ローズ、窮地
盗賊は身体強化を使い、速さを驚異的に昇華させた。
いや、速さだけじゃない、力も、耐久力も、すべてが桁違いだ。
私は立とうと踏ん張るが骨が折れたのか、腕を動かすことも、痛みで立つことさえ出来ない。
そんな私に盗賊はゆっくりと一歩一歩確実に近づいてくる。
「おいおい、終わりなのか!!」
「あがっ!!」
「おねええちゃああああんん!!!!」
仰向けになって倒れている私に、盗賊はとどめと言わんばかりに追撃の踏み付けを行う。
骨がキシキシと不穏な音を立て、確かに私の体を破壊していく。それを見たメイちゃんは恐怖からか絶叫した。
「ほらほら、降参して俺のものになるって言えよ。そしたらポーションの一つでも分けてやるぜ」
一見甘い取引のように聞こえるが、盗賊の物になるなんて死んでもごめんだった。
私は、自分の勇気を奮い立たせるように、痛みに耐えられるように言葉にする。
「私が……メイちゃんを……助けなきゃ……。女の子一人……助け……られないで、私の目的は……達成でき……ない!!」
盗賊はその言葉が気に食わず、イラッとしたのか私の腹を強く、強く踏みつけ、そして喉に盛大なパンチを食らった。
「ああっ!!」
「やああああああ!!」
ガシャンガシャンと檻を鳴らしながら叫ぶメイちゃん。きっとまだ小さいのにこんな怖い思いをするのは想像を絶するのだろう。
(ごめんね、助けられなくて……)
目から一粒、涙が零れた。
「お前なんか! 一人じゃ何もできねーんだよ!!」
大きく盗賊が足を振り上げた。もう動けないし、抵抗することも声すら出すことが出来ない。
(このまま殺されるのか。せっかくこの間クロノに助けてもらったのに……。悪い事しちゃったな……)
盗賊が足を振り下ろした。
「なら、二人ならどうだ?」
(え?)
私の体と盗賊の足の間に足が一本飛び出してきた。
その足は盗賊の踏み付けを阻止し、間一髪私のお腹の前で止まる。
「遅れて……ごめん」
(クロノ……)
サイド クロノ
俺は盗賊の頭領らしきやつが、ローズを踏みつけようとしていたのを間一髪で止める。
「な、誰だ、てめえは?」
「バインド」
「な、動け……ねえ」
盗賊はピタリと動きを止め、目だけをキョロキョロと動かす。
その目は俺に向けられた怒りや、驚きが含まれていた。
初級状態異常魔法「バインド」――相手の動きを止める。
「惨い……」
地面に仰向けになっているローズは見るも無残な姿になっていた。
ボロボロの服、切り傷、顔にまで及ぶ痣、骨折、声帯までもがやられているのがすぐに分かるほどだ。
俺がもっと早ければ……なんてことを思ったが、ひとまず反省なんて後回しだ。
「ライフリカバリー」
中級回復魔法『ライフリカバリー』
ひどい怪我だったので、上級魔法程度を使いたかったが、なにゆえ魔力が足りないのと、回復魔法が苦手で魔力効率が悪い。
だから、魔力も少ない今は中級魔法程度をギリギリ扱えるくらいなのだ。
だが、それでも外傷を治すくらいの力は十分にある。
「あれ……声が出る、どうして……?」
「回復魔法だ。一応動けるとは思うが」
ローズは手を数回にぎり、体を動かす。その一連の動作におかしなところはない。
「うん、大丈夫。回復魔法ってすごいわね……」
「たいしたことじゃない、それと、戦いは俺に任せてくれ」
「なんで! 私も戦えるわ!」
ローズは自分の胸をドンと叩きながら豪語する。
あれだけこっぴどくやられてもまだ戦おうと思えるのは、彼女のメンタルがすごいのか、それともただの怖いもの知らず、どちらだろう。
「見ていろ、って言う意味じゃない。メイちゃんを保護してあげて欲しいんだ」
檻の方向に指を指し、ローズもそちらの方に目をやる。
ひどく目を腫らしている、メイちゃんを見たローズは唾をゆっくりと飲み込んだ。
自分が何をするべきなのか理解してくれたのか、一呼吸を置いて――
「分かったわ、戦いはあなたに任せる。でも一つ約束して」
真剣な目で、まるで俺の内側を覗くかのように俺の目を見た。
「死なないで」
「当り前だ、俺はこんなところで死ねない」
ふふっとローズは笑みをこぼした後、檻の方へと走って行った。
「メイちゃん、もう大丈夫だからな。ダンさんのところに一緒に帰ろう」
メイちゃんは泣き叫びすぎて声が出ないようで、嗚咽をもらしながら首を縦にぶんぶんと振った。
俺は『バインド』で動けなくなっていた盗賊の方に目を向ける。
盗賊は未だに動かない。
「おい、いつまでそうしているつもりだ? とっくにお前が動けるのは分かっているぞ」
悪人という顔が似合う盗賊は口の端をにやりと上げる。
その雰囲気はどこかあのクズ王に似ていて、少しイラッとした。
「お前と戦うために待ってやったんだ。少しは感謝してくれよ?」
「ああ、それが命取りにならないと良いな」
「あんな嬢ちゃん一人いたところで何になるってんだ」
「分からないならいい、知ってほしくもない」
「がっはっは!」
盗賊は笑い初め、ひとしきり笑う。徐々にその笑い声は収縮していき豹変する。
「調子に乗るなよ、クソガキが。決めたぜ、俺は絶対お前で遊んでやる」
「俺は今、メイちゃんやローズがお前なんかに危険にさらされてキレてるんだ。 お前が一方的に遊ばれる、の間違いだろう?」
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