喰らう者
繭のなかから出てきた女郎蜘蛛は以前、ルーンたちと戦闘したときよりは二回り近く小さかったが、本来の大きさを見てないチェインから見れば十分大きかった。
「り、リリスから巨大な蜘蛛だったとは聞いていたけど、ここまでとは…」
「一応この狭いフロアに合わせてある程度の巨大化に済ませたつもりだったのだが…まぁよい。妾は妾のやりたいことをさせてもらうとするかのぉ」
女郎蜘蛛はそう言うと八本脚でクリスタルに近づき、まじまじと品定めするように見ていた。
「これはこれは…今まで見たこと無い珍品だな。クリスタルを準備してくれたものに感謝せねばな」
「お、おい…クリスタルを破壊するなら早くした方が良いんじゃないのか?増援が来るかもしれないぞ」
「ほぉ、ずいぶん潔い良いんだな。さっきまで他の仲間がいるから負けられないと言っておったのに…。でも、心配いらないぞ。クリスタルは妾が美味しく喰らうからな」
「っ!く、喰らう…?それって、その結晶石を食べるってことだよな?」
チェインが確認するように聞き返すと、女郎蜘蛛はチェインの方を振り返りニヤッと笑った。
「あぁ、そうだよ。こういう風にしてな」
ーバリバリー ーバリバリー
「なっ…!」
女郎蜘蛛は浮遊しているクリスタル喰らい、バリバリと音をたてて咀嚼する度にHPバーがどんどんと削れていった。
「う~ん、思ってた味とは違うが…まぁ、美味しいと言えば美味しいし…なんとも言えんなぁ」
「くっ、ここまでか…。でも、こんな化け物に裏切られて負けたらしょうがないか…」
「おっ、そちはもう消えるのか。そちとの戦闘は楽しかったからまた闘いたいのぉ」
「俺はもう嫌だよ。キミみたいな化け物、あと何回変身を残してるかわからないからな」
チェインはその捨て台詞を最後に青い光に包まれて消えてしまった。
「ふぅ~、クリスタルを壊せたから目的達成できたか。なら、クランメンバーにバレないように…【解除】」
女郎蜘蛛は全ての力を解除していつものブランに戻ると外の様子を確認した。
「よし、とりあえず全員ゲームオーバーになってない…。ジャックって人も上にあがってきてないことも考えると師匠も無事か…っ!」
ブランは安心してペタッと床に座った瞬間、地震のような揺れが塔を襲ったのを感じた。
「こ、この揺れは…へ?」
塔を襲っている揺れは次第に大きくなり、塔の内側からでもわかるレベルで外壁が崩れていた。そして、次の瞬間塔はチェインと同じく青い光となって消えた。




