26 壁を越えた人間
続きです!
将軍様が編成した隊は全部で4大隊ある。
一つ目は俺らが所属する『火消し隊』。
『火消し隊』は主に国中で起きる火災の消火活動を行う大隊だ。
入隊してから分かったことだが、ほとんど活動せず、訓練ばかりだ。
二つ目が『救い隊』。
『救い隊』は治療が必要な人々に平等に治療を行う大隊だ。
全国各地に部隊が散らばっており、救い隊の人に会ったことすらない。
三つ目が『調査隊』。
『調査隊』は突然現れた神殿の調査や罪人・祈者について調査する大隊だ。
しかし、この大隊の主力部隊は将軍様と共に調査に行ってから行方不明だ。
現在は残った部隊で活動しているが、目立った成果を得られていない。
最後の一つが『掃除し隊』だ。
この大隊は罪人を討伐するためだけに編成された大隊で、対罪人に特化している戦闘部隊である。
『掃除し隊』も『救い隊』と同様に全国各地に展開している。
ある地方の消火活動をした時に、一回だけ『掃除し隊』の部隊と一緒に活動したことがある。
戦闘に特化した部隊というだけあって、戦闘能力は一人一人高かった。
『掃除し隊』の隊員から聞いた話で罪人と戦闘をするときは、罪人一体に対して隊員3人で行動するのが一般的とのこと。
そして、この女性は罪人どころか祈者でさえ一人で戦っている。
“戦っている”と言えるのか分からないレベルで強い。
「あーー! てめぇ!! このズボン、もう手に入るか分からない代物なんだぞ!!」
女性は、サルに似た罪人の返り血が付いた革ジャンを気にして言った。
二体いる罪人の一体目は、女性の右足で頭を踏まれている状態で倒れていた。
その罪人は細かく身体を痙攣させている。
まあ、仕方がないことだと思う。
一番始めに、馬から女性に興味を移して襲い掛かったのが運の尽きだ。
その罪人が襲い掛かると、女性は罪人の頭をワシ掴み、そのまま地面に叩きつける。
その動きはスムーズで何一つ無駄がない動き。
罪人が悲鳴をあげる暇もなく、何度も何度も何度も地面に叩きつける。
そして最後の決め手は、動かなくなった罪人の頭めがけて右足を振り下ろしたことだ。
“グシュ”
肉がつぶれる音がした。
その女性の右足を中心に赤い液体が飛び散る。
「ウキィィィィィ!!」
その様子を見ていた、もう一体の罪人が激高して女性に襲い掛かった。
仲間があんな悲惨なことをされたら、怪物だろうと襲い掛かるだろう。
「わめくなよ。今アタシは機嫌がワリぃんだよ」
そう言うと、飛び掛かってきた罪人の顔面目掛けて、ストレートパンチをした。
“ベコン!!”
何かが凹む音がする。
その罪人は殴られて衝撃で、すごい勢いで後ろに飛ばされる。
人間ではあり得ない力だ。
「あーーーー! いってぇぇ!」
その女性は、右手をひらひらさせながら言った。
(いやいや、痛いのはあの罪人だろ)
そして女性は、今の一部始終を見ていた細木先輩たちを見てニカッと笑うと言った。
「おう、もう大丈夫だぞ! このアタシが助けてやったんだから感謝しろよな?」
細木先輩たちはポカンとした顔をしている。
すると、機嫌が悪いような表情になり、
「感謝はねぇのかよ?」
もうどっちが怪物か分からない。
見ているこっちは悪いことをしてる気分になる。
細木先輩は、ハッとした表情になり急いで口を開いた。
「あ……ありがとうございます」
女性はフンと鼻を鳴らした。
細木先輩は警戒するように、女性をジロジロと見る。
おそらく俺と同じようなことを、その女性に対して思っているのだろう。
(ほんとに人間なのか?)
ミキは何故だがキラキラした瞳で女性を見る。
その女性は首をポキポキと鳴らし、細木先輩に向かって言った。
「あんたが、この4人の中で一番偉い人なの?」
「偉くはないが、年は一番上だ」
細木先輩は恐る恐る応える。
すると女性は、細木先輩にグイっと顔を近づける。
仕事以外では女性と全く接点がなく、隊の人から「“紳士”という壁を越えた人間」と言われていた細木先輩の顔が赤くなる。
むしろ、見て分かるレベルで鼻の下が伸びている。
「あんたらが保護したっていう女の子について聞きたいんだけどさ」
女性は間を置くと続けて言う。
「クソ可愛いヤツだったか?」
細木先輩の伸びた鼻の下が、一瞬にして元に戻る。
みんな、静かになった。
((聞くとこ、そこ?))
きっと全員そう思ったに違いない。
ほんの少しの静寂の後に、細木先輩が口を開いた。
「可愛いかは分からないが、年齢が若い女性は別の部隊が保護している」
細木先輩も俺と同じことを言った。
「うーーん、やっぱセツナじゃねぇのかな……」
女性はそう言うと、ブツブツと何かを呟いている。
そんな悪い空気を改めようと、細木先輩が自己紹介を始めた。
「俺の名前は『細木 一男』。『火消し隊』の『水出し部隊』に所属している。そして、こっちはーーー」
「同じく『水出し部隊』に所属している『山本 ミキ』です! えっと……好みのタイプは強くて、私のことを守ってくれるようなーーー」
「おっほん!」
ミキの話を遮るように細木先輩は咳ばらいをした。
普段はあんなにキラキラした目で話さないのに……。
その女性は、めんどくさそうな顔をしている。
「アタシは『桃流院 花蓮』。ちなみに連れで『マコ』っていうダッサイ服着たヤツがいんだけどさ、そいつは今ドライブ中だ」
俺は、その女性がドライブに行くことになったきっかけを知っているので、苦笑いをする。
細木先輩が他の隊員も自己紹介しようとした時に、
「あぶない!!」
細木先輩は、とっさにカレンさんの右手を引っ張り、自分の胸に近づけた。
「「!!!」」
細木先輩以外の人間は気がつかなかったが、カレンさんのすぐ後ろに祈者が立っていた。
祈者の首は右下に大きく垂れ下がったままだ。
しかし、その目は真っ直ぐカレンさんを睨んでいる。
「うっわ!! 汗臭いんだけど!! マジさいてーーなんですけど!!」
そんな空気も読めず、カレンさんは大きな声で言った。
細木先輩の顔が真っ赤になっていく。
「おいこら、離せ! くせぇから早く離せ!」
細木先輩はすぐにカレンさんを離すと、さりげなく肩を回しながら、両腕の脇の下の臭いを嗅いでいる。
そんな細木先輩をみると、なんだか可哀想になってきた。
「あーー臭かった……。普段吸ってる空気って、こんなにいい匂いすんだな。細木さんさぁ、身体洗えよなぁ」
止めてください! 細木先輩が紳士の壁どころか、聖人の壁まで越えちゃいますよ!
細木先輩は、もう隠す気ゼロで、両腕を挙げると、すごい勢いで交互左右に脇の下を嗅ぎ続けた。
もう……壊れたかもしれない……。
「ったく。えーーと」
そういうと、カレンさんは祈者の方を向く。
「一回、フってんだから、脈ナシって気づけよな? そんなに女に飢えてんなら、アタシが服装がダッサイ『マコ』ってヤツを紹介してやるよ、な?」
カレンさんは両腕をストレッチしながら言う。
俺は祈者の様子を見る。
何かがおかしい。
祈者は終始、カレンさんを睨み続けながら、しきりに何かをボソボソと呟いてる。
「……だからおまえじゃ……はやく……なら殺せる……」
そして、はっきりと聴こえた。
「分かった。クロに変わるよ」
誤字脱字があれば教えてください。
明日も一話分投稿投稿しようと思ってます。時間は夜19時くらいを目安にしています。
引き続き、読んでいただけると嬉しいです!
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