12話 魔道具つくるよ!
ドラちゃんの一件から数日経った。
俺はその間、考えていた。
鑑定を最大限に生かせる職業とは何かを。
鑑定士だろという指摘は受け付けない。
俺は手先が器用だ、実は。
ドラちゃんの回路を修繕できたのだって、俺の手先が器用だったことに起因する部分が少なからず存在する。大体1割くらい。残りの9割は鑑定眼のおかげ。
だからこそ、俺は生産職になるべきだと思った。
例えば偶像職人。お手本となる神様の彫像は教会で見たことがあるし、鑑定眼と俺の手先をもってすればスケールの如何に関わらず完全に再現できると思う。
売れなさそうだからやらないけれど。
例えば家具職人。こっちも一つ原型を決めてしまえば後は木目以外まったく同じ品質の物を複製できる自信がある。加えて、一つ一つの単価もそれなりに高いのもいい。売り上げる絶対数が少なくて済むということは人と関わる回数も少ないという事。隠遁生活にはもってこいである。
陶芸家や画家なんかも候補だった。
こうして将来について考えて分かることは、勇者パーティ、というより幼馴染のリラに拘泥していた時はずいぶん視野が狭くなっていたんだなということだった。
俺には人並外れた眼がある。
それをいかす道なんて無数に存在するわけで、わざわざあんな奴らのために身を粉にする必要などなかったのだと今なら思える。
俺には無数の可能性が広がっている。
数多くの輝ける未来。
俺が選んだ職業は、これ。
「てんてれんてんてんてんてーん、テレフォーン!」
「質問、この道具の用途は?」
「これはな、遠くにいる相手と通話する魔道具だ」
魔道具職人である。
今回お試しで作ったのは一対の通信魔道具。
用件がある場合に通話ボタンを押すともう一つの魔道具が共鳴して起動。声という音の振動を対応する機器で再生することで遠隔地にいる相手と通信できるビックリ箱である。
おそらくは世界で初めての遠隔通信手段である。
「質問、ゼクスはどうして魔道具を作れる?」
そもそもの話。
魔道具というのは数代前の魔王が生み出した工芸品だ。そのほとんどは仕組みどころか原理さえ未詳であり、場合によっては用途すら不明の物すらある。
いつかは実用化されるのかもしれないが現在での評価は金にならないゴミ。あえてこれに携わる者なんて知的欲求に囚われた研究者程度だった。
数時間前までは。
「ドラちゃんのおかげでな」
「猜疑、当機には覚えがない」
鑑定眼はドラちゃんに刻まれた魔法陣から魔力回路の仕組みを丸裸にした。原理さえ分かってしまえば、後は創意工夫次第。
これで俺も魔道具作成チョットデキル勢。
「よし、ドラちゃん。王都アストレアっていうところにプレセアっていう侍女がいる。その人にこの通信魔道具の片割れを渡してきてくれるか?」
「御意、いってきます」
これでよし。
*
「ばばん! あなたのリスチェが帰ってきました!」
一切の遠慮なく扉を開け放ったのは、非常に残念ながら、国の第三王女であるリスチェリカ殿下だった。はしたない。
掛けたはずの鍵が開錠されている件にはもはや突っ込むまい。そういうものなんだと諦めた。
「おー殿下、ちょうどいい所に。ちょっと聞いてくれよ。これ、俺が作った魔道具なんだけどさ」
「魔道具を、つくる?」
「そこはどうでもいいんだ。まあ聞いてくれ。なんとこの魔道具な、遠隔地にいる相手と通話できるんだ」
「え、ちょ、少々お待ちくださいませ!? 私は何世紀か未来に飛ばされたのですか!? 知らぬうちに竜宮城にでも拉致されていたのでしょうか?」
「落ち着け」
「みぎゅ」
王女のほっぺを両手でつかむ。
こんなに落ち着きの無いのがよく王女なんてやってられるよな。いや、女王になられると困るから刺客が差し向けられたりしているのだけれど。
ちなみに王都アストレアでの王位継承権は男女にかかわらず生まれた順に序列付けされる。今代は三姉妹であり彼女は末っ子。本来は一番女王から遠い位置に存在するはずだった。
「はれ? でもゼクスさんはお変わりないようですね。ということはやはり時間軸は歪んでいないということですか」
「ようやくわかったか」
「つまりここは、並行世界……っ!」
「話をややこしくするな」
世界線も移動してねえよ。ただこの数時間で技術が大幅に進歩しただけだ。あるいは失われたテクノロジーが蘇ったと言ってもいい。
「むぅ? なんだかおかしな香りがします。お金になるという確信染みた香りと、良くないことが起こるという不吉な香り。これは一体……?」
「美食家の鼻が唸るだろう?」
「せめて舌にしてくださいまし。鼻が唸るってただのいびきではないですか」
王女は逡巡したが、やがて魔道具を受け取った。
それからどうやって使うのかと俺に問い、俺はボタンを指し示して使い方を教える。ワンタッチでだれでもラクラク操作である。
「そういえばゼクスさん。遠隔地にいる相手と通話できるとのことでしたが、相手はどのように指定するのですか?」
「それはだな、通信相手にはこれと対になる魔道具を渡しておくんだ。ゆくゆくは機種ごとに番号を割り振って指定できるように考えているが、今は試作段階だからな」
「ふむ、ということはどこか離れたところに通信相手がいらっしゃるということですね。あ、あの機械人形さんですか」
「いい線行ってる」
どこか離れたところにいるプレセアにドラちゃんが渡しに行ってくれた。
「とりあえず、試してみてくれ」
「わかりました」
ピッとボタンを押下する殿下。
ワンコールどころかすぐさま通話が開始される。
『リスチェリカお嬢様、今どちらに?』
「へ?」
目に見えて王女に冷や汗が流れ出す。
「え? その声、プレセア? え? どうして?」
『ええ、私です。プレセアでございますお嬢様。先ほどゼクス様の使いという方から受け取った次第にございます』
「え? え? え?」
『そのお方の話によりますと、この魔道具は現在世界に一つしかないとのこと。そして、制作したのはゼクス様だと伺っております。さてお嬢様、もう一度お伺いします。――今、どちらにおいでで?』
狼狽していた王女殿下がこちらを見た。
無言で目をかっ開くのやめーや。
「……ゴメンナサイ」
『お嬢様? まだ話は――』
ブツっと殿下が通話を切った。
魔道具の向こう側ではプレセアが怒っていた。
今度は逆に、プレセアの方からしつこく着信が届いているが、殿下は対応するつもりはないようだ。
「……この魔道具を、買い取らせてください」
軽く絶望したような顔で言う王女。
気付いたんだろうなー。
俺がその魔道具を持っている限り、この家を訪問する度にプレセアに告げ口されるって。
となれば、俺に持たせておくわけにはいかない。
どうにか回収する必要があったわけだ。
多分、俺が作ったって部分は忘れているか信じていないかのどちらかなんだろう。
結果、彼女は買収を選択した。
「まいどあり」
いやー、お互いにいい取引が出来ましたね!
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