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勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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31話 ドワーフ

 さて、状況を整理しようか。


 リスチェの滞在を許すかどうかを客が訪問しているかどうかを決めようとしたところ客ではなく弟子入り志願者がいたという状況。カオス。


「ふむ」


 赤銅色の肌に深紅の瞳。

 手には指ぬきのグローブをはめていて、服装は身軽そうである。

 そんな少女を見て俺が思ったことはただ一つ。

 いや誰?


「リスチェ、王女志願者らしいぞ」

「え? いや絶対に違いますよね!? というか王位継承権は欲して得られるものではありません!」

「なに!? ということはドラちゃんの方か」

「否定、当機は機械人形。人間が模倣できる領域には存在していない」


 だよな。いや分かってたんだけどさ。


「あ、あの! 表にある魔道具の製作者様、ですよね?」


 少女が言う。

 いや、なんでそれバレてんの。

 ぎろりとリスチェに視線をやる。


「ちちち違いますよ!? アルメリアお姉さまにしか言ってませんし、口止めはきちんとしてますから!」


 口止めって何したんだろ。

 実の姉を脅したのか?

 この王女こわい。


「表にある魔道具って、定点カメラのことか?」

「こ、ここを中心として16点に配置されてる魔道具の事です」

「定点カメラだな」


 防犯の意図もあって設置してるからな。

 そりゃ当然この周辺に配置する。

 そこからこの場所を逆算したわけか。

 なるほどな。証拠にもなりゃしないな。


「あれはあれだ。知り合いの魔道具職人から買い取ったやつだ」

「そうなのですか?」

「否定、あの魔道具の製作者はここにおられるゼクス様」

「うん、なんでドラちゃんが答えてるのかな?」


 そのしたり顔をやめなさい。

 なにも成し遂げてないよ。やらかしただけだよ。

 誇れる要素なんて一つも無いよ。


「お、お願いします。どうか弟子にしてください!」

「え、やだ」

「なぜですか!?」

「我が技術は門外不出。赤の他人に教える事は出来ない」


 決まったな。

 こう言われればどうしようもあるまい。


「でしたらゼクスさん、後継ぎを作りま――」

「作りません。一代限りです」


 変なことを口走ろうとするリスチェの口を塞ぐ。

 今何言おうとした。いややっぱり言わなくていい。

 心と心で通じ合えた。そして却下だ。


「猜疑、ゼクス様の技術は――」

「はいドラちゃんはお口チャックしてようねー?」


 数代前の魔王の技術とか口走ろうとするドラちゃんの口を塞ぐ。とんでもない爆弾発言残そうとしてるんじゃねえよ。


「お願いします!」

「どんな理由があるのか知らないけどさ、話を聞かない子は既にいっぱいいっぱいなんだわ」

「心外ですね。私ほどゼクスさんの言葉に耳を傾けている物などおりませんのに」

「否定、一番話を聞いているのは当機」

「ここで反応する時点で話聞いてない自覚あるだろ君たち二人は」


 ええい。

 リスチェとドラちゃんを混ぜるな。

 話がこじれる一方じゃないか。


「っ、分かりました」

「お? うんうん。物分かりがいい子は好きだぞ」

「ゼクスさんゼクスさん、ここに物分かりがいい子がいます」

「そうか。じゃあ賭けの配当『好きにしてくれ』に対して今すぐ王城に帰れと要求しとくわ」

「それはできない相談ですねぇ」

「聞き分け最悪じゃねえか」


 嫌がる王女を締め出して鍵をかける。

 それだけだと簡単に開錠されてしまうためドラちゃんにドアノブを押さえておくように指示。ふはは、機械人形が押さえる扉を開けられるものなら開けてみるんだな。


『ゼクスさぁぁぁぁん、開けて下さいぃぃぃ』

「よし、邪魔者はいなくなったな」


 今度防音関係の魔道具も作っておくか。

 フー。ToDoリストがいっぱいだ。

 弟子を取ってる余裕なんてないな。


「ゼクス様、ゼクス様に弟子をお取りになる気は無いと理解しました」

「うん。あ、表口はリスチェが抑えてるから二階から飛び降りる?」


 人間は二階から飛び降りても骨折すらしないらしい。安心してGo。


「いえ、私にも、引くに引けない事情があるのです。どうか、お話だけでもお聞き願えないでしょうか」


 そう口にして、少し変わったお辞儀をする少女。

 見たことが無いカーテシーだった。

 どこの生まれだよ。


 うーん、あんまり覗くのは好きじゃないけどな。

 調べておいた方がいいんじゃないか?

 どれ、鑑定っと。


「……ドワーフ?」

「っ、はい。そうです」


 ドワーフとは鍛冶や工芸に秀でた種族だ。

 彼らは岩山に拠点を作ることが多く、町中で暮らしている限りはなかなかお目にかかれない。


 もっとも、勇者や腕利きの冒険者の中にはよりよい武器を手にするために、ドワーフと交友を持つ者もいる。だがその場合もドワーフの里に赴くのが普通であり、ドワーフが人里に下りてくるということはなかなか無いのだ。


 ……なんか厄介ごとの匂いがするな。

 リスチェじゃなくてもはっきりわかる。

 これは関わると面倒なタイプの案件だ。


(でもなぁ、話を聞かないってのもなぁ)


 思い返すのはターニングポイントとなったあの日。

 勇者グレインから追放されたあの日の事だ。


 ――弱者の言葉に傾ける耳なんて持ってないんだろうなァ!


 俺の口から出た言葉なんだよなぁ。


 ここで話を聞かずに断るのは簡単だ。

 だけどそれは、俺が最低だと罵ったあいつらと同じ人間ということになる。それはちょっと、いやだいぶ遠慮願いたい。


「分かった。話だけは聞こう」

「あ、ありがとうございます!!」

「だけど返事はノーだろうけどな」


 肌がピリッと焼き付く気配。

 場の空気が締まった、そんな気がした。


「申し遅れました。リンガネットと申します。ご指摘の通りドワーフの生まれで、現在ははぐれドワーフの身です」

「はぐれドワーフ?」

「はい。ドワーフが成人として認められるには、ある儀式を乗り越える必要があります。族長に自信作を見せ、その作品が一人前だと太鼓判を押してもらわねばならないのです」

「大変そう」


 なんかもう大体見えてきたな。

 おおよそ、その儀式でなかなか認めてもらう作品を作ることが出来ず、流浪の旅に出た。すると魔道具を作成するという職人の噂を聞き、弟子にしてもらうべく足を運んだ。そんなところだろ。


 そんなところだった。

 予想と違ったのは、流浪の旅に出たというところ。どうやら彼女は自分の意志で旅立ったのではなく、里を追い出されたらしい。


「追放?」

「端的に言えばそうなりますね」

「……ふーん」


 いまいち分からないな。

 どうして一度は追放された場所に帰りたいと思うのか。これが俺には分からない。


 村八分にあった時。

 親から勘当された時。

 勇者パーティを追放された時。

 いつだって俺に帰るという選択肢はなかった。


 だから俺には分からない。

 どうしてそこまで帰る場所を求めるのか。


「居場所なんて自分で決めればいいだろ。存外、どこかで見てくれてるやつがいて、寄り添ってくれるかもしれないぞ」

「……私は、帰らねばならぬのです」

「へぇそう」


 席を立ち、試作品置き場に向かう。

 そこから取り出したるは無人航空映像取得魔道具ハチドリのプロトタイプ。新型とは違いバッテリー駆動の物だ。


 試作品ではあるが、売りに出せばそれなりに高額になる品だ。リスチェが言っていたから間違いない。それをリンガネットに渡す。


「これは?」

「無人航空映像取得魔道具、餞別だ。これを作ったって言えばその成人の儀とやらも通るだろ」

「……っ、それでは意味が無いのです!」

「なんでさ」


 帰りたいというのが一番の願いならば、これで何の問題も無いはずだ。別にドワーフだからって鍛冶屋や工芸職人にならないといけないわけじゃあるまいし。里に戻るだけなら何ら問題無いはずだ。


「自分の力で、認めてもらわねばならないのです」


 リンガネットは、力強い眼光でそう言った。

 そうか、なら俺に出来る事は何もないな。


「だったら、誰かに師事するんじゃなくて研鑽を積むことだな」

「ですが!」

「以上、閉廷! 解散!」


 彼女に背を向け言い放つ。


 しばらく、歯ぎしりの音が聞こえていた。

 噛み殺されるんじゃないかって、ちょっと怖かった。


「諦めませんから、絶対……!」


 恨みがこもったような声が響く。

 いやこれ逆恨みじゃね?


 とりあえずドラちゃん、俺が殺されないよう見張っといてくれる? 杞憂だと思うけどさ。

いつもお読みいただきありがとうございます。


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IF(カクヨム)
【短いタイトル】
勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる 畏怖-if-

【長いタイトル】
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
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― 新着の感想 ―
[一言] 誠心誠意全ての情報を伝えず隠し事しておきながら弟子にしてくれなんて図々しいんだよなぁ
[一言] お人よしだから結局愉快な仲間たちに加えてしまいそうな予感。
[良い点] でも結局弟子になるんでしょうねえw そこがいいw
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