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キメラ魔導師の弟は笑う





◆◆◆◆◆



「くくく、あっはっはっは!!」


 ケイオスの弟で、次期ギリメサイア伯爵家当主である男ハリス・ギリメサイアは、王立魔法研究所の自身のデスクで一通の手紙を読みながら大きな声で笑った。

 あまりにも可笑しく笑う彼の姿に、周囲の彼の部下の王宮魔導師達は何事かと彼の方を向く。魔法の名家の出身であり、歴代でも稀代の天才と謳われている彼。この王立魔法研究所でも将来的に要職に就くことになるだろうと注目されていた彼が、仕事中に急に笑い始めた事で部屋の空気は凍りつく。


「あ、あの、ハリス様。突然何が……」

「………ああ、これは失礼。実家から送られてきた手紙なのでふが、あまりに手紙の内容が可笑しかったもので」


 ハリスは涙を拭いながらそんなことを言う。

 同僚の魔導師はそんな様子の彼に若干引いていた。元より少し少し世間からズレた性格をしているとは思っていたが、なにも唐突に笑い出す事はないだろう。

 それもまた魔導師らしいといえばそうなのだが。元々、魔導師とは世間から離れて魔法の研究に没頭していた者達を指していた言葉なのだから。


「は、はあ。それで、どういった内容で?」

「済まない、内容までは言えんのだ。なにぶん、家の事情でな。だがまあ皆もすぐにわかるようになるだろうよ」

「え、それはどういう事で……」

「おや、もう問題が出てきたようだ」


 ハリスがそう言って部屋の外へと視線を向ける。

 よく耳を傾けてみれば、扉の先の廊下から激しく言い合うような声が聞こえてきた。



「なんでケイオス先輩来てないんですか!オブラ室長、知っているでしょう!」

「あーあーうるさいなぁ!仕方なかったんだよ!俺にはどうしようもなかった!」

「何がどうしようもなかったですか!ケイオス先輩が居ないせいで戦闘用魔導具、魔物解析系の業務が滞ってしまって大変なんですよ!」

「だぁもう、辞めさせたんだよ。あいつは魔物討伐で役立たずだったろ!あいつの家からも辞めさせるように来てたんだ!」

「はあ!?辞めさせたですって!確かにあの人強くは無かったですけど、魔法についての知識はこの国で一番と言っても過言じゃ無かったんですよ!ちょいちょい変なもの作ってましたけども!」



 その話を聞いたハリスの部下達は何が起きたのか、どうして彼が大笑いしていたのか全てを察した。そして同時に、一部の気付いたもの達はとんでもない事件が起きたと顔を青ざめさせた。


「う、嘘でしょう……ケイオスさんを、クビにしたって」

「ククク、あの愚か者の考える事だ。馬鹿馬鹿しい事でも平気でやる。まったく、当主になるべきは兄だったはずなのだがな」

「ハリス様、笑い事じゃないですよ!あの人がこの国から居なくなったりしたら……!」

「いつまでも無能を上に置いてあのような閑職に置いておいた上が悪い。ウチの愚か者が何かせずとも勝手に居なくなっていたさ。兄は努力の人だ。勝手に道を見つけて新しく切り開いていく。だがまあ、あの人も甘い。そう簡単に国を見捨てることはないさ。そういった所を私は尊敬しているのだがねえ」


 ハリスは椅子にもたれかかり、腕組みをしながらニヤニヤと笑う。こんな巫山戯た様子だが、彼は至って真面目だ。心から兄のケイオス・ギリメサイアの事を尊敬しているし、同じ魔導師として最も信頼を寄せている。

 自分が武としての魔導師であれば、兄は知の魔導師だ。自分のように魔法の才に恵まれなかった兄は人一倍努力を続けてきた。本来、兄程度の魔法の才であれば、王宮魔導師となって王立魔法研究所に務めることなど不可能であったのだ。しかし兄はそれを覆し、国に認められた魔導師となった。魔導師としての実力はなくとも知識の力で自身の力を底上げし、大魔導(ウィザード)の称号まで得ている。そんな優秀な兄を失う原因を作ったのは、武としての魔導師の力に固執した愚か者の父であり、魔導師としての実力の無い兄が権力を付けすぎる事を恐れた王立魔法研究所のありかただ。


「ふふふ、本当に可笑しな話だとも」


 ハリスは手紙を懐にしまう。

 手紙は、父からのものだった。


 なんでも、あの父は既に兄に刺客を差し向けていたのだという。だが、その全てが死体となり家に送られ、脅すような文句が書かれた手紙まで添えられていたという。

 兄一人では手練の刺客を倒し切ることなど不可能だと考えた父は、私が関与したのだと考えて怒りの手紙を送ってきたのだ。お前のためを思ってやったのに何事かと。


 だがしかし、私が刺客についての情報を得たのは遅く、襲撃についてはこの手紙が来るまで知りもしなかった。つまり、兄はたった一人で手練れの暗殺者を皆殺しにしてしまった訳だ。

 知で既に怪物であった男が、武の力までつけてしまったらそれはもう無敵以外の何物でもない。自分の知らないうちに、兄は随分と強くなっていたらしい。おそらくは今の自分と実力が並ぶか、それ以上か。


「だがまあ私は、ついに兄の才能が認められたようで嬉しいよ」

「え、ええ……」


 ハリスの部下はまたしても彼の言動に引く。

 この弟、いくらなんでも兄に対しての愛が重すぎやしないだろうか、と。





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