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7 ミツゴロウ、めっ! (A)

続きです!

<<<<<ゲンジロウ:パート>>>>>


 理解しがたい状況下の中、その女性は突然、私の目の前に現れた。

 

 赤い生地に見事な川の絵が描かれている着物を着ており、黒の帯をしている。

髪型は日本人形みたいなおかっぱで、顔立ちは少しばかり幼いが、切れ長の目に、薄桃色の小さな口。

雰囲気はどこか大人びている。

和風美女といえるのではないだろうか。

和傘をさしており、いかにも日本を感じられる。

 

 その女性は、どこか悲しそうな、それでいて懐かしそうな表情をしていた。

普段の私なら優しく声を掛けるが、今の私は理解しがたい状況下なので、そんな余裕がない。

むしろ、頭の整理が追いついていないので、傍から見ると、文字通り口をパクパクしているだろう。

 

 やがて、その女性は話し出した。

 


 「こんばんは」



 挨拶だ。

こんな状況下で、見ず知らずな人でもきちんと挨拶をするとは、とても好感度を持てる。



 「お嬢さん、こんばんは」



私は、笑顔で挨拶を返した。

すると、その女性の口角もわずかに上がり、少し微笑ましくなった。



 「ほら、ミツゴロウも挨拶をしなさい」



ミツゴロウの頭を優しく撫で、挨拶を促すと。



 「ウゥゥゥーーーー、ヴォンワァン!」



 ミツゴロウは歯をむき出して唸っている。

おかしい。

ミツゴロウは、めったに吠えない。

子犬の頃と違って、大きくなるとめったに吠えたことがない。むしろ、懐きすぎて困っているくらいだ。


 私を含めた家族に懐くのはいいとして、ご近所さん家が飼っている犬のチワワに対して後ろから抱き着いたり、そこら辺を散歩している野良猫に対しても抱き着いたり。

一番驚いたのが、リッカちゃんがお友達の家に連れて行ったとき、お友達が飼っているリクガメに対しても後ろから抱き着いたことだ。

リッカちゃんは「仲良くなりたいのは分かるけど、亀さんを怖がらせちゃダメだよ」と叱ったらしい。

 

 誰に対しても懐くミツゴロウが、ここまで怒りをあらわにするのは、何か変だ。

ーーーーいや、一つだけ心当たりがある。私は、ある事を思い出していた。その出来事の時、ミツゴロウは決まって牙をむき出し、暴れまわり、しきりに唸るのだ。

 

 私は女性に、重い口調で言う。



 「お嬢さん、少し離れてくれないか」



 女性は、真顔で私をマジマジと見る。

私も真顔で、女性を説得するように話す。

 


 「少しだけ……、少しだけ離れるだけでいいんだ。ミツゴロウは今とても機嫌が悪い、何をするか分からない状態だ」



 少しの静寂の後に、女性の口がゆっくりと動いた。



 「そうですか。まだ赦してくれない……のですか……」



女性は泣きそうだ。

私は、そんな女性を慰めるように静かな口調で。



 「少し()()が悪いだけです」



ミツゴロウは相変わらず、女性に対して睨みを利かしている。



 「空気が……悪い……?」



女性は真顔のまま、語尾を上げた。



 「ええ。ミツゴロウは()()が悪いと決まって機嫌が悪くなる。きっと、今この場の空気は悪いものなんでしょう」



 女性は少しうつむき、黙り込んだ。

無理もない。少しオブラートに包んで、「お尻からガスが臭ってますよ」と言ったつもりだが……。

自分の、女性に対する気の使い方の下手くそさに嫌気がさす。

やがて女性はミツゴロウを見た。

私は、その時の女性の顔を見て鳥肌が立った。

女性の目からは、憎しみや憎悪の感情が漏れ出ているのだ。

その目は、家族や友人を殺されたかのような怨みのこもった瞳だ。



 (そこまで気にするのか!?)



 私は急いでミツゴロウをなだめる。一向にミツゴロウの唸り声は止まらない。

レディにむかって失礼でしょーーーー。謝りなさい!!

 

 女性はポツリと言い始める。



 「……わざわざ……」



 女性が言い終わるのと同時に、空気が変わる。

臭いじゃない、重さが変わるのが分かる。とにかく、女性の前で息をするのが辛い。



 「わざわざわざわざわざ! わざわざぁぁぁぁぁ!!」



まるで、怒り狂う獣の咆哮のような叫びだ。



 「お前のために、こんな茶番みたいな格好もしてぇぇ! クソみたいな世界を用意してやったのによぉぉ!!」



 さっきまでの大人しい女性とは思えない豹変。

女性は持っている和傘を閉じ、傘の先を思いっきり地面に突いた。


 “コツン!”


 突いた地面から、黒く染まっていく。

まるで水の中に、墨汁を垂らしているかのように。



 「もういい。赦されないのなら、赦されるまでここに閉じ込めればいい」



先ほどまで、見渡す限り青空のような世界から一変して、世界が暗くなっていく。



 「!!!」



 開いた口が塞がらない。

どこまでも続いていた青い世界が、洞窟のように暗く狭い世界に変わった。

いや、もはや洞窟だ。数本の燃えるたいまつが岩壁に掛かっている。

どこからか大勢のヒソヒソする声が聴こえてくる。耳を澄ますと。



 「コロシテシマエ」


 「ユルサナイ」


 「ナンテバチアタリナ」



頭がくらくらする。

たいまつの火に照らされて、女性の顔が怖い。女性は相変わらずミツゴロウを睨んでいる。



 「バウッ!!」



 ミツゴロウが駆け出した。

ミツゴロウは勢いよく女性に飛び掛かる。



 「あぁぁぁぁ!!」



 女性は悲鳴をあげながら、ミツゴロウを追い払おうと、空を切るように手を払う。

ミツゴロウは気にせず、女性の着物に嚙みついている。


 “ビリビリビリッ!”


 女性の袖口が破れた。

ミツゴロウは破れた着物を口にくわえ、走って戻ってきた。

尻尾を激しく振っている。どこか誇らしげだ。



 「コラッ! ミツゴロウ!! めっ!! 返してきなさい!!」



 私は、ミツゴロウの口から破れた着物を離そうと、必死に引っ張る。

ミツゴロウは唸りながら必死に抵抗する。女性も負けじと叫んでいる。



 「ウオォォォォォ!! ミツゴロウ! めめめめめぇっ!! 放しなめっ!!」


 「グゥゥ!! グゥゥ!! グゥゥゥゥゥゥゥ!!」



私はミツゴロウに力負けした。ミツゴロウは勝ち誇ってたかのように鼻息を吹く。

もう一度、ミツゴロウと再戦しようと近づいた瞬間、ミツゴロウは破れた着物を飲み込んだ。



 「ぬうぅぅぅ! こいつやりおったわいぃぃぃぃぃ!!」



 ミツゴロウは嬉しそうにベロを出した。

誤字脱字があれば教えてください。

明日も二話分投稿しようと思ってます。

今日と同じ、正午12時と夜19時くらいに投稿しようと思ってます。

引き続き、読んでいただけると嬉しいです!

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