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カナリア  作者: 藤倉楠之


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26/30

25 緊急呼び出し ――A

 帰宅してからピヨを構って飽きるまで運動させ、お気に入りのタオルでくつろぐのを見届けてからパソコンを開くのが、日課になりつつあった。そこから数時間、フィールドノートを書き起こしたり、分析に必要な項目を洗い出したり、頭の一部分はせわしなく働いているのだが、いったんルートが見えた作業はある程度淡々と進むせいで、僕はその間中ずっとどこかでサトカさんのことを考えていた。


 会いたい。会ったらなんて言おう。たぶん、彼女は何かを怖がってた。あんなにプラクティカルな人が、おそらくは理不尽に怖がっているもの、それは理屈や説得ではどうにも動かせないもののはずだ。彼女自身がたぶんそれに振り回されて困っている。


 どうやってアクションを起こそうか。


 そんなことをぼんやりと考えながら作業を進めていた僕を現実に引き戻したのは、一本の電話だった。


 画面に表示された番号は、大学の警備室。もう庶務課も教務課もとっくに定時を過ぎて閉まっているので、警備室から直接連絡がくるということは何か緊急事態なのかもしれない、と僕は緊張しながら電話を取った。


「はい、吉見ですが」


「ああ、良かった、吉見先生? 今お話ししてもいいですかねえ。警備室の者なんですが」


 声に聞き覚えがあった。学部生の頃から、集中してしまうと作業に切りがつけられず、図書館の閉館や学生食堂の閉店ぎりぎりまで調べ物やレポートを粘って、最後はロビーでメモを取ったりしているうちに閉門されてしまうことがしょちゅうあった。最後は、警備員にあきれられながら、時間外退出の記録簿に名前を書き、通用門のロックを開けて出してもらうことになる。そんなことを繰り返しているうちに、古株の警備員とはなんとなく顔なじみになっていたのだ。

 院生になると、研究のために時間外の出入りが必要な場合も多いので、年度ごとに変わる暗証キーを教えられて通用門は自分で操作するようになるのだが、通りかかる度に会釈やちょっとした挨拶程度は交わし続けていた。ネームプレートに書かれていた名前を記憶の片隅から引っ張り出した。


「大丈夫ですよ。ええと、北門の松井さんですか?」


「あれ、覚えててくれたんですか? 嬉しいなあ、ありがとうございます」


 緊急事態にしてはやけにのんきなその口調に、僕は困惑した。


「何か、うちの研究室で問題が?」


「いや、研究室の方は、残ってられる方はいますけど問題ないです。いや、ちょっと外部からの通報がありまして」


「外部?」


「私がこの電話してるのもオフレコなんですがね、ちょっとご相談が」


 歯切れが悪い。ますます不思議に思いながら、僕は先を促した。松井さんはいつもにこにこして、学生にも物腰柔らかで生真面目な老警備員である。


「五年生の神谷あゆみさんって、吉見先生のところの学生さんですか?」


「神谷ですか? はいそうです。彼女が何か」


 思ってもみない名前が飛び出してきてぎょっとした。


「それがですねえ……」


 続く松井さんの話を聞いて僕は頭を抱えた。やってくれたな神谷あゆみ。


 飲み屋で酔いつぶれ、連れが先に帰ってしまった女子大生らしき客がいる、という通報が店主から大学にあったのだという。会計も済んでいないし、このままだと警察に通報せざるをえないが、どうやら学生のようだし、ことを大きくしても、ということになった。店主が繰り返し声をかけて何とか本人に身分証明書を出させたところ、神谷さんは学生証と一緒に僕が渡した名刺をしまいこんでいたらしい。他に身元を引き受けてくれそうな連絡先を聞き出すこともできず、店主はだめでもともとと大学に電話をかけたという。


 大学にかかってきた電話は、この時間は警備室が受けて、よほどの緊急案件でない限り、基本的には翌日かけ直してもらうことになっているし、この程度のトラブルには関与しないのが通例なのだが。


「神谷さんって、あの子でしょう。くせ毛の、ちぃっと小柄でころころした感じのよくしゃべる子。学部生の頃の吉見先生と同じで、時間外の常連なんですわ。素直でかわいい子で、わしらもなんかほっとけなくってねえ」


 警備室でも、店主が神谷さんの名前と僕の名前を出したとき、ああ、あの子とあいつか、とぴんときたらしい。顔なじみでもあるし、吉見に連絡だけはとってみようか、という話になったのだという。


「わかりました。こちらで対処します」


「本当ですか。良かったなあ。いえね、五年生って、もう就職か進学でしょう。きっと、待ったなしでしょう。もめ事にでもなって、変な話、内定や合格が取り消されちゃったらかわいそうだなあって話してたんですよ」


 その可能性を想定していなかった僕は、背筋に冷水を浴びせられたようにはっとした。確かにそれはまずい。


「すぐに動きます。先方の電話番号か何かわかりますか」


「はい、伺ってますよ。メモよろしいですか」


 松井さんが読み上げてくれた番号と店名を手近な反古の裏に走り書きし、礼を言って電話を切った。目の前のパソコンでブラウザを立ち上げ、店名を検索すると、先月サトカさんと行ったショッピングモールの近くにあるらしい居酒屋がヒットした。電話番号も一致している。


 ちらっと腕時計を見ると、もう八時を過ぎている。普通電車は減ってきている時間だ。急ぐならタクシーを拾うしかあるまい。僕は慌てて外出の支度をし、店の番号に電話をかけた。


「あの、そちらに今ご迷惑をおかけしている神谷あゆみの関係者なんですが……」


 怒っているというより困り果てている様子の人の良さそうな女将に平謝りに謝りながら、僕は家を飛び出した。


   ◇


「すみません、先ほどお電話しましたが」


 僕が名乗りかけると、カウンターの中の女将はいいよという仕草で手を振って、その手で神谷さんを指し示した。


「すぐ来てもらって助かったよ。連れの野郎も帰っちまうなんて人間の風上にも置けん奴だね。あたしが気づいていりゃ、おめおめ帰らせるまねはしなかったんだけど、ちょうど注文が立て込んだときだったみたいで、悪かったわね」


 今日が仕事納めの会社もそれなりにあるのか、店はグループ客で混雑していた。


 神谷さんはカウンターの隅っこの席で幸せそうにぐんにゃりしている。顔色と呼吸は悪くないので、急性アルコール中毒の心配はとりあえずしなくてもいいだろう。


 女将にあらためて謝って会計を済ませ、僕は机に突っ伏している神谷さんの肩を揺すった。


「神谷さん起きて。もう帰るよ」


「あれえ、なんでよしみせんせいがいるんですかあ」


「この期に及んでとぼけたこと言わないでくれよ。トイレは?」


「あーいってきます」


 足元がふわふわしているのを見かねたように、さっとフロア担当らしい若い女性店員が付き添ってくれた。こういう親切な店で本当に運が良かったと思う。警察に突き出されても文句は言えない立場だろう。


 戻ってきた神谷さんを促して店を出た。相変わらず足元はおぼつかない。仕方なく肩を貸しながら、神谷さんが眠り込まないように話しかけ続けることにした。眠ってしまったら、さすがに運べる気がしない。


「彼氏なの? 置いてっちゃうなんてひどくないか」


「いいんですよう。それでだいせいこーです」


「どういうこと?」


「わかれるつもりだったのに、いやだっていうからあ」


 帰りのタクシーを拾おうにも、この飲み屋街の狭い路地では難しい。路地を抜けた先にある、ショッピングモールのある大通りのほうに僕は進路を取った。人でごった返した街は、特に足元のおぼつかない、僕よりかなり背が低い相手に肩を貸した状態ではひどく歩きづらかった。


 これがサトカさんだったらおんぶでもお姫様だっこでも何でもするんだけど。足取りがふわふわしてても、きっとまったく腹も立たないだろう。もっとも、あの野生動物みたいに注意深い人がそんな無防備になるところは想像できない。


 神谷さんが大きくよろけて、僕は慌ててあらぬ方向に向かいかけていた意識を隣の教え子一号に向けた。体勢を立て直そうとすると、腹筋と背筋が悲鳴を上げた。向こうから来ていた男性が、目の前で舌打ちして僕らを大きくよける。申し訳ない。


「えらく深刻な話じゃないか。別れ話だったの?」


「だまってアパートを出て行くつもりだったのに、思ったより早くかえってきちゃって」


 僕は驚いた。


「神谷さん、まさか同棲してたの?」


 神谷さんから今までそんな話聞いたことがない、と思う。別に言わなくてもいいことではあるけど。


 困惑する僕をよそに、神谷さんはけらけら笑った。


「してないですよう。なんでわたしがするんですかー、カレもいないのに」


「ええ? じゃあ、さっきの店で飲んでた人は誰?」


 話が全く見えない。


「アマネちゃんの彼氏ー、言ったじゃないですか、ヒモ野郎」


 そのフレーズが記憶のどこかを引っかいた。つい最近。神谷さんの口からそのフレーズを聞いたはず。


「……アマネちゃんって、ご友人の踊り子さん?」


「当たりい。やっぱり吉見先生、はなしちゃんときいてくれてるー」


「ちゃんと聞いてほしいと思うんだったら今もちゃんと話してくれよ」


 僕はため息をついて、ずるずるとずり落ちかかっていた神谷さんの腕をよいしょと肩にかけ直した。ご友人のお名前は寡聞にして初耳のはずだ。


「で、なんでそのアマネさんのヒモ野郎と神谷さんが飲んでたの」


「だからあ、アマネちゃん逃げるつもりだったんですよう。すごい殴られちゃって、あざができて、お店続けられなくなっちゃって」


「え、ちょっと待って、それいつ? アマネさんは今どうしてるの」


 急に深刻度を増した話に僕は思わず足を止めた。辺りを見回して、少しでもじゃまにならなさそうな、シャッターの降りた店の前に神谷さんを誘導する。


「順々に話しますからー」


 アルコールのせいで痛むのだろうか、頭痛を散らすような仕草でこめかみをもんだ神谷さんは、少し考え込んで話し始めた。


「アマネちゃんはきのうにげてきて、今は私の家にいます。さっき、れんらくきたからだいじょうぶ。とじまりしてあけちゃだめっていったし、ヒモ野郎は私のこと知らないしー。アマネちゃんにも、絶対連絡とらないってって約束させたしー」


「で、そいつはどうしたの」


「飲んでたんですけどー、ないてたから、相談窓口おしえたんです。じぶんでなおせって。アマネちゃんまきこむなって。そしたら、ありがとうって、言って、いっちゃった」


 さっぱりわからない。わからないが、神谷さんが相当無鉄砲な行動をして、危ない橋を渡ったことだけは察しがついた。ヒモ野郎がもっとヤバい奴で、その場で逆上したらどうするつもりだったのか。冗談じゃなく胃がキリキリ痛んだ。にしても。


「どこから手をつけたらいいんだよもう」


 いらだちのあまり毒づくと、神谷さんはしょんぼりした。


「迷惑かけてごめんなさい」


「迷惑よりも、心配をかけてること、危険な行動をとっていることを反省しなさい。命があっただけでもありがたい状況かもしれないんだぞ」


 まずは神谷さんと、そのアマネさんの安全確保。アマネさんをしかるべきプロにつなぐ。ヒモ野郎とやらが反省して、神谷さんの言う通り、アマネさんと縁を切ってくれればそれに越したことはないけれど、こういった案件で希望的観測はしないほうがいい。


「とにかく帰る。アマネさんも心配してるでしょう」


 誰か伝手はなかったかな、少なくとも神谷さんよりは頼りになる女性が関わってくれるといいんだけど、と考えながら、神谷さんの腕をもう一度肩に担ぎ直した。


 このとき僕は、事態がさらにまずくなる状況を想像もしていなかったのだ。


 どうにかこうにか路地を抜けて、大通りにでた。タクシーを捕まえるために、歩道の切れ目を探して僕は顔を上げた。そのとき、ふいに背後から声が聞こえた気がした。


「あき…さね、さん?」


 振り返った次の瞬間、凍りついた。時間が止まった気がした。


 僕と同じくらい驚いた様子で、大きく目を見開いた顔。仕事帰りらしいきちんとしたベージュのコートとビジネス用のヒール靴に、不釣り合いなくらい大きな紙袋を肩から掛けている。


 ずっと会いたくて、会えたときのことを思い描いていたはずなのに、いざ目の前にすると僕ののどは石になったようになんの音も発せなかった。


 サトカさん。


 その手から何かが滑り落ちて、歩道で軽い音を立てた。


 その音に打たれたかのように、彼女の目が涙でいっぱいになった。


「あの、ごめんなさい。おじゃまするつもりじゃ」


 言い終わるか言い終わらないうちに、彼女はきびすを返すと、駅の方に走り出した。


「待って! サトカさん!」


 僕の固まっていた喉がやっと動いたけれど、彼女は立ち止まりも振り返りもしなかった。


 ごめんなさい? おじゃま?

 何のことだ。


 次の瞬間、僕の凍り付いていた脳がやっと事態を認識した。


「最低かよ……」


 神谷さんとの間柄を誤解したんだ。あんな別れ方をしたほんの数日後にこんなタイミングで会ったから。


 全力で追いかけて違うんだと言いたかった。でも、人として、ここでぐんにゃりしてほとんど寝落ちしかかっている神谷さんを置いていくわけにもいかない。


 引き裂かれるような思いで拳を握りしめた僕は、ふと、足元に落ちているものに気がついた。目の前のショッピングモールに入っている大手CDショップのロゴがプリントされた、真新しいポリ袋だった。中に入っていたらしいCDがほとんど飛び出しかかっている。


 見覚えのあるジャケット写真に僕は首をひねった。


 レッド・ツェッペリンのアルバム。以前サトカさんが聞いていると言っていた、〈移民の歌〉が収録されているものだ。気になってその曲だけダウンロード購入したときに目にしたジャケットなので印象に残っていた。彼女自身が持っていないわけがない。なぜ、こんな時間にわざわざこれを買って出てきたんだろう?


「うわっ」


 ふいに神谷さんの膝から力が抜けてよろめき、引っ張られた僕もつられて足がもつれた。うつらうつらしている。何とか体勢を立て直し、僕はCDをショップバッグに収めて拾い上げた。サトカさんが落としたんだからちゃんと渡さないと。それから、話して誤解を解かなくては。


 泣いていた。この前、あれだけストレスがかかっていての今日だ。放っておいてはいけない。


 でも、神谷さんの方も、二人分の面倒を見ないといけない案件だ。


 どうする。どうしたらいい。


 焦りといらだちだけがつのっていく。僕は空いている方の手を髪につっこんでわしわしと引っかき回した。


『きっと、困っています。吉見さんしか助けられません』


 ふいに脳裏に蘇った声があった。


 僕ははっとした。


 そうだ。どの問題が重いとか軽いとかそういう問題じゃない。誰が何をできるか、だ。


 僕は気合いを入れ直すと、タクシーを探して神谷さんを半ば引きずりながら歩道の切れ目に歩み寄った。注意は車道からそらさないように気をつけつつ、ポケットからスマホを取り出して目的の番号を呼び出した。


 数回のコールですぐにつながった。


『もしもし』


「須藤さん、きみと大島に頼みがあるんだ。一生のお願いだ」

 僕は早口で畳みかけた。電話口の向こうの須藤さんは少なからず驚いたようだった。


『なんですか? ずいぶん大げさじゃないですか』


「ちょっと込み入った事情で僕にも情報が全部とれてないけど、神谷さんを保護したところなんだ。神谷さんの友達が困った立場になっているらしい。今、研究室だよね?」


『そうです』


「これから神谷さんを連れて行くから、対応してやってほしいんだ。必要なら大島の手も借りて」


「要は、神谷さんから情報を取るところから、ということですね」


 話が早い。


 向こうから、ルーフのサインライトを点灯させたタクシーが走ってくるのが見えて、僕は合図の手を挙げた。すぐにタクシーは目の前で止まり、後部ドアを開けてくれた。


「ちょっと待って、今タクシー止まってくれたから」


 通話状態のまま、神谷さんを奥側に押し込んで自分も乗り込む。

 行き先を大学の北門と運転手に伝えて、僕は通話に戻った。


「神谷さんの友達は、とりあえず神谷さんの部屋にいて一応安全らしい。デートDVの事案っぽいんだけど、神谷さんが酔っぱらってて、情報が全くはっきりしない。はっきりしないんだけど、緊急性が高そうなんだ」


 須藤さんはため息をついた。


『やってくれましたね神谷あゆみ。わかりました。大島も呼び出して何とかします。大島の知り合いに、その手の問題の支援団体をやっている人がいたはずです。吉見さんは?』


 僕は大きく息を吸い込んだ。


「神谷さんの騒ぎに驚いて、たまたま近くに来ていたカナリアがまた逃げてしまったんで、そっちを保護しないといけなくなった」


 須藤さんは一瞬絶句した。


『……よくわかんないですけど、吉見さんが一生のお願いなんて似つかわしくない言葉を持ち出した事情だけは何となくわかりました。こっちは任せてください。門まで出ます』


「北門に向かってる。警備員の松井さんが少しだけ事情をわかってるから」


 なぜここに警備員の名前がでてくるのか怪訝そうな須藤さんをよそに、僕は電話を切った。すぐにメッセージアプリを立ち上げる。サトカさんからの連絡はなかった。


『今どこですか? 無事にご自宅に帰っているならいいんですが。お話しさせてもらえませんか?』


 送ったけれど、既読はつかなかった。


 年の瀬の道路は混んでいて、タクシーは信号のたびに停まり、ゆるゆるとしか進まなかった。ジリジリと焦り、苛立つ気持ちを抱え、僕はこの後の動きを検討しつつ、目的地に到着するのを待った。


 ようやく北門が見えてきた。門灯の白い明かりの中に、やせて背の高い人影が浮かんでいた。須藤さんだ。


 なめらかに減速したタクシーは、門柱から少し離れたところで止まった。運転手に少し待っていてもらえるように頼んで、僕はうとうとしている神谷さんを何とか後部座席から引っ張り出した。太平楽な寝顔に無性に腹が立った。


 大怪我じゃ済まなかったかもしれないんだぞ。まだまだやることは山積みなんだぞ。わかってるのか。


 でも、困っている人を見たらじっとしていられないのが神谷あゆみなんだろう。そして自分が一番頑張りつつも、ちゃっかりうまいこと周りまで巻き込んで解決に向かわせるのが。なんだか、そういう彼女の巡り合わせがちょっとまぶしいような気もした。


 僕じゃきっとこうは行かない。


「こっち持ちます。松井さんが開けててくれますからいったん中へ」


 神谷さんを車から降ろすやいなや、須藤さんがさっと反対側から支えてくれた。


 門の中に神谷さんを運び込んだところで、須藤さんは僕に、早くいけ、の仕草でひらひらと手を振った。


「手遅れにならないうちに、カナリアさんのほうに」


 やっぱり一言で通じていたか。


「恩に着る」


 僕は言うと、タクシーに駆け戻った。

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