捨て身の策略
「よし、引っかかってくれた!」
「な、何をしてる…」
シルクは自身の胸元を貫いた2本のうち光属性が付与された槍だけを離さずに攻撃させ続けた。
「リリス…私が最後に放った魔法は光属性の魔法だよ。これなら、私のHPは…」
「くっ、槍を離せ…」
シルクのHPは【暴食のローブ】の効果でじわじわと回復していくのを見たリリスは必死に槍を抜こうとしたがなぜかSTRが勝っているはずなのに抜けなかった。
「ごめんね。もう、こっちの方は抜けないようにこれで固定させてもらったよ…」
「それは…【バインドシード】」
「当たりだよ…。これ種を使ったときに出てくる蔦で私とあなたの槍を…っと、準備ができたみたい」
シルクの胸元を貫いて離れない槍と【バインドシード】に気をとられていたリリスは下で弓を構えていたチェインに気がついていなかった。
「これで、戻ってくれ!【リセットアロー】」
「ぐっ…しまっ…!」
リリスはシルクに釘付け状態にされていたため、エイルの放った矢にいとも簡単に翼を貫かれた。そして、次の瞬間リリスの翼が消えてまっ逆さまに落ちていった。
「なっ!やられました…ですが【黒翼】」
「もらったよ!【錬金術師】【身体強化】」
リリスが再び翼を生やそうとした瞬間をエイルは見逃さず、自身のスキルを駆使してリリスの翼を強制的に奪い、自身の背中に真っ黒な翼を生やした。そして、反応が遅れたリリスはそのまま地面に叩きつけられた。
「アニ!今だよ。作戦通り!」
「はい!【底無し沼】【マッドハンド】」
「うっ!こ、これは…」
エイルの指示でアニはリリスの落下した位置に底無し沼を出現させ、土でできた手でその奥底に引きずりこんだ。
「時間稼ぎくらいにしかならないと思うけど、できるだけボクが作った沼のなかでゆっくりしてねリリス」
アニは捨て台詞のようにそう言ってリリスがしっかり沈んだのを確認すると2人に召集をかけた。
「はぁはぁ…2人ならリリスの動きを止めてればなんとかしてくれるって思ってましたよ」
「ごめんね。なんて言えば良いんだろ?その…身体に風穴あいちゃってるし…」
「あぁ、これならすぐに戻りますから問題無いですけど…ぐっ!それはそうとなんでエイルさんがリリスの翼を…」
シルクは胸元に突き刺さった槍を抜きながら質問をした。シルクにとってはあっという間の出来事だったため、いまいち状況がのみ込めていなかったのだ。
「それはボクの作戦だよ。エイルさんの放った【リセットアロー】は当たった相手の持続系スキルにバフデバフ状態異常の全てを無いことにする攻撃なんだ」
「なるほど、だからあの翼が消えたのか…。でも、それだけじゃエイルさんに翼が生えてる説明になってない…」
「そこは簡単な話だよ。エイルさんの【錬金術師】は対象者のスキルを奪って直後、自身のスキルに融合させるスキル。つまり、リリスにもう1度スキルを発動させて【身体強化】と融合させて翼を生やしたんだよ」
「初め聞いたときは驚いたけど、無事成功して良かったよ。あとは、あのリリス相手にどれだけ時間を稼げるか。そして、塔攻略組の方だけど…」
エイルはそう言いながら目の前にそびえ立つ大きな塔をルーンとブランを頭に浮かべ真下から見上げた。そんな平穏な時間も束の間、底無し沼の縁から泥にまみれた綺麗な白い手が這い上がろうとしていた。
「シルク、エイルさん!リリスが沼から上がってくるよ。準備して!」
「「了解!」」
「ふぅ、少々しくじってしまいましたがこれくらい何ともありません。さぁ、続きをしましょう」
沼から這い上がってきたリリスは泥にまみれた姿だったが【天魔再臨】の姿に変わりはなかった。




