魔王、都市に着く
「見えて来たぜ。あれが目的の都市マルダンだ」
俺とダンさん達は馬車に揺られること三日、遂に目的の都市までやってきた。
ヴェステリア王国と対をなす、もう一つの大国、リネブル王国の都市だ。
「大きい都市ですね」
「ああ、ここは王国の王都と遜色がないくらいでかい都市だよ。マルダンではギルドマスターが王様と同じくらいの権力を持っているらしい。腕っぷしの強いやつも多いらしいから事件とか起こすなよ」
「起こしませんよ!! 多分……」
マルダンは大きな円状の壁に囲まれている、魔物の襲撃から都市を守る役割を持っているらしい。
下手したらヴェステリア王国の王都よりも頑丈な気がする。
マルダンに入るには門で検問を受けなければならないらしい。
門は四方八方に八つの門があるという話だ。
「それじゃあ、兄ちゃん。俺らは別の門を通るからよ、ここらでお別れだ」
「本当にありがとうございました! この御恩忘れません」
「一生のお別れってわけでもねえんだ。堅苦しいのはなしにしよう。俺らもマルダンに住むからどっかで会えるさ」
「そう……ですね! また会いましょう、何か困ったら何でも言ってください。力になります」
ダンさんは何も言わずに力強く微笑んだ。本当にお世話になった。良い話もたくさん聞くことが出来た。
もし何か困っていたら全力で力になる事を心に誓おう。
「クロノお兄ちゃん、またあとでね~!」
馬車の後ろから身を乗り出しながら、手をぶんぶんと振るメイちゃんに手を振り返す。
馬車が見えなくなるまでずっと手を振り返した。
ダンさんたちと別れた後、長蛇の列になっている検問に並ぶ。
列に並んでいる人の中には獣人などもいた。なんでもダンさん曰く、マルダンのギルドマスターは『来るもの拒まず、去る者追わず』というスタンスで都市を運営しているらしい。
十五分くらい待っていただろうか。やっと俺の番が回ってくる。
門の前には熱そうな鎧を着た衛兵が二人常駐していた。
「マルダンに入るのは初めてか?」
真剣な顔つきで衛兵が聞いてくる。都市の治安を守ろうとしている情熱がひしひしと伝わってきた。
「ああ、初めて来た」
「そうか、ではこの水晶に触れてくれ」
そう言って衛兵は水晶のような物体を差し出してきた。
「これは……?」
「犯罪履歴がないか調べられる魔道具だ。これをクリアしないとマルダンには入れないぞ」
魔道具というのは何かしらの能力を持った、道具のことだ。魔道具には二種類がある、古代に作られたものか、数えるほどしかいない職人が作るかだ。
普通魔道具というのは前者の事を指す。なぜならば作れる職人が少ないので、比例して流通も少なくなるからだ。
どちらにせよ、犯罪を調べるような高性能の魔道具を各門に配置されているとしたら、ヴェステリア王国以上に栄えている。
(俺何にもしてないよな?)
俺は水晶に心配しながら手をかざす。犯罪履歴を調べるということは、犯罪の線引きは魔道具の匙加減というわけだからだ。
手をかざしてから数秒後、水晶がゆっくりと青色に灯る。
「青だな。よし、通っていいぞ! 赤なら捕まえているところだったがな」
縁起でもないことを言う衛兵に、つい苦笑いが込みあがる。
「はは、青で良かったよ」
「これからも気を付けてくれよ。それはそうとマルダンに来た理由はなんだ?」
「冒険者になろうと思って。なんでもここは冒険者の街とも呼ばれてるんだろ?」
「ああ、冒険者になるならここが一番かもしれないな。いつか名前を聞くくらい、有名になれるよう頑張れよ」
「頑張ってみるよ。ありがとう」
「ああ、マルダンにようこそ!」
随分と気のいい衛兵だった。楽しんで仕事をしているようにも見えたし、何より真剣でマルダンがいかに良い都市かが分かる。
門をくぐるとすぐに活気のある町が見えてきた。露店なども出ており、人が群がっている。
その光景に驚く、あのクズ王の領地ではこんな光景は一度も見なかったからだ。
ギルドマスターの手腕がすごいのか、リネブル王国の国王がすごいのかは定かではないが、いつか魔王クロノとして対話をしてみたいと思った。
俺はあらかじめダンさんに聞いていた冒険者ギルドというところへ向かう。
冒険者ギルドというのは依頼を受け、その労働に準じたお金が貰えるという話だった。魔族領にはそんな組織は存在しなかったので、今度魔族領に戻れたら創設してみるのも悪くはないかもしれない。
冒険者ギルドは都市の象徴、故に都市のど真ん中に悠々と建てられている。
都市は、八つの門に入ったところから大通りになっていて中心のギルドにつながっている。大通りから細々と道が枝別れしていて、民家などになっていた。
冒険者ギルドは大通りに沿って進めば迷うことはないので、すぐに着くことが出来た。
「で、でかいな……」
冒険者ギルドには着くことが出来たのだが、俺はその大きさに驚愕する。
余裕で1000人なら入れそうなくらいでかい。
その大きく重厚そうな外見からは、歴戦の猛者のような感覚が伝わってくる。
強敵な魔物と対峙した時のようなワクワク感、手に汗握るような興奮が俺の体を駆け巡る。
(意外と面白そうだな……)
俺は年季の入った木で出来ている、ずっしりと重いドアをゆっくりと押した。
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