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地球最後のほのぼの家族  作者: 若草伽藍
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 私の家族は、人類が滅亡しても恐ろしいほど平和だ

 《14歳の私と人類滅亡の報告》


 14歳の誕生日に私はふと、今まで思っていたことを聞いてみた。それは、私たち家族以外の人間はいるのかという質問だった。強い視線を送る私とは対照的に、父は至って冷静に口を開いた。


 「他の人間はもういないんだ。」


 あまりにも衝撃的だが、日々、脳裏に何となく感じていた、その答えに私は口先だけが機械的に動いて反応した。


 「そっか」


 人類滅亡を示唆するものは、日々、私の周りに転がっていた。例えば、生まれた頃から父と母以外の人を見たことがなかったし、(愛犬は人にカウントしない。)家の外に出ることは許されなかった。プールや、娯楽施設は完備されていたが、幼い頃から利用し尽くした私は、10歳を過ぎた辺りから飽きを見せていた。父と母はすぐさま、別の娯楽を用意した。それは、スマートフォンであった。この電子機器は、つまらない日常を彩るのには十分すぎるものだった。特に、ネコの戦闘アプリには熱中したものだった。しかし、あるところまでクリアすると公式から更新されなくなるのだった。どのゲームも一定のところで更新されなくなることが続いた。母に相談してみることにした。


 「長らく待っていなさい。」


 母はそう答えると私の頭を撫でた。だから、私は我慢することにした。母は偉いねと言いそうな顔をしていた。

 次にはまったのはYouTubeだった。しかし、このアプリをいれてもいいかを相談したら、家族会議をすることになった。会議は、1週間と少し続いた。最後に、父が私の目の前に立って言った。


 「許可しよう。」


 「よかったわね。」


 母も横から私を見て、微笑んでいた。それで、私はおもいっきり父に飛び付いた。父は、ひょろりとした腕でゆっくりと私を受け止めた。

 YouTubeは、音楽という概念を与えた。それ以外の動画は、何かしらの制限がかかっていた。だから、私は、あらゆる場所で音楽をかけていた。私がかけた曲を父は、よく鼻歌で歌っていた。まるで、同じ言語を話していないような歌いか方だった。この時、音楽は私たち以外の人が作っているのだから、彼らは家の外にいるのだと思い込んでいた。しかし、ある時期以降の新曲が出ることはなかった。どのアーティストでも同じことが言えた。だからといって、溢れるほど多くの音楽を聞き飽きることはなかったが、やはり怪しいと思った。

 そして、今日が14歳の誕生日である。プレゼントには重すぎる告白に、聞かない方がよかったかもしれないと思ってしまった。つかの間、母はテーブルに食事を一通り用意した。


 「難しいことは置いといて、とりあえず、ご飯にしましょうか。」


 父は、それに応じて、黙々とポテトサラダを食べた。私は、置いておけるレベルの話ではないと思いつつも、味噌汁を啜った。



 《難しいこと、父のこと》


 昔から父には、欠点というものがなかった。なんでも上手にこなせて、様々なことに精通していた。そんな父を私は、尊敬していた。しかし、突然の人類滅亡の告白をしたあとでも平然とそして冷静な父に内心、恐ろしさも芽生えた。


 「本当に私たち以外の人はいないの?」


 「そうだよ。」


 「じゃあ、なんで音楽はあるの?」


 「それは、過去の人々が作ったからだよ。」


 「いつから人類はいないの?」


 「あなたが生まれる前からだよ。」


 「なぜ、人類は滅んだの?」


 その質問には、父は答えなかった。私は根気よく父を見ていたが、父は相変わらず、ポテトサラダを口に運ぶことだけに集中していた。私はその様子に負けて、質問責めにするのはやめた。とりあえず、私は妙に居心地が悪くて、ようやく一人になりたいという言葉の意味が少し分かったような気がした。もちろん、ドアには開けることのできないロックが掛かっている。

 

 「最後に質問してもいい?」


 「なんだい?」


 「お父さんは私のこと好き?」


 「愛しているよ。」


 相変わらず、父は冷静にそう答えた。何のためらいもなくそう答えるものだから、父のことを信頼してもいいと思えた。現に、人類が滅んだあとにも、こうやって私たち家族は生きているのだから。父がなんとかしてくれるのではないかと思った。相変わらず、父はよそ見もせずに食事をしていた。



 《愛犬と名前》


 3年前の誕生日にそいつはやって来た。朝、目覚めた私に母が微笑んだ。


 「ちょっと来て。」


 「どうしたの?」


 このとき、私は今日が自分の11歳の誕生日ということを忘れていた。だから、朝から呼び出されるなんて何事かと思った。そして、そいつは居間のソファーに座っていた。父の隣に座っていた。


 「この子誰?」


 「犬だよ。」


 父は私にこの子は犬だと言った。しかし、私は犬と言うのは抽象名詞ではなく、この子の固有名詞だと思っていた。つまり、この茶色の生き物は、犬という名前であるのだと勘違いした。


 「名前、どうしましょうか。」


 「犬でしょ」


 というわけでこの犬の名前は犬になった。犬はよく父になついていた。メスだからかも知れない。母には、エサの時間のみ近くにすり寄っていた。私にはというと、まるで観察しているかのようにじっと見つめてくるのだ。視線をはずすために場所を変えてみるのだけれども、相変わらず私を見つめてくる。


 「なんなのよ」


 犬に喋っても仕方がないのだけれども、面と向かって言い放った。しばらく沈黙が続く。母が戻ってきたので、見つめあいゲームは引き分けに終わった。そんな訳で、犬とは微妙な関係が続いた。でも、あんまり悪い気がしなかった。

 14歳を迎えた今では犬もすっかり大きくなった、と喜びたい所だが、あいつはここにはいなかった。


 「あの子はもうダメなのよ。」


 母はそういって俯いていた。父はその横で全てを悟ったように遠くを見ていた。私はああ、死んだんだなと解釈した。それは、交通事故のように突然にやってくるし、風邪のように治るのが早い。

 母は3日後に白色の猫を連れてきた。父は今度は猫にしたんだねと母に笑い掛けていた。でも、私はなぜか笑えなかった。私は父と母が人間ではないような気がした。


 「名前、どうしましょうか。」




 「猫でしょ」


 

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