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魔王、メイの夢を知る


メイとダンは広場で帰りを待っていた。

食料を取ってくると言って、森の中に走って行ったクロノをだ。


「クロノお兄ちゃん……遅いねー」


「そうだね。でも多分そろそろ戻ってくるよ」


そう言ってダンはメイに笑いかける。

しかしダンはその笑顔とは裏腹に、悪い方に考えていた。


(兄ちゃん……やっぱりここらの森は魔物が出るからあの時無理やりにでも止めとけばよかったか? 今日会ったばっかりだけどよ、良いやつってことだけは十分に分かった。だから……死なないでくれよ)


ダンはクロノの安全を心の中で必死に願った。

その時だ――「魔物が出たぞ!! しかも二匹だ!!」

あの門番の青年の叫び声が閑散とした村を通り抜けた。

叫び声を聞いた村人は、次々に広間へと、パニックになりながら集まってきた。

みんな何をすれば良いのか分からず、とにかく村で一番広い場所、広間に集まってきたのだ。


「お、お父さん……」


「大丈夫だよ、メイ」


不安がるメイを落ち着けるため、優しい口調で話すダンだが、内心では焦り、メイをどうやって逃がすかをひたすら考えていた。


そしてついに、ゆらりと二匹の獣の目、計四つの目が怪しく暗闇でギンと光る。


(ああ、もう終わりだ)


ダンは恐怖や後悔などの感情に襲われた。恐怖で歯がガチガチと音を立てながら震える。

メイもそんな父親を見て(怖い)という感情に心が埋め尽くされた。


「ダンさん」


(ああ、これが走馬灯か。兄ちゃんの声が聞こえてくるぜ)


ダンは感じた自分は死ぬと。

だが、せめてと、メイを抱きかかえ覆いかぶさって守るような体制になる。


「お父さん……」


メイの心細そうな小さなつぶやきが聞こえた。

そしてダンは……小さく震えながら目をつぶった。


「ダンさんってば!!」


(走馬灯って、こんなハッキリ聞こえるものなのかな……)


しかし、いつまで経っても襲ってこない魔物に対し、ダンは恐る恐る目を開けた。

そこにいたのは、四本足で立っている魔物ではなく、二本足で立っているクロノだった。


「……え?」


「食料、取ってきました」


クロノは混乱などいざ知らず、にっこりと天使か悪魔なのか分からない笑みを浮かべた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


俺が村に帰ってきてから、みんなが何故かおかしい。まるで魔王が攻め込んできたような

慌てようだったぞ? いや、あながち間違ってないんだけどさ。

あ、やっぱり食料を持ってきたことが嬉しかったのかな? 多分そうだ。

「あ、兄ちゃん、食料っていうのは、魔物のことか?」


「うん、魔物食べた事あるよね?」


「い、いや、あるけどもよ……これ、どうしたんだ? まさかそこらへんに落ちてた訳じゃないよな?」


ダンさんは、落ち着きがなく、そわそわしている。


「当り前だよ、ついさっき取ってきた新鮮そのもの、マッドボアだ」


「どうやって倒したんだ。獲物ぶきもないのに?」


「どうって……魔法だよ」


俺は人差し指の先に小さな炎を灯して見せる。

ダンさんは、口をポカーンと馬鹿みたいに開けて、メイちゃんは目をキラキラさせながら魔法を見ている。


「クロノお兄ちゃんすごーい!!」


「兄ちゃん、魔法が使えたのか」


「少しですけどね」


今は、少ししか使えないから嘘じゃないよね? 別に隠す必要もないんだけど、めんどくさいし。


「まあ、俺の話は良いので夕食にしませんか? 俺昨日から何も食べてなくて、お腹ペコペコで」


「あ、ああ……そうするか」


ダンさんはまだ聞きたいことがあったみたいだが、それ以上は何も詮索しようとはせず、夕食の準備を進め始める。

俺も何か手伝おうと、ダンさんの方に向かおうとすると、後ろから肩を軽く叩かれた。


「もし、旅の御方」


振り向くとそこには、周りの村人よりも一際歳を召した、老人が立っていた。


なんでも老人はラタ村の村長で「食料がなくて、分けて欲しい」ということだった。

もちろん俺の答えは「いいですよ」だ、元々分けるつもりだったしね。

ただ、催促されるとは思わなかった。それだけ状況が悪いのだろう、俺も一国の王、魔王としてなんだか心が痛くなった。


マッドボアは解体した後に、そのまま丸焼きにした。

村の人は泣きながら食べている人、取られないように一心不乱に食べる人、色々な人がいる。

ただ共通して言えることは、「幸せそう」だったということだ。

俺は……いつもこんな幸せに過ごせるような国を作りたい、心からそう思った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


クロノは村全体の夕食で盛り上がる中、草の上に寝そべりながら村の隅で空を見ていた。


「クロノお兄ちゃん、なにしてるの?」


「メイちゃんか……星を見てるんだよ。よく見えるからね」


クロノは暗い空に、不規則に散らばった砂糖細工のような鮮やかな星空を眺めている。

無造作に置かれた幻想的な空に思わず息を呑む。


「森だから良く見えるのかなー」


「そうかも」


メイもクロノの横に寝そべる。

二人の間に沈黙が起こる。けれどそれは決して不快な物ではなく、むしろ心地の良いものだ。


「メイね、お星さま好きなの。だってね、お星さまにはお母さんがいるから」


ぽつりと話し始めたメイの言葉をクロノは黙って聞く。


「お母さんね、いつも「お母さんは星になって、いつもメイの事を見てる」って言ってた。だからお星さまを見るとね、お母さんと話した気持ちになれるの、おかしいかなー?」


「……いや、おかしくなんかないよ。なにも……」


クロノは小さい声で、けれどはっきりと言い切る。

メイは目に少し涙を滲ませ、何とも言えない表情を見せた。


「お母さんはお料理がすごく得意でね、いつもメイにお菓子を作ってくれたの。メイはお母さんの作ってくれたお菓子が大好きで、おいしいかったから、だからねメイはお菓子作る人になりたい」


「なれるよ、メイちゃんなら」


「えへへ、クロノお兄ちゃんは夢ってある?」


「俺は……」


クロノは星をじっと見つめた。喉の近くまで出かかっている。しかし魚の小骨が喉に刺さったようにあと一歩、出てこない。

分かっている。クロノ自身、夢が。ただ――遠い。

まだほんの少しだけしか人族を見ていないが、それだけでも自分の夢がどれほど遠い事か分かる。クズ王の言っていた通りだった。


(俺は……何も知らなかった)


まるで鳥だ。空を知らない籠の中の鳥。クロノ自身も良く分からなくなり、横目にメイを見た。


メイは子供のような、歳相応の笑顔をしていた。まるで、クロノなら出来ると、そう言っているように。


「俺は……分かり合いたい。知りたい。すべての人種が手を取り合って、幸せな国を作りたい。誰も理不尽な悲しみがない世界を」


小骨が取れた。クロノはすっきりと、自分の目的を再確認できた気がした。


「んー、難しくてメイには良く分からないけど……。クロノお兄ちゃんなら……なんだか出来る気が……す……る」


途切れながら喋るメイを見て、クロノは微笑を浮かべながら、おんぶをする。

背中の上ですやすやと眠る、メイを見てクロノは囁く。


「ありがとう、メイちゃん。それと、お休み」


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