悪夢と同じ光景が、目の前にあった。


 転がっていたのは上半身を食い千切られた遺体。

 森の奥から響いてくる悲鳴と、魔物の怒号。


 気が付いた時には駆け出していた、森の更に奥へと向けて。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 冒険者ギルドの受付をしていた男は上機嫌だった。

 なぜなら、久々にかなり有望な新人が冒険者の登録に訪れたからだ。


「いやあ、どれだけの腕かはわかんねえけどよ、いつものテストを普通にクリアしてったんだ。知識は間違いなくあるぜ、あいつ」

「へえ、珍しいな。登録しにくる人は大抵、魔物の知識も何なもない状態からなのがほとんどなのに」


 彼の言葉に、知り合いの冒険者の男も頷く。


 冒険者という仕事は確かに誰でもなることができ、堅実に貯蓄を増やしていける仕事だ。だが、それはけして誰もが続けていけるとは限らない。

 最初こそ何の知識も必要とされない仕事ばかりだが、更に割のいい仕事を受けるなら魔物や植物などの知識が必要になる。それでも特定の資格を受ける必要も、試験なども無いのだが。

 全ては本人の腕のみにかかっている、そういう仕事だ。


 だからこそ、新人だというのにかなりの知識を蓄えていただろう彼は、珍しい有望株だった。


 そんな彼について二人が話に花を咲かせていた時だった。


「た、大変だ!」


 一人の冒険者が建物に飛び込んでくる。

 首から下げられたタグで示されている等級は銀。

 その男は至るところに生傷をつくっていたが、それどころではない様子だった。


「え、エテルナの森に【グリーンワイバーン】が!」


 彼の一言に、冒険者ギルドの建物はしんと静まり返った。





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