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3話 侍女自爆

 王都アストレアから地平線を覗こうとすると、どっちを向いても練り色の城郭が邪魔をする。東西南北にどっしり構えた門をくぐれば広がる草原も、中にいる限りは見渡せない。


 南門から伸びる大通りを少し行くと冒険者ギルドが面している。その裏通りには国営の馬繋場があって、立ち寄ってみると獣の匂いがぎゅっと鼻を刺した。


「……気持ちわる」


 断っておくが、馬の匂いが嫌なわけじゃない。

 勇者パーティで遠征に向かうときは大概馬車を使用していたし、操縦をしていたのも俺だ。触れ合った時間も長ければ抱く親近感だってひとしおだ。


 気持ち悪いと思ったのは、リラたちとの思い出。

 鮮やかだった思い出が色あせるように感じられて、本当に楽しい日々だったのかが分からなくなる。過去という自身の存在証明が頼りなく感じる。


 ――どこかへ、知らない、どこかへ行こう。


 国営の馬繋場の馬はレンタルできて、返却手続きは大きな町ならどこでも可。珍しく国が有能。お世話になるとしよう。


 胡桃色の扉を押して馬小屋に入る。

 木材で出来た建物に、十頭以上の馬。

 一面茶色の室内だった。ただ一点を除いて。


 そこには女性が立っていた。

 白いローブを纏った女性だ。


 フードを目深に被った女性を見て、俺が思ったことはただ一つ。どう考えても不審者だ。顔を合わせないでおこう。二つ考えてたわ。


「すみません、すこしお時間よろしいでしょうか?」

「……すみません、すこしお時間まずいです」


 おい。

 こっちが目を合わせないようにしてるのに気にせず声をかけてくんじゃねえよ。ちょっとくらいためらえ。


「失礼いたしました。何か急用がおありですか?」

「そうです、スローライフが待っているんです」

「時間有り余っているのですね」


 しまった。

 正直が裏目った。


「少々お伺いしたいのですが、馬繋場の馬車を利用された経験はございますか?」


 ふぅ、落ち着け。

 馬繋場の馬車? どうしてそんな事を聞くんだ?

 いや待て、まともに取り合うな。

 顔色が窺えない装いはいくら王都と言えどただの不審者だ。……そうか。謎は全て解けたぜ。


「すみません俺宗教とかはちょっと……」

「宗教要素なんてどこにもありませんでしたよね!?」


 なんだ、馬車教とかじゃないのか。つまんな。


「でも馬車の利用経験はあります」

「んえ? あ、はい……ん?」


 こんなところで油売ってる暇ないんだよ。

 一刻も早くリラから逃げる必要があるんだ。


「じゃあ俺はこれで」

「やっぱり話の流れおかしいですよね!? お待ちください、まだお聞きしたいことが」

「えーそれ時給いくら出ます?」

「お時間は取らせませんから」


 手間がかかってるんだよなぁ。

 どうしよう、すごくめんどくさい。

 話を聞くのも逃げるのも骨が折れそう。

 しつこく追われるよりかは空返事で切り抜けた方が楽か。手短に頼む。


「馬車を利用して危険な目に合ったことはございませんか?」

「危険な目?」

「はい。脱輪した、馬が暴れ出した、ブレーキが利かなくなった。どんな些細な事でも構いません」

「車体がひとりでに動き出すとか?」

「そんなオカルトありえません!」


 それがありえるかも。

 ちょいちょいと、彼女の後ろを指さす。

 そこでは怪異現象が起こっていた。

 そう、車体が勝手に走り出していのだ。


「ひゃぁっ!?」


 突如暴れまわる馬車。

 ふんふん、これがほんとのロデオドライブ。

 はい、ごめんなさい。


「た、助けてください!」

「えー、それ給金いくら出ます?」

「言い値で払いますから!」

「じゃあ俺は拡散しますね」

「いいねではありません!」


 車体が暴れたせいで馬たちも興奮気味。

 いくら頑丈に作っているとはいえ建屋が揺れる。

 冗談抜きでまずいかもしれない。

 助ける助けないを抜きにして、自衛のために解決しようかと思った時、重要な事実に気付いた。


「ふざけてる場合じゃないぞ!」

「あなたが言いますか!?」

「あ、綺麗な小石」

「話を聞――っ!」


 一緒に馬車から逃げていた女性が勢いよくヘッドスライディングを披露する。おお、そんなに綺麗な小石が欲しかったのか……。


「――お嬢様、申し訳ございません……」


 ポルターガイストな車体が白ずくめの女性に迫る。

 倒れたままの彼女は、ぎゅっと目を閉じた。

 運が良くても一命をとりとめるかどうかと言ったところか。


「……はぁ」


 小さく、嘆息。

 右目に手を翳し、開眼。

 灰色に染まる世界、伸びる淡い青光。


 車体に伸びる光の筋を引きちぎる。

 その瞬間、馬車は木っ端みじんに弾け飛んだ。

 大きな音を立てて。


「……ぇ、え? いったい、何が」


 馬も彼女も唖然としていた。

 構わず一番元気な馬に乗り、出口に向かう。

 三十六計逃げるに如かず、ばいきんきーん。


「お待ちください!」

「待てと言われて待つ阿呆がどこにいる!」

「窃盗犯か何かですか!? あ、お待ちくださいっ、助けていただきながらお礼もしなければ王女様に顔向けできません!」

「ん?」

「……あ」


 今、王女とか聞こえたような……。


(え、この人王女の侍女か何か?)


 彼女自身は王族ではないだろう、言い方からして。

 しかし、背後にはおそらく王族がいる。

 彼女はめいびー侍女とかその辺。


 ……やっべー。

 怪しい宗教の信者が関の山だと思っておちゃらけた態度取っちゃったよ。え、これ侮辱罪とかになりますか? 教えて法律に詳しい人。


 よし、全部うやむやにしてしまうか。


「さっきの綺麗な小石やるから元気出せって」

「気を使われるとかえって惨めになります」

「やーいやーい、侍女失格ー」

「っ、口止め料も払いますのでどうか……!」


 安心しろ。誰かに言うつもりもないし、打ち明ける相手もいない。でもまあ、くれるというなら貰ってやらん事もない。


「というか今、何をなされたのですか?」

「んー? あー、そこの付喪神と化してた車体の……青命線を断ち切った」


 どう説明したものかと考えたが、どうせ正確には伝わらないから考えるのをやめた。あの能力は青命線と命名する。


「付喪神? 生命線を、断ち切る……?」


 付喪神というのは、何らかの理由で物が怪物化した妖怪と呼ばれる魔物である。怪物化している以上当然命だってあるし、覚醒した鑑定眼をもってすれば断ち切ることも容易い。


「そ、それは例えばっ、病魔だけを滅殺することも可能ですか!?」

「え、知らない」

「重要なことなのです!」

「つまり関わるなと」

「首を突っ込んでください!」


 あー、もう。冗談だろ?

 勇者パーティを追放されたその日に王族の関係者と遭遇とかどんな確率だよ。しかもあれだろ、この言い方から察するに、誰かお偉いさんが病気なんだろ?


 場合によっては死に至る病かもしれない。

 感染する危険性だってあり得るし、国家機密に触れるとか恐ろしい。となると、俺の取るべき行動はただ一つ。


「……仕方ありませんね」

「ほっ、ようやく話を聞いて――」

「と言うとでも思ったか! 逃げるが勝ちなんだよ!」

「話を聞きなさい!? 馬繋場南門区画封鎖!」

「ちょ」


 彼女が宣言した途端、出入り口に鉄柵が出現。

 しまった、完全に包囲された。

 世紀末覇王ではないこの馬で夢は見られない。


「知りませんでしたか? 国営馬繋場を推進したのはほかならぬ第三王女です。ある程度の権限は譲渡されているのですよ」

「知らなかったし知りたくもなかった」


 もうやだ。

 この子ボロボロとぼろを出す。

 今ので第三王女に仕える人間っていうのが割れてしまってるんですけど。第三王女が危篤なんですね? そういう事なんですね? そんな機密事項をぽろっとこぼさないでください。


 もろもろを聞かなかったことにして、乗っている馬を無理やり停止させる。

 おーよしよし。怖い目に遭ったね。

 悪いのは八割くらいあのお姉さんだからな。

 攻撃を許可する。やっぱやめろ。

 国家反逆罪とかになったらシャレにならん。


「お願い申し上げます。感染するタイプの病ではございませんので、どうか試すだけ試していただけませんか?」

「……高いですよ?」

「命には代えられません」


 国家ぐるみの問題に首を突っ込むかどうか。

 ……まあ、どうするかなんて決まってるよな。


 救えるかもしれない命を見捨てるなんて最低だ。

 聞いてるかリラ、お前の事だよ。

 やっぱ聞かなくていい。どっか行け。


 彼女と一緒に馬繋場南門区画を出る。

 馬は連れて行けなかった。

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【短いタイトル】
勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる 畏怖-if-

【長いタイトル】
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
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