1-b ドキドキな一日
2話目です。
よろしくお願いします。
<<<<<パート:トウカ>>>>>
「ハッーー……、ハッーー……、ハッーー……」
どれくらい、走ったのだろうか。駅にとっくに着いててもいい距離なのに、一向にたどり着かない。
むしろ、全く見覚えのない、知らない道を走っていた。
「おかしい……。こんなはずじゃないんだけどな……」
俺はいったん、落ち着くため、自販機で飲み物を買おうと、辺りを見回した。
ひび割れた道路、誰も住んでいなさそうな廃屋化した一軒家、遠くには傾いたビル。
「そういえば、お隣さんのお家って、いつショッピングモールになったんだっけ……」
誰に言うわけでもなく、ポツリと呟いた。
「今考えれば、いろいろとおかしかったんだよ! 俺ん家の隣がショッピングモールになったのはいいとしてさ、ショッピングモールの隣が『ゾルダの伝説』に登場しそうな神殿みたいな建物だぜ! なんだあれ!? どんな金持ちが建てたんだよ! 今どき政治家だってあんな立派なもの建てられないぜ!」
俺は薄々と感じていた。
ここって異世界なんじゃないかと。さっきから走っていたが、誰にも会わなかったし、人っ子一人、歩いていない。
「いやいやいや! みんな引っ越したんだよ! 最近ニュースで、田舎民がみんな都会に引っ越しちゃうって言ってたよな! いやーー! ビビるよなぁ! それにしても引っ越し急すぎるな! そんなに急ぐ!? みんな地元嫌いなの!?」
俺は思わず大声で、言った。パニックからなのか、怖さを紛らわすためなのかは分からない。
大声を出したおかげか、いくらかは落ち着きを取り戻した。
「自販機はここら辺にはなさそうだし、この分じゃテストも受けられない……。…………。帰るか……」
ため息混じりで、元来た道を引き返そうとすると、すぐ近くにある廃屋化した一軒家から、誰かが出てくるのが目に入った。
普段なら、無視して行くが、この時の俺はいつもとは違う精神状態なので、声をかけようと駆け寄った。
「おはようございまーーす!」
俺は、手を振り、駆け寄りながら元気よく挨拶をした。見ず知らずの人でも挨拶をしてくれる人は好感度が持てるはずだ。
「…………」
聞こえないのか、無視なのか。見た感じ、中年男性に見える。
「おはようござ……」
男性の顔が見えるまで近づくと、一瞬にして、人間ではないということに気がついた。
顔の皮膚は半分が崩れ落ち、半開きの口からは喉下まで届く、長い舌が飛び出ていた。
俺は、全身が固まるのを感じた。心臓の鼓動が速くなる。
それに、その男性の額がパチクリ動いているのだ。
すぐにそれが目だと分かった。この男性は第三の眼を持っている。
人間じゃない、化け物だ。
「ギュッ、ギッギッ、ギッギ」
その化け物は、人語ではなく、虫の金切り声のような鳴き声を発しながら、俺の方に向いた。
怖くて、足が動かない。思考も停止し、立ち尽くしてしまっている。
すると、化け物の額にある第三の眼と俺は目が合った。その眼は俺をマジマジと凝視している。
俺はその第三の眼から、目を離すことができなかった。それから目を離すといけないと、本能的に分かっていた。
どれくらい経ったのだろうか、体感的に10分は目を合わせていた。
ふいに第三の眼が下の方に向いた。第三の眼が細くなり、ジッと何かを見ている。
やがて、化け物はゆっくり建物の中に入っていった。
(助かったのか……)
手が震えている。足も震えている。
俺は叫びたい気持ちを抑え、いち早くこの場から去らないといけないと直感で分かった。
その場から去ろうとすると、足元が何やら温かい。
“バシャ”
足元に水たまりができている。
なんとなく、身体が軽くなった気がする。気持ちもだ。
(マジかよ……この年にもなってやっちまった……)
足元の温かさと、久しぶりの解放感で、俺の気持ちは落ち着いていた。
(でも、嫌ではない? むしろ癖に……)
これ以上、考えるのを止めよう。
とにかくここから離れなければいけない。俺は再び、走り出した。
大分、走ったが、一向に見覚えのある道にならない。
さっきより迷った気がする。
「どうなってんだよ……」
俺は、息を切らしながら呟くと、前から一台の自転車が来るのが分かった。
さっきみたいな、恐怖がやってくるのではないかと思い、すぐに隠れる場所を探すが、開けた一本道であり、身を隠せそうな物が見当たらない。近くの建物の中には入りたくなかった。
迷って、あたふたしていると、自転車は近づいてきた。
見た感じは人間のように見える。
何やら声が聴こえる。どうやら自転車の運転手が、俺に何かを言ってきてるようだ。
「おーーい! おーーい!!」
何やら嬉しそうな声で、俺に向かって叫んでいる。男性のようだ。
その男性は、白いランニングシャツを着ており、青のベースで白い縦模様がある短パンを着ていた。
男性の髪の毛はなく、小太りで、いかにも『THE・おっさん』だ。
俺は、安堵した。
なんだか、おにぎりをあげたくなるおっさんだ。
しかし、その安堵もすぐに、恐怖へと変わる。
おっさんの、すぐ後ろに謎の黒いモノがいるからだ。その正体はすぐに分かった。
その自転車のすぐ後ろには、四つん這いで、長い髪を振り乱して、明らかに人間ではないモノがおっさんを追いかけていた。
「おいおいおいおい!!」
俺は全力で、おっさんとは反対の方向に走り出した。
すぐ後ろで、おっさんが必死に俺の方に走ってきている気配がする。
「ウワァァァァ!!」
俺は叫びながら、全力で走った。足が痛い。さっきから走ってばかりだ。息するにも肺が痛い。それでも立ち止まったらヤバいことは分かる。
「おい兄ちゃん!」
俺は声のする方に目をやると、さっきのおっさんが俺と並走している。
並走しているってことは……。
(見てはいけない!)
心の中でとっさに叫んだが、俺は心の声に従わず、ゆっくり後ろを見た。
よくあるホラー映画のフラグだ。
「グフーー、グフーー」
いるじゃん! ボサボサな長い髪を振り乱し、眼はギラギラ光っており、目は左右逆の方向を向いてギョロギョロしている。
服装は、黒いワンピースを着ているように見える。
そんな化け物が、おっさんの後ろにピッタリくっついてる!
今どきのあおり運転も、あんなにピッタリくっつかないぞ!
「おっさん! 後ろ! 後ろ!!」
俺は、必死におっさんに伝えた。
「兄ちゃん! 落ち着け! いったん止まるんだ!」
「止まるわけないだろぉ!」
ひたすら走る、おっさんはしつこく、俺と並走している。
(おいおい! このハゲ、俺に化け物を押し付ける気じゃねーだろうな! つーか、止まれってアホだろ!)
おっさんは、俺の顔を見ると、ニコッと笑った。
やがて、俺から少し離れて言った。
「兄ちゃん! よく聞け! ここを真っ直ぐ行くと、『シロクロ☆バナナ店』というお店がある! そのお店にこい! 絶対だぞーー!」
おっさんは、そう言い、親指を立ててグッドサインをすると、俺を追い越して行った。
不思議と、四つん這いの化け物も、俺には目もくれずに、おっさんを追いかけて行った。
後ろから見ると、化け物から逃げる、自転車に乗ったハゲ。
「いったい、なんなんだよ……」
俺は小さくなっていく、おっさんと化け物を見送りながら呟いた。
息を切らして、立ち止まっていると。
「あの……。だ……大丈夫ですか?」
ふと震える声が聴こえた。
周りを見渡して、声の主を探すが見当たらない。
「あの……。上です。二階です。」
二階? 俺は近くに建っている建物の二階を探していると、一人の女性が目に入った。
どうやら、俺の隣にある建物のベランダから、女性が声を掛けていた。
誤字脱字があれば教えてください。
明日も2話投稿しようと考えてます。