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魔王、出会う


木の上で快適とは、ほど遠い睡眠を行った後、クロノは他の国に行くために道を歩っていた。

クロノは森の中を右往左往と、うろつき回っていたらたまたま道を見つけることが出来たのだ。

どれほど歩けば人のいる場所まで行けるのか分からない、まるで一生終わりのない道を歩いているように錯覚するほどだった。

昨日から、水しか口にしてないクロノはお腹が空いたなー、などとぼんやりと考えながら道を歩いていると後ろから、ガラガラと馬車の車輪の音が耳に届く。

クロノの歩く速さの三倍ほどの馬車がぐんぐんと距離を詰め、横を通り過ぎた。

十五メートルほど走った後に、唐突に車輪を回すのを止める。

生きていることが何らかの方法で露見したと思い、追手だった時のために臨戦態勢に入る。

そんなクロノの期待を裏切るかのように馬車の中からは、危険とは縁遠そうなふくよかな男性が姿を現した。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は別に怪しいものじゃねえ」


明らかに敵意を向けていることに気づいたのか、男性は必死に手を振りながら弁解する。


「では、なぜ馬車を止めたんだ?」


「いやな、お前さんが歩いてたからな。良かったら乗っけてってやろうかと思って止まっただけなんだ」


(本当――だな)


クロノは本心から言っているように感じた。あんなに焦った演技を見たこともないし、出来るとも思えなかったからだ。

なにはともあれ、初めて人間族に向けられた善意は素直に嬉しいし、敵意も感じなかったのでクロノは提案を快諾することにした。


「よろしいのなら、ぜひご一緒させてください。実は道が分からなくて困っていたんだ。それと理由も知らず威嚇してしまい申し訳ない」


「あー、気にするなってあんちゃん。こんなご時世警戒しない方がおかしいぜ」


クロノはきょとんとした顔をする。言っている意味が良く理解できなかったからだ。


「こんなご時世?」


「なんでえ兄ちゃん、ここらの人間じゃないのか?」


(流石に魔族領から来たとは言えないよな……)


「はい、俺は小さい村から出てきたばかりなので」


クロノがそういうと男性はニッと優しく笑う。


「なら、馬車でここらの事を話してやるよ。兄ちゃんも聞きたい事とかあるだろ?」


そう言って男性は一番前の御者席に乗せてくれた。男性と俺だけで座るともう狭いくらいの大きさだ。


「ねー、お兄ちゃんお名前なにー?」


唐突に後方の荷台から幼くて少し甲高い声がした。クロノは、後ろを振り向くと小さな女の子がちょこんと顔を出していた。男性の家族だろうか。


「兄ちゃん、実はなお前さんを乗せようって言いだしたのは俺の娘なんだ。娘の勘は良く当たるんでな」


「そうだったんですか、ありがとう。俺の名前はクロノ・フリーデン、よろしく、えーと……」


男性の娘は無邪気に笑う。クロノは少し堅苦しい挨拶がおかしかったのかと心配になる。

女の子は面白いお兄ちゃんだと思っただけなのだが。

そうしてひとしきり女の子は笑った後。


「メイ・ロンドだよ。メイって呼んで! クロノ……お兄ちゃん?」


元気な子供は可愛いく、自然に口角が上がってしまう。いっそのこと全世界みんな子供なら、争いなんて起こらないで平和なのかもしれないな、なんて思った。


「メイ、クロノさんにあまり迷惑をかけないようにな」


「いえ、僕は大丈夫ですよ。それどころか馬車に乗せてもらってすいません……」


「いや、俺らも遠いとこに行く途中だったからな、ついでだよ」


ニカッと男性は笑う。クロノは良く笑う男性だという印象を持った。


「そういえば、俺は何て呼べばいいですか?」


「ああ、ダンで良いぜ。兄ちゃん」


「分かりました、ダンさん。それで……さっきの「今のご時世」とはどういうことですか?」


俺がそう言うと男性は何かを思い出したようにハッとした表情をする。


「悪い、悪い。話をするって言ってたよな。簡潔に言うと……今の王のせいなんだ」


(あのクズ王か……。確かに碌でもない事をしでかしそうだ)


「今の王は王都付近の村や町に重い税金を設けていてな。そのせいで失業するやつ、逃げ出すやつが多い。俺らもその一人だ」


「なるほど……。というわけは今の王都近辺では、相当生活が困窮しているわけか」


「ああ、その通りだよ。生活が苦しすぎて盗賊や盗みにまで身を落とすやつが多くてな。ここら辺の治安は最悪というわけだ。

上流階級だけが甘い蜜を吸えるという、随分腐った構造になっている」


ダンは苦虫を噛むような表情で、手綱を握りながらゆっくりと話す。

ひどい話だとクロノは思った。やはりあの王はどこまで行っても、腐っているのだろう。


「俺もここだけの話、メイが何も言わなきゃお前さんに関わろうともしなかったよ。触らぬ神に祟りなしってやつだ」


「それじゃあ、メイちゃんにお礼を言わなきゃですね」


「ああ、たっぷり言ってやってくれよ」


「えへへ~」


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