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勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる  作者: 一ノ瀬るちあ/エルティ


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28話 虎口を逃れて竜穴に入る

 プレセアから連絡が入った。

 どうやら王城には隠し通路があって、そこで外部の協力者に引き渡す可能性があるらしい。


 可能性ね……にしては随分と確信を持っていた気がするが。


 幸い、俺の位置から隠し通路はすぐそこだ。

 ドラちゃんには通路の出口の場所を伝え、そちらに向かってもらう。


「っ、何者だ貴様」

「おっとニキミタマ領主様。こんなところで何を?」


 プレセア、お前の推測は正しかったみたいだぜ。


 ちょうど隠し通路からニキミタマ領主が現れる。そばにリスチェの姿はない。姿はないが、ニキミタマ領主の衣服に銀色の頭髪が付着している事に俺は気付いた。鑑定せずともリスチェの物だとすぐに分かる。


 だが、それを指摘したところでのらりくらりと言い逃れられるだろう。こいつが暗転の瞬間までリスチェと接触して無いのは魔道具で記録済みだが、証拠としては弱い。俺の手製だし、捏造の可能性を否めないからだ。会場で付着したものだと言われてしまえばどうしようもない。


「無礼者、格上の物から声をかけられるまで声を掛けてはいけないというマナーすら知らんのか」

「格上? そりゃあ知らなかった。王都アストレアでは犯罪者を優遇する法律でもあるのか? 第三王女誘拐犯」


 そもお前から「何者だ貴様」って聞いてきただろ。


「ハッ、どこにそんな証拠がある。名誉棄損で晒し首にしてやろうか」

「それなら俺は今ここでテメェの首を掻っ切ってやろうか」

「できもしないことを――っ!?」


 眼を切り替えて、奴の青命線を掌握する。

 クリスタルアルラウネの時もそうだった。

 千切らなくても、軽く握るだけでもだえ苦しむ。

 それを俺は確認済みだ。


「あぁあぁぁぁぁっ!? な、なんだ! 何をした!!」


 もう十分だろ。

 こんな奴の光なんざ、指先一寸たりとも触れたくない。それより早く、リスチェを追わなければ。


「首を洗って待ってろ」

「ひぃぃぃぃっ!?」



 隠し通路は暗く、息苦しかった。

 道幅はちょうど恰幅がいい男一人分ほど。何万枚と積み上げられた固焼きレンガが延々と続いている。


「……分岐路か」


 おいおいプレセア。

 そんな話聞いてないぞ。

 大事なところが抜けてるにもほどがあるっての。


「鑑定……するまでもないな。思いっきり足跡が続いてらぁ」


 普段使わない通路だからだろうか。

 床一面が汚れているからこそ、真新しい足跡がよく目立つ。もっとも光の射さない道なれば、普通は暗くて判断できないかもしれない。

 だが、俺は夜目も利くんだよな。


「実行犯は複数か。念頭に置いておこう」


 足音を立てないように、しかしできるだけ早く歩を進める。こんな閉塞的な空間だ。音は鋭く反響する。忍び足でなければすぐに気付かれてしまう。


 呼吸音がやけにうるさい。

 一向に見えてこない出口と影に、不安が込み上げてくる。

 その時だった。


「――――」


 遠くで足音が聞こえる。

 ようやく、尻尾を掴んだ。

 走り出したくなる衝動を理性で抑え込む。

 まだだ、まだ俺の接近を知られるべきじゃない。


 息を殺し、ひっそりと忍び寄る。


 その時だった。

 ガコっという音が鳴った。

 どこから? 俺の足元から。


「誰だ!?」

「っ」


 ……おいおいおいプレセア!?

 聞いてねえぞ!?


 くそ。

 頼む、射程圏内で合ってくれ。


 眼を切り替える。

 世界がモノクロに染まる。もともと黒かったけど。

 そこに、わずかに発光する淡い青を見た。

 これならどうにかなる。


 その青命線を、ひっ掴む。


「ぐぎゃああぁぁぁぁぁ!?」

「だ、誰だ! どこにいる!」


 よしよし。

 飛び道具の気配もなく仲間が倒されたんだ。

 すぐ近くまで忍び寄ってると思うよな、普通は。


「くっ、急げ!」


 しかしまあ、そうすると当然なりふり構わずに逃げ出す。そりゃそうよな。居場所がバレてるのに潜伏する理由はない。とっとと外に逃げようとするさ、誰だって。


 俺は俺で奴らを追いかける。


「追ってきているぞ! もっと速く走れ!」

「け、けどよ、この女重くって」

「文句言ってる暇があったら足を回せ!」


 どたばたと足音が反響する。

 もはや音の発生源すら曖昧だ。

 だが、この状況は長くは続かなかった。


 微かに薄明るくなる通路。

 月光がわずかに差し込んできているのだろう。


「出口だ!」


 曲がり角の先に、青い夜空が広がっていた。

 俺の足では追いつけない。

 俺の足では、だけどな。


「歓迎、お待ちしておりました誘拐犯ども」

「なっ」


 虎口を逃れた彼らを迎え入れたのは、竜穴の主だった。機械人形サンドラ。数代前の魔王の最高傑作。


「検証、第三王女と断定。排除シークエンスに移行する。展開、クロセウスクルテル」


 月光に鮮やかな黄色を宿したナイフが煌めく。

 幾千の刃が罪人たちに向けられている。


「ま、待って」

「却下、慈悲はない」

「ひぃぃぃぃっ!?」


 遅れて俺が通路を抜け出したのは、闇夜に、醜悪な声が響き渡る頃だった。その惨状はまさに死屍累々。あれ? ドラちゃんまた一段と強くなった? いやまあちょくちょくバージョンアップしてるけどさ。


「ドラちゃんお疲れ。助かったよ」

「感謝、ゼクスの役に立ててうれしい」

「あがっ、ぐぎぃぃ、な、なんなんだよお前ら」

「分かってるだろ。しいて言うなら第三王女の用心棒ってところだ」

「だ、第三王女!?」


 ん?

 なんか微妙に話が噛み合ってない気が。


「そんな、お、俺達は養子に出されたただの村娘って聞いて!」


 ああ、なるほど。

 ニキミタマの領主が真実を伝えて仕事させたとは限らないか。単純に考えて、王女の誘拐の援助なんて誰もやりたがらないだろうからな。


 誘拐するという点でゴミクズなのに変わりはないが、まだ貴族になりたての少女の方が気兼ねなく実行できると言ったところだろう。


「できるだけ話は聞く主義なんだが、さすがに現行犯の無実を信じるのは無理があるよな?」

「待ってくれ! 俺達は騙されただけなんだ!」

「頼む、助けてくれ、死にたくない」

「俺の帰りを待ってる子供がいるんだよ」


 這う這うの体で弁明を試みる実行犯ども。

 体中に出来た切り傷からは血が流れ出ている。

 だが、そのどれもが致命傷には程遠い。

 ドラちゃんが手加減してくれたということか。


「そうかよ、運が無かったな。悪かったんじゃない、無かったんだよ。お前らはこの奸計に乗るべきじゃなかったんだ」

「ひっ、わ、悪かった! 知ってることは全部話す」


 矢継ぎ早に口にする実行犯。

 一応黙って聞いてみたが、俺の推測通りだった。


「お前らの証言に、如何ほどの価値がある?」

「そ、それは」


 例えば仮に、ここでこいつらが『第二王女の差し金です』と言ったとして第二王女が罪に問われるか。いや問われない。第二王女が身に覚えが無いと言ってしまえばそれで終わりだ。言葉の重みが違う。


「契約書でも持ってるのか?」

「あ、ありません」

「証言をしてくれる権力者でもいるのか?」

「いません……」

「話にならないってわかったか」


 俺がニキミタマ領主なら自分に結び付く証拠が出ないようにしておく。そして現にそうなった。


「だがまあ、俺はこう見えて優しい性格でな。お前らにチャンスをやるよ」

「ほ、本当ですか!?」

「あ? 俺が嘘つくような奴に見えるのか? ぶっ飛ばしてやる!」

「ひぃっ、お助けを!」

「でゅくし」

「ぎゃーす」


 さて、おふざけはこの辺にしておいて、と。


「ドラちゃん、とりあえずこいつらまとめて確保しておいて」

「承知。展開、フリグラレーテ」


 ドラちゃんが煤色のネットを投擲。

 誘拐犯どもを一網打尽にする。


「さて、忙しくなるな」

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IF(カクヨム)
【短いタイトル】
勇者パーティを追放された鑑定士、第三王女につきまとわれる 畏怖-if-

【長いタイトル】
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
勇者と幼馴染に裏切られた鑑定士だけど、魔族の第三王女に「君が必要だ」と言ってもらえるし結果的に幸せでした。一方で勇者一行は連携が取れずにボロボロらしいけど、無能な俺が抜けたくらいで諦めないでほしい。
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