いざオーク退治へ
依頼を受けた私達は、さっそく目的の村へと向かうことにした。目的の村に宿屋があることは確認している。オーク4頭の狩猟であればその日の内に終わらせて、今日は宿屋で休んでから次の街へ、というやり方が出来ると考えての事だ。
王都の城壁の外に出れば、広大な平原が広がっている。東へ向かえばそちらにもまた森が見えてくるが、それまでは似たような光景が続くことだろう。目的の村はその森の中にある。
「それで、その……ケイオスさんが出しているそれ、なんですか?」
「魔導二輪という乗り物です。速いし、馬車が走りにくい道も何のその!なんですけど……ある程度の魔法の扱いと操作自体のコツが必要な為にあまり普及しなくてですね」
これもまた、王宮魔導師時代に作ったものの一つである。確かあの時は国の交通事情の改善で、新たな交通手段を模索するという場だった。
名前に二輪とついているが、実際に馬車のように車輪がついているわけではなく、代わりに2つの反重力魔力炉が細長い車体の前後に取り付けられている。この2つの反重力魔力炉により車体へとかかる力が上方向に偏り、車体は地表から平行に一定距離浮かぶように保たれ、宙を滑るように走行していく事が可能になった。これであれば、よく使われている馬車に頼り続ける必要もないと思って作ったのだが、まあ周囲からの反応は芳しく無かったのだった。
そもそも、現時点で個人で街を移動していくのは戦闘職についている者ぐらいであり、そうでないものは馬車を使って集団で移動するのが基本である。それに、王宮魔導師ほどの人間であれば風魔法を使えば簡単に空を飛んで移動することも可能であり、わざわざ反重力なんていうややこしいものを使う必要も無いと一蹴されてしまった。要は需要に対する情報収集を怠った私の落ち度である。
そんなこの魔導二輪も、目を付けてくれた企業はあり、製品化されたものが30台だけ市場に出回ることになった。その内の一つが、今私が持っている一台だ。一応、二人乗りまでは出来る。
一人での移動ならまだしも、二人以上の移動なら必要だろうと思い、道具袋から引っ張り出してきたのだ。正直、私一人の時は気が向いた時ぐらいしか使っていなかったが、とりあえず手元に残しておけば思わぬところで役に立つものである。
「ほえ……なんか、かっこいいですね!」
「そう言って貰えるとありがたいです。私が運転するので、あいた後ろに座ってください。車体を跨げなければ横向きに座っても構いませんよ。身体は車体から落ちないように勝手に固定されますから」
「だ、大丈夫なんですか……?」
「ええ、事故なんてありえません。乗ってみればわかりますよ」
まず自分が車体に跨り、車体前方の左右についている穴に手を入れる。内部にはグリップがついており、そこを握る事で操縦者の魔力が魔導二輪に供給されるようになっている仕組みだ。走行については、身体と魔導二輪の接続が完了しているために一定レベルの魔力操作さえ出来ればアクセルもブレーキも自由自在に出来る。
私の準備が済んだところでモニカさんも横向きに座り、おずおずと私の身体に手を回してきた。身体は車体から落ちないようになると伝えていたが、やはり安心は出来ないのだろう。
「では、行きますよ……!」
「は、ひゃいっ!?」
私が僅かに前傾姿勢になると同時に、車体は重低音をあげてぶわりと浮かび上がった。地表からの高さは、真っ直ぐ立っているときの自身の膝程度。魔導二輪に乗っている私達の身体が、車体に組み込んでいた風属性の結界の魔法によって保護された。
「ほ、ほんとに、浮いてる。わたし、風魔法全然できないから、こういうのほんとに初めてで」
「風魔法を使った時とは全く違いますよ。私はこっちの方が好きですけどね。出発します!」
「え!? まだ、こころの準備が、あっ!!」
後方に付けられたブースターが勢いよく噴射し、空気以外の一切の抵抗を受けなくなった車体を勢いよく押し出した。
これだ。馬車と比べて圧倒的なこの速さ。
風よりも速く、そのうえ整備されていない道だろうと関係なく走ることができ、石をふんで車体がぐらつくなんて事もない。
「わ、わああぁぁぁ!? これ、なんか凄い!すごいです!? はやすぎてなんかすごいです!」
背後から彼女の混乱したような声が叫びが聞こえてくる。回された手の力もぎゅっと強くなる。
だが、その声にはいくらか余裕があり、だんだんと楽しくなってきているように聞こえた。
「いいでしょう!まだまだ行きますよ!」
「わ、わあぁああ!? ケイオスさん、前に鳥さんの群れが!」
「大丈、夫っ!」
ふと、突然前方に鳥の魔物の群れが見えた。
二足歩行で飛べない大型の鳥の魔物【ストゥビーク】だ。大人しい上に力強く、街でも馬車を引く魔物としてよく見かける。野生ではこうして群れを作って生活しており、王都周辺の草原でもよく見つけることが出来る。
僕とモニカさんが乗る魔導二輪はその群れへと一直線に走っていた。このままゆけば、激突してしまうだろう。こちらは風魔法の結界によって守られているから大丈夫だが、魔導二輪に激突された彼らの方がただでは済まない。
だが、ただ浮いて走るだけが魔導二輪では無いのだ。
「飛びますよ!」
「えっ、飛ぶって、もう飛んで、わあっ!?」
車体下部に取り付けられた別のブースターから、下方向へと向けて勢いよく噴射され、車体がぐんと浮き上がる。そのまま街の建物の屋根ほどまで飛び上がった魔導二輪は、悠々とストゥビークの群れの頭上を飛び越えていった。
「わっ、はははは!凄い!」
すっかり楽しくなった様子の彼女の声が聞こえてきて、私もまた嬉しくなる。やはり旅なら楽しんでこそだ。
空中を走る魔導二輪から、森の先の目的地が見えてきていた。
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