20 (特別編) 名前がない昔話
今日も読んで頂きありがとうございます!
後書きと活動報告にて、メッセージを記載しましたので、一読して頂けると嬉しいです!
また、今回の特別編はいつもより、少し長めの文章ですが、読んでいただけると嬉しいです!
昔々、ある所におじいさんとおばあさんが、山の中で一緒に暮らしておりました。
おじいさんはシカやイノシシを狩っており、おばあさんは家で織った布を山のふもとの村で売っていました。
この二人には、とても畏れ敬っている一匹の山犬がおります。
その山犬は人の腰ほどまで大きく、とても美しい白い毛並みをしており、決して人には懐かず、常に一匹で行動をしています。
二人はこの山犬を、親しみを込めて『白』と呼んでいました。
ある時、山に仕掛けられていた獣用の罠にかかった白を見つけたおじいさんは、白を助けてあげました。
それから時折、白はおじいさんと一緒に狩りをしたり、おばあさんがふもとの村に行くときに警護をしたりしてくれていました。
ある日、おじいさんが火縄銃を手に、山で狩りをしている時、領のお殿様がたくさんの家来を連れているところに出くわします。
おじいさんがお殿様の集団に対して、土下座をして頭を下げていると、お殿様が話しかけてきました。
「おい、そこの老人」
おじいさんは頭を下げたまま、畏まって返事をします。
「なんでしょうか、お殿様」
「お前に、ちと聞きたいことがある。お前の持ち物を見ると、この山で狩りをしている者で間違いないか?」
おじいさんは応えます。
「その通りでございます」
すると、お殿様は続けて質問をしました。
「では、この山で美しい白い毛並みをした大きな山犬を見たことがあるか?」
おじいさんはそれを聞くと、すぐに白のことだと分かりました。
お殿様率いる集団の格好を見ると、刀や火縄銃を持っています。
明らかに、何かを狩るのだと分かりました。
「この山では、白い毛並みをした山犬は珍しくありません。もしよろしければ、お探しになっている理由を教えて頂けないでしょうか?」
お殿様はすぐに応えました。
「噂によると、その山犬の毛並みは、見る者を魅了するほどとても美しいという。是非とも剥製にして、我が部屋に飾りたいと思ってな」
おじいさんはそれを聞くと、ウソの報告をしました。
「ああそういえば、知っていますとも。美しい白い毛並みをした大きな山犬を知っていますとも」
「なに!? どこにいるんだ!?」
「その山犬はこの山ではなく、隣山で見たと知り合いのマタギから聞いたことがあります」
お殿様はそれを聞くと、歯をカチカチ鳴らし、一人の家来を呼びました。
「お主! この山にいると言っておったよな!」
その家来の鎧はカチャカチャと小刻みに震えています。
「ははっ! 確かに、ふもとにいる村人から確かな目撃情報がありました!」
お殿様は足を地団駄して、手に持っていた火縄銃で家来の顔を殴りました。
その家来から血が垂れるのが音で分かります。
そして、お殿様は、大きな声で言いました。
「即刻、その村人を打ち首だ!」
おじいさんは、お殿様たちが去っても、しばらく立ち上がることができませんでした。
夜になり、家に帰ると、おばあさんが心配そうに言いました。
「おじいさん! こんなに帰りが遅くてどうしたんだい!?」
おじいさんは震える声で応えます。
「わしのせいで、罪もない人を殺してしまった……」
おじいさんは、おばあさんに、さっきの出来事を話しました。
話を聞き終わったおばあさんが静かな声で言います。
「その村人さんに罪はない。そして白にも罪はない。わたしがお殿様に直訴しに行きましょう」
おじいさんは、びっくりしておばあさんの顔を見ます。
その顔は優しい顔をしていました。
おじいさんは首を横に振ると、言いました。
「いいや、おばあさん。わしの口から事は起きたんじゃ。わしが行く」
おばあさんの目からは涙がこぼれました。
「おじいさん、一緒に行きましょうか」
こうして、二人はお殿様がいるお城に行きました。
数日後、白は二人が暮らしている家に来ました。
いつもなら、おばあさんが洗濯をしに出てくる時間なのに出てきません。
小さな声で吠えても、戸をひっかいても出てきません。
裏庭にいくと、おじいさんが猟の準備をしているはずがいません。
白は何かがおかしいと思い、山を下り、ふもとの村まで行きました。
すると、村の中心で人だかりができています。
その中心には、身体を縄で縛られた状態で地面にひれ伏している、おじいさんとおばあさんがいました。
「この者たちは、わが領主を騙しただけでなく、虚偽の報告によって罪のない村人の命までも奪った」
そして、ゆっくりと言います。
「よって、現時刻をもって、斬首の刑に処す!」
白には人間の言葉は分かりません。
しかし、縄で縛られたおじいさんとおばあさんの側に刀を振り上げている人間がいることから、大変な事態だとは理解できます。
「ワオーーン!!」
白は遠吠えをすると、人だかりの方に走っていきます。
「なんだ、この大きな野良犬は!」
「キャ――!!」
「お侍様! 早くあの犬を殺してください!」
白はおじいさんとおばあさんのもとまで駆け寄ると、その周りをグルグル周り、唸ります。
「白や! わしらのことはいいから、お逃げ!」
「そうだよ、わたしらは大丈夫だから!」
すると、大きな声がします。
「みなのもの! あの白い大きな山犬を捕まえろ! 殺してもいいけど、丁寧に殺せ!」
どうやら、他の刀や火縄銃を持った人間とは違う、キラキラした格好の太った人間が言っているようです。
「殿様! あの犬を殺せばいいんですね!?」
「おい! 殿様があの犬を捕まえれば褒美くれるってよ! 生死は問わないらしいぜ!」
周りに集まってた人間たちは何やら嬉しそうな声で話始めます。
そして、その手には包丁、くわなどの道具が握りしめられていました。
数時間後、赤い水たまりの中には、ぐったりと動かなくなったおじいさんとおばあさんがいました。
白は相変わらず、おじいさんとおばあさんの側から離れず威嚇を続けています。
「おい……。この犬、なかなか死なねーーぞ」
「刀で切っても、銃で撃たれても倒れないなんて……」
「化け物じゃないよな……」
赤い水たまりを中心に人々は戸惑いの声を隠せません。
「なに言ってんだ! この役立たずども! 余が自ら殺してやる!」
そう言うと、刀を振り上げて、白を切りつけました。
何回も何回も、切ったり刺したり。
それでも白はおじいさんとおばあさんを庇うようにして立ち続けました。
もう何日が過ぎたのでしょう。
お殿様も、その家来も、あれだけいた村人もみんないなくなり、それぞれの生活をしています。
ただ、村の中心には赤くなった地面に横たわる2人の死体と、その死体を守る一匹の白い大きな山犬がいます。
「もう何週間、あそこにいるんだ……。信じられない……」
「あれはやっぱり化け物だ……」
「殿様方も、みんな悲鳴をあげて帰ったし……」
白は通りがかる人間に、牙をむき出し唸ります。
村人たちは、みんな村の中心を避けるように暮らしていました。
ある夜、とても大きな遠吠えが響きました。
「ウ゛ァ゛オ゛ーーン! ウ゛ァ゛オ゛ーーン!」
その遠吠えは、村を通り越して、お殿様が住んでるお城まで響き渡りました。
あの出来事を知っている人は、白い毛並みをした大きな山犬の声だと分かりました。
その声は、恨みに満ちており、それでいてどこか哀しい遠吠えだったそうです。
そんなことがあると、いつの間にか村の中心にいた2人の死体と大きな山犬の姿は無くなりました。
村人たちは安堵しました。
その話は殿様の耳にも入ります。
誰もが、その出来事を忘れかけてた頃に、ある噂が流れ始めます。
「おい、聞いたか? あそこに見える家の息子さんのこと」
「えっ? なになに?」
「なんでも、顔以外の身体がイナゴのようになっちまったって」
「その息子さん、実は化け物だったんじゃない!?」
「それがさ、お姫様も化け物になったって噂があるんだよ」
そんな噂が流れ始めると、次々と身体が化け物のようになってしまう人が出てきました。
その話は将軍様の耳にも届き、当時、一番徳が高いお坊様をこの領に派遣しました。
「お坊様! どうかお願いします! 余の娘だけでも助けてくれませんか!」
お殿様がお坊様に言いました。
お坊様は、お姫様を見ます。
お姫様は以前のお美しい姿とは一変して、右肩からはネズミの頭が生えており、左足は虫の足になっていました。
「これは……」
「治るんでしょうか!?」
お坊様は少し考えると、言いました。
「扉が閉まっていますね」
お殿様を含めたその場の家臣たちも首を傾げます。
「扉とは……?」
お坊様はゆっくりと説明しました。
「扉とは、すなわち現世とあの世を繋ぐ扉のこと。人はみな小さな扉を持っております。その扉を開閉することで、現世に存在するための調節をしています」
家臣の一人がお坊様に質問をしました。
「その扉が閉まっていることと、お姫様のこのお姿は何か関係があるのでしょうか?」
すると、お坊様が深刻な顔で応えました。
「本来、私たち人間は扉を通して神様からの御加護を頂いている。その御加護があるから人間であり続けられているのです」
続けて言いました。
「もし御加護が無くなると、私たちは現世に存在する調節ができなくなり、人間ではなくなります」
お殿様は言いました。
「では、姿が変わるだけなんだな!?」
お坊様は首を横に振り言います。
「いいえ、私たちは人の姿だから人なんです。つまり姿が変われば人間ではなくなる。虫は虫の姿をしているから虫であろうとする。ネズミもネズミの姿だからネズミであり続ける」
そして、お坊様はお姫様を見て言いました。
「その逆も然りです。人は人であり続けようとするから、人の姿になっているのです。つまり、姿が変われば心も変わる。心が変われば姿が変わる。それがこの世の理です」
「姫様はどうなってしまうのですか!?」
お坊様は目をつぶって言います。
「今は人の心を持っているが、姿が変わるに連れて人ではなくなるでしょう」
お殿様は泣き崩れてしまいました。
「では、どうすれば余の娘は助かるのだ!」
お坊様はしばらく考えた後に言いました。
「この怪異が起き始める前にあった出来事を詳しく教えてください。もしかしたら原因があるかもしれません」
それを聞くと、家臣たちは山犬の出来事が真っ先に思い浮かびました。
お坊様に事の経緯を含めて詳しく話すと、お坊様は言いました。
「その山犬が原因と考えて間違いないでしょう……。それにしてもなんて事をしたんですか……。もしかしたらその山犬は山の守り神だったんじゃないですか……」
そう言った後、お坊様は連れていたお弟子様に言いました。
「私と共に、鍵になってくれる同士を数人集めてください」
「……分かりました。自分もお供します……」
「ありがとうございます。そしてあなた方にも準備して頂きたいことがあります」
お坊様はお殿様たちの方を向くと言いました。
「その白い山犬がいたとされる山に、今から指示する祠を建ててください。そしてもう一つ、黒い犬を五匹用意してほしいです」
そうして、数か月が経ちました。
怪異は領をまたいで次々と起きています。
ようやく祠と犬を用意でき、数人のお弟子様を連れたお坊様が言いました。
「私たちは今から全ての人々の合鍵になります。そして合鍵が必要になった人のもとへ、あの犬たちが運んでくれることでしょう」
お殿様含めた領の人々が見守る中、お弟子様たちが犬を連れて祠に入っていきます。
最後の一人にお坊様がなると、人々に言いました。
「人間が好き勝手に命を遊ぶことは愚かなことです。そして、誰かの大事なものを奪う人間こそ化け物でしょう。恨みはすぐに生まれます。しかし、怨みを鎮めることはとても難しいことなのです。未来永劫、この祠を戒めに覚えておいてください。」
そして言いました。
「この祠は決して壊さないでください。そして誰も近づかないように。ではお元気で」
こうしてこの国から怪異が起きなくなり、時が流れるに連れ、怪異ではなく流行り病であったと思うようになりました。
めでたしめでたし。
このお話は語り継がれてきましたが、時代が変わるにつれ段々と人々から忘れ去られていき、今ではこのお話の題名はおろか、お話自体を知る人がほとんどいなくなりました。
果たして、この昔話と『拝啓、僕は生きています。ミツゴロウはいかがですか~怪物だらけの異世界でも生き延びてみせる~』は関係があるのでしょうか。
それが分かるのは、もう少し先のことです。
誤字脱字があれば教えてください。
明日も1話分投稿しようと思ってます。時間は夜19時くらいを目安にしています。
読者の皆様のおかげで、『拝啓、僕は生きています。ミツゴロウはいかがですか~怪物だらけの異世界でも生き延びてみせる~』は、20話まで執筆することができました!
(作者は1-~シリーズは全て合わせて1話と考えています)
ひとえに、応援していただいてるおかげです。ありがとうございます!
今日更新しました、20話は特別編ということで、本編に関係するかも? しないかも? という謎の要素を含んだお話になりました。
まだまだ執筆させて頂きますので、引き続き、読んでいただけると嬉しいです!




