20話 怪異探し
なんかあの魔族、四天王の一人だったらしい。
え? 俺、そんな奴相手に啖呵切ってたの?
よく生き残れたな。
あれか。奴は四天王の中でも最弱ってやつか。
そのことが判明したのはあの事件から数日後。
すっかり頭から抜け落ちて、平穏な一日を過ごしていた時だった。プレセアから連絡が入り、事の顛末を聞いた。
「つまり、ファクトリアで機械人形が見つかったのが魔族に漏洩。二人の刺客は魔族に雇われた人間。任務はドラちゃんの捜索。で、全ての糸を引いていたのがあの魔族ってことか」
『左様でございます』
なるほど、大体わかった。
要するに一件落着ってことだな。
第二弾、第三弾の魔族がやってくることは想定しない。やってきたらその時考えよう。だから一件落着で間違いない。
そう言えばあの魔族、『てめぇらに情報を流すくらいなら死を選ばせていただきます』と言って舌を噛み切ったらしい。ただし不死だから死ななかった模様。うわ、恥ずかしい。
それからというもの、拷問のペースが上がったらしい。殺しても死なないと分かった以上、加減を間違えるという事は無いからな。
結局、一日と持たずに全部吐いたらしい。
血反吐とかゲロとかもろもろ含む。
汚い。
「ああ、プレセア。魔族はドラちゃんのことをなんか言っていなかったか?」
『……お聞きになりますか?』
「質問を質問で返すな無礼者。リスチェにチクるぞ」
『殿下を愛称で呼ぶな無礼者!』
本人たっての希望なんだ。
「で、魔族は何て?」
『……識別名「サンドラ」は機械人形の中で最も優秀な個体だったようです。そのため当時の魔王は敗勢と判断するや否や、来たるべき時のために「サンドラ」だけをコールドスリープさせたとのこと』
「来たるべき時?」
『人魔大戦が最も過激となる動乱期。ここに合わせて目覚めるようにしていたらしいです』
「えぇ……」
その話が本当だとしたら、この仮初めの平和の終わりが近づいてきている事になる。それは嫌だなぁ。
「確かな話なのか?」
『不死魔族である彼は、当時をその目で見てきたらしいです』
「おじいちゃん……」
一体あの魔族何百歳だよ。
そんだけ長生きしながらどうしてあんなおかしな口調に……。二重人格でも患ったのかな?
それより、問題は動乱がやってくるのか否か。
一応こない可能性も無きにしも非ずだ。
ドラちゃんが復活した時、彼女に掛けられた言霊は識別不可能なくらいに弱まっていた。件の動乱は実はもっと先のことで、緊急事態のために目覚めたという可能性もある。
こっちのパターンを信じておくか。
「ドラちゃんがファクトリアにいた理由は?」
『当時の勇者が魔王城に攻め入った際、ランダム転移の術を使ったとのことです。その際ファクトリア付近に転移し、記憶領域に障害が残ったのかと』
「当時の魔王強くない?」
『それより勇者は強かったわけですが』
少なくともグレインは転移魔法なんて使えない。
というか勇者パーティ随一の魔法使いだってそんな高級魔法扱えない。それを自在に操る魔王を当時の勇者が倒したのだとしたら、それこそ化け物だ。
くぅ、この勇者もコールドスリープしてくれてたらなぁ。
「他には何か?」
『腕を治せとしきりに申しております』
「治した方がいいの?」
『王都を血の海に沈めるおつもりですか!?』
治せっていう話じゃないのか。
ということは本格的に報告するべき内容がなくなったってことかな。
『そう言えばお嬢様から伝言が一つございました』
「え、あいつが伝言? 珍しい。いつもなら来る方が早いのに」
『はい、これからそちらに向かうと……』
「おいいいいぃぃ!? 何それを許しちゃってんの!? プレセアの存在理由全否定じゃん!」
『よろしい。よく正直に言えました。今度会ったとき覚えておいてください』
「これがプレセアの最後の言葉になるなんて、この時の俺は思ってもみなかったんだ」
『勝手に殺さないでください!』
誰も物言わぬ死体になったなんて言ってないでしょうに。俺は単純に通話切ろうとしただけなんだが? 被害妄想やめてくれます?
「色々教えてくれてありがとな」
『最後だけさわやかになられると調子が狂いますね』
「はいはい、切るからな」
通話を切る。
さて、リスチェリカ第三王女殿下が来るのか。
……よし、逃げるか。
森に木材を取りに行ってたとかなんとか言っとけば問題ないだろ。外出用の服に着替えて準備万端。
いざ、門出の時!
「あ! ゼクスさん! ちょうど外出のお誘いに来たところだったんですよ!」
「玄関前待機やめろや」
バンと扉を閉め直す。
あーもう、びっくりするなぁ。
合鍵持ってんのに自宅前待機するのなんなの。
「ちょ、ゼクスさん? ゼクスさーん! ゼクスさんの力が必要なんですー! 助けてくださーい」
「ただいま、留守にしております。ピーという発信音が鳴りましたらご帰宅ください」
「いちゃいちゃしてる場合じゃないんですよ!」
「今のどこにいちゃいちゃ要素があったのか小一時間問いたい」
いややっぱいいや。
小一時間もリスチェの相手をするの疲れるし。
「ゼクスさんとだったら小一時間と言わず何時間でもお話したいですがそれどころではないんですよ」
「忙しそうだね」
「ゼクスさーん、助けてくださーい。今日一日玄関前でゼクスさんの名前を呼び続けますよー?」
「迷惑な奴だな!?」
「ゼクスさーん、ゼクスさーん、ゼクスさーん」
一オクターブ、二オクターブ、三オクターブ高い声で発声するリスチェ。音域テストでもやっているのだろうか。
「三オクターブ高い声であいさつ出来たら勝負は私の勝ち! ゼクスさん、お迎えに上がりましたよ!」
「結局扉開けて入ってくるのな」
「hihihihiC以上は出ないので」
「hihihiEが出る時点で人間卒業だよ」
リスチェの意外な特技を知った。
一応王女だしそういう教育も受けたのかな。
教育を受けた程度で三オクターブ上の音を出せるのかは疑問だが。
「ああ、もう。で、何だよ用事って」
「そうでした! では行きましょうか」
「いや、だからその行き先を聞いてるわけだが」
「怪異探しです!」
「怪異?」
疑問を投げかけるとリスチェが答える。
「超常現象を引き起こしている存在と言えばいいんでしょうか」
「いや、怪異自体は知ってるけどさ」
「そうなのですか?」
「見たことあるし、付喪神とか」
プレセアが引かれかけた馬車の車体とかのね。
昔から異常発達した眼を持っていたから、その手の類の妖怪は結構見たことがある。かまいたちとか、カッパとか。
「見たことがあるとは心強いですね! 実は、東に行ったところにあるニキミタマという町で怪異が発生するっぽいんですよ」
「まだ発生してないんだ」
「事件が起こってからでは遅いんですよ!」
「本当に王女か疑うレベルで活発だよな」
どこからその活力が湧いてくるんだ。
「ということで、一緒に視察に向かいましょう!」
「うん、俺要らないよね」
「必要ですよ! 見えないタイプの怪異だったらどうするんですか!」
「どうするんだ?」
「どうするんですかねぇ……」
見えないということは手の施しようが無いということである。つまり俺が行く必要はない。よって引き籠りを継続。
「行きましょうよー」
「いや、ほら、幼いドラちゃんを放っておけないし」
「年齢で言えば私たちのお婆ちゃんよりお年寄りですよね、サンドラさん」
「女性の年齢は聞かない主義なんだ」
そう言えばそうだ。
ドラちゃんって数代前の魔王に生み出されたんだから俺よりずっと年上じゃん。え、敬語とか使った方がいいのかな。
「サンドラさんもゼクスさんと旅行の思い出作りしたいですよね!?」
「おいいま旅行って聞こえたぞ」
「是認、ドラちゃんも同行する」
「ドラちゃん!?」
この、裏切り者ー!





