魔王、食料を調達する
ガタゴトガタゴトと車輪の、むなしいような、寂しいような音だけが暗闇にこだまする。
「そろそろ村につくはずだぜ」
魔石灯の小さな明かりが、ぼうっと三メートルほど前を照らす中、ダンは馬の手綱をがっしりと握りながら、独り言のように言った。
「どのくらいの規模の村ですか?」
「はて? 確か二十人くらいの小さい村だったかな。実のところ俺も行ったことがあるわけじゃないんだ。すまねえな、兄ちゃん」
「いえ」とクロノは微笑しながら、返事を返す。実のところ静かすぎるのが、気になって何か会話をしたかっただけなのだ。
「クロノお兄ちゃんは早く村についてほしいの?」
メイは後方の席から身を乗り出した。
「実は……座りすぎて腰が痛くて。それにお腹が空いちゃってね」
「メイもねー、すっごくお腹空いちゃった! ねーお父さん、今日のご飯はなに?」
「それは村に着いてから考えような。お、ほら噂をすれば明かりが見えて来たぞ」
薄暗い夜道の中、強固だとはお世辞にも言えなさそうな、木の柵に囲まれた小さな村が見えた。見たところ木の門に立っている警備の青年も一人しかいない、本当に小さな村だ。
「何者だ!」
青年は馬車が見えたために、怪しいものではないかと思い、木で出来たお粗末な槍を前に向ける。内心では、ビクビクと怖がっており、足の震えも止まらなかった。
「私たちは村で一晩泊めてもらえないかと思い、この村に立ち寄った所存です。どうか中に入れてもらえないでしょうか?」
ダンは警戒されないようにゆっくりと落ち着いた声音で話す。するとそれが功を奏したのか青年は怪訝そうな顔をしながらもゆっくりと槍を下ろす。
ダンの優しそうな顔は警戒されにくいのか、はたまたそのふっくらとした体だから警戒されないのか。
(まあ、多分後者だろうな)とクロノは思った。
「一応馬車の中を確認させてもらうが、良いか?」
「ええ、どうぞ」
青年は許可を得ると後ろの荷台に回り、中を確認した。
「怪しいものではないようだな、では、歓迎するぞ。ようこそラタ村に」
「ありがとう」と言い残し中に入ろうとした時、ダンさんは思い出したように青年に聞く。
「村には料理屋などは……?」
青年は後ろめたいというような顔をしながら首を横に振る。
「すいません、普段ならあるのですが……なにゆえ税が重く……私達で食べる分しかなく、お出し出来るものがないのです」
「お父さん、それじゃあご飯どうするの?」
ぐうう~、と可愛らしい腹の虫を泣かせながら言った。
ダンはメイの頭を撫でながら。
「何かないか荷物を見てみよう……ね?」
クロノはメイちゃんとダンさんを見て、何とかならないものかと、頭をぐるぐると回しながら考えた。
(もしかして、あれなら食べられるかもしれない)
「ダンさん、俺に考えがあります」
「え?」
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「さてと、早速やるか」
先にダンさんとメイちゃんを村の中に入らせた俺は、一人で森の中に入っていた。
食料問題――何か食べられるものはないかと考えた結果、俺は魔物を狩って食べればいいという結論を出したからだ。
魔物は普通に食べられているのだ、ただ村などでは狩れる者がいないので、一般的には穀物が食べられている。
「索敵」
俺は魔力を薄くして広げる。
『索敵』は文字通り相手を探すことが出来る魔法だ。魔力を薄く広げて、その魔力に当たった魔力を持つものの居場所を割り出すことが出来る。
ただ、索敵出来る範囲は魔力の量に比例するため、今の俺ではせいぜい百メートルくらいし広げることが出来ない。
(いた)
運良く近くに見つけられたので、走って向かう。
そこにはマッドボアが体を丸めながら眠っていた。
急いでいたので気づかれないように遠くから魔法で倒す。
「後は……」
一匹だけでは、村の人の分が足りるか分からない。だからせめてもう一匹持ち帰らなければいけないのだ。
そして、後一匹は俺の時空間の中にある。
「ふー、落ち着くんだ……クロノ」
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。魔力が枯渇するのは相当キツイからだ。
「排出――うっ!」
目の前にドシッと2メートルほどのマッドボアが現れる――が、魔力が枯渇したせいでフラフラしてしまい、上手く立てない。
よろめきながら木にもたれかかる。
「流石に……キツ……イ」
気持ち悪いような、地面が反転しているかのような感覚に陥り、頭が張り裂けそうなほどに痛い。
それから十分ほど木に体を預けて休めると徐々に体が楽になってきた、なんとか歩けそうになった。
「お腹空かせて待っているだろうから、早く……帰ろう。あーキツイ」
俺はマッドボアを両手で一匹ずつ持ち、引きずりながら村に向かった。
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