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魔王、勇王になる


(ここは……どこだ?)


魔王は自分のいる場所を把握できていなかった。大きな正方形状の部屋、赤いカーペット、金の装飾が施された悪趣味なほどにまばゆい壁に大理石の柱、これでもかというほど贅沢な部屋だ。

極めつけに部屋の奥は三段ほどの階段があり、その上には玉座にふんぞり返っている男に、大きい杖に黒いローブを深く被った老人(?)が立っていた。


「よく来てくれた、魔王を打ち倒す最強の勇者よ」


玉座に座っていた男が口を開く。


「俺が……勇者? ここはどこだ?」


魔王は困惑していた。急に見知らぬ場所に呼び出され、何かと思えば唐突に勇者などと言われ、自分を、魔王を倒すもの、と言われたのだから。

意味が分からなかったが、情報だけはなんとか集めようと考えた魔王は、自分がいる場所を聞いてみることにした。


「左様。儂はヴェステリア王国国王ロイド・フォン・ヴェステリアである。そなたには魔王を打ち倒してもらいたい。無論魔王を倒した暁には謝礼も十分に出そう」


ヴェステリア王国といえば和平交渉を行った国である。なぜ自分が、ましてや勇者などとして、そんなところに呼ばれたのか魔王は分からなかった。

たんたんと澄ました顔で述べる国王。一方的に要求をするだけの国王に若干の嫌悪感を覚える。


「魔王を倒す……か。魔王はそんなに悪いやつなのか? 魔族は何をしたんだ?」


魔王は正体がばれていない今を好機と思って、情報を集めようとした。

なぜ自分の命が狙われているのか、疑問を抱いたからだ。


「魔王自体は何もしてこんぞ。しかし奴等が人族と同等、あるいはそれ以上の領地を持っている事が許せないのだ。それに魔族は身体能力が高い、故に我らの平和が脅かされるのも時間の問題だろう」


「魔王は……和平を望んではいなかったのか? 魔族は平和を望まないと思っているのか!?」


魔王は魔人族全体を侮辱され、怒りは頂点に達した、がなんとか抑え込み、なけなしの反論を声に絞り出す。


「そなたは鋭いのう。確かに和平交渉などと抜かしてきたが儂がこの場で破り捨ててやったわい。その行為に異を唱えた配下もいたが、即刻首を撥ねてやったぞ。あれは痛快じゃったな」


うす汚い笑みを浮かべ悦に浸りながら人を殺した事を話す、ロイド王は本当に醜く見える。

嫌悪、憎悪、嫌忌、唾棄、憤慨、様々な怒りの、負の感情が頭からつま先までを激しく駆けずり回る。

魔王は気づいたときには口から言葉を発していた。


「この……クズ王が!」


「ほう……儂を愚王呼ばわりするとは良い度胸だ、勇者とやらは」


こいつを今ここで殺したい……、こいつがいるから国が腐る……、争わなければいけなくなる。

魔王はどうしようもない怒りの矛先を、ロイド王を殺すことに向けようとしていた。


(けれど――こいつを殺すのは簡単だ。しかし、自分がこいつを殺せば和平は二度と叶わないかもしれない……。魔族が野蛮な種だと思われるかもしれない)


そんな懸念が魔王の脳裏を蝕むようによぎる。それどころか人族との全面戦争すら起こるかもしれない、そんな葛藤と闘っていた。

魔王は一度静かに深呼吸をして気持ちを落ち着ける。


「俺は……魔人族と人族の平和を望む」


「ふん、この世界に来たばかりの者が偉そうに……。貴様のような何も知らないやつに諭される謂れはないわ」


(この世界……? 勇者は別の次元に存在しているところから呼ばれるのか……? そういえば城の書庫にあった古い本にそんな事が書いてあったような)


ロイド王は苛ついているのか、はたまた魔王を下に見ているのか、魔王を、虫けらを見るような目で見下していた。

一度ため息を吐き、傍らにいるフードを深く被った老人に問いかける。


「おい、魔法使い。こいつの称号はちゃんと勇者なのであろうな? 鑑定してみよ」


老人は水晶のような物を取り出し、それを通して魔王を見るような仕草をする。

数秒それを見た老人はしきりに笑い始めた。


「ほっほ~、ロイド坊よ。こやつは勇者ではないぞ」


「何!? 勇者ではないだと!? なら一体何だ!?」


(まずい……俺が魔王だと知れば総力を挙げて殺しに来る……。そうなれば多勢に無勢、勝てないとは言わないが数で押し切られるかもしれない……)


「……『勇王』ですな。聞いたことも見たこともありませんぞ」


「勇王……だと?」


魔王は自分の称号が『魔王』ではなく『勇王』だということに驚きが隠せず、ぽかんと口を開けている。

対するロイド王は一度ピタリと静止した後、わなわなと体を震わせる。怒り心頭なのが見て取れる。

震える声で魔法使いに問いかけた。


「魔法使い、もう一度勇者召喚はできるのであろうな……?」


低く野太い声が静かに部屋を通り抜けた。その声には多少怒気が含まれている。


「……後もう一度なら、魔法陣も使えますぞ」


ロイド王は安心したかのように、怒り顔を醜い笑みに変えた。

一瞬魔王を睨むとすぐに顔を下に俯く、まるでもう興味がないというように。


「なら、そこの勇王なる者に用はない。城の下水道から流して殺せ。王は二人もいらんのだ」


魔王はロイド王の言葉で警戒を強くし、臨戦態勢に入る。


「お前は本当にクズ王だな。俺がそう簡単に殺されるとでも?」


魔王はロイド王に向かって挑発をする。魔王である自分に単体で勝てるものなど勇者以外にはいないからだ。


「……お前との話にはもう飽きた。魔法使い、やれ」


「ほっほ~、恨まないでおくれ、勇王よ。スリープ!」


老人は背丈ほどある大きな杖を前にすると、瞬間に莫大な魔力が杖に収束されていく。


(こいつ……相当な魔法使いだな。だが、俺に魔法は効かない!)


しかし――急激に魔王の視界がぼやけていく。意識が朦朧となり立つこともできなくなっていき膝をカーペットにつく、そのまま前へと倒れていった。魔王は必死に抵抗するが顔を上げ、前を見ることしかできない。

薄れていくまどろみの意識の中、最後に見えたのはクズ王の下卑た顔だった。


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