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デッド・オア・ハーレム  作者: 来夢
デッド・オア・ラブ
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ウンと言わせる交渉術(強制)

「もちろん、生徒会に入るとメリットだってあるよ」

「は、はあ……」

 

なにやら、胡散臭いセールス紛いな話が始まってしまった。


「まず、当然先生たちのウケは良いよ。そりゃもう、バツグンに」

「あー、それはありそうですね」

 

生徒会といえば、優等生の代名詞みたいなイメージすらある。学校側の手が回らないような仕事をする訳だし、教師たちからすれば有難い存在なのだろう。


「頑張ってれば、先生たちから学食の食券とか貰えるよ」

「餌付けですね」

 

メリットなんて言うから一瞬期待したのに。まさかの現物支給だった。


「ちなみに、何故かたいてい麺類なんだよ。私はボルシチ派なのに」

「ロシア人か」

 

麵派とかパン派なら分かるけど、ボルシチて。


「いつだってビーフストロガノフっていたいんだよ。ビーフストロガノフなうなんだよ」

「だからロシア人か。ていうか、なうではないでしょうが」

「柏くんはゴルバチョフ嫌いなの?」

「好きでも嫌いでもないですよ。てか、それは料理ですらないです」

 

いくら生徒会とはいっても、流石に書記長は食べたらマズいだろう。

俺の反応を見た会長は「おかしいな~」と小さく首を捻ると、指を二本立ててみせた。


「そして二つ目」

「あ、一つ目は終わったんですね」

 

もしかして、俺は今の話で釣られると思われていたのだろうか。


「二つ目は……ジャーン!」

 

口から効果音を発し、会長は両手をそれぞれ橘と宮本の方へ向けた。 

指名を受けた当の二人は、何事かと驚いたように目を丸くしている。


「生徒会に入れば、私たちの誰かとお付き合いできちゃうかも!」

「ないです」

「ちょっとなに言ってるか分からないです」

 

会長の言葉は、飛び出すなり即座に撃墜された。

たしかにネジの外れた提案だけど、なにも一瞬で否定しなくても……。

人知れずショックを受けた俺をよそに、会長は宮本に視線を向ける。


「え、なんで? 唯、彼氏とかいないでしょ?」

「そりゃいませんけど……ほら私、今は陸上が恋人なんで。それに……」

「それに?」

 

宮本はふいっと顔を背けると、消え入るような声で呟いた。


「付き合うとか……よく分かんないし」

「唯ってばカワイイ~!」

「ちょっ、緋彩さんっ!?」

 

勢いよく身を乗り出し、テーブル越しに宮本を抱きしめる会長。


「ああ……至福の温もり。いっそ赤子に戻りたい」

「どこ触ってるんですか!?」

 

顔を赤く染め、宮本は胸元に顔を埋める会長を押し返そうとしている。


なにしてんだよこの人……。


堂々と見るのも憚られ目を逸らすと、同じように顔を引きつらせていた橘と目が合った。


「なんですか?」

「いや、別に用とかはないけど……」

「そうですか。ちなみに、私もそういうのは興味ないです」

 

やらなきゃいけないことが多いのでと言葉を続け、橘は再び視線を会長たちへと戻した。


……俺、なんでさっきからフラれまくってるんだろ。まあ、いいんだけどさ。


「う~ん、それにしても柏くんは手強いね」

 

気を取り直して顔を上げると、いつの間にか自分の席に戻っていた会長が悩まし気に腕を組んでいた。


「俺はなにもしてないんですけどね」

「食欲でも性欲でもダメとなると、最後の欲求に語りかけるしかないね」

「せ、性欲とか言わないでください。あと、会長が授業中の居眠りとか許可しちゃダメですよ」

 

ほんのりと頬を染めたまま、宮本が会長を嗜める。


「冗談だってば。それに許可なんてしなくても、体育科の柏くんは既に居眠り放題してるでしょ?」

「凄い偏見持ってますね……。まあ、してますけど」

 

体育科は、その名の通り体育の授業が多めに設けられている。

疲れた体で受ける古典なんかは、もう催眠術にしか感じない。


「うんうん、正直だね。そんな柏くんに良い事を教えてあげよう。耳を貸してごらん」

「?」

 

ちょいちょいと手招かれ、俺は身体を傾けるようにして会長の方へ耳を寄せた。


「生徒会はね、先生方のウケが凄く良いんだよ」

「それはさっきも聞きましたよ」


聞くには聞いたが、麺類の食券にそこまでの魅力は感じない。


「よく考えてごらんよ。先生のウケが良いってことは、当然学校側の評価も上がるってことなんさ」

「?」

「つまり、推薦や指定校枠も使える可能性が高くなるんだよ」


耳元でそっと囁かれた艶のある声に、二重の意味で背筋がゾクッと震えた。

そんな俺の反応を見た会長は、満足気に目を細め、身体を離していく。


……ああ、メリットってのはそういうことか。


ここまで話を聞いて、俺はようやっと会長の言いたいことを理解した。


この学校、静和高校の進学率は毎年ほぼ百パーセントだ。つまり、特進科・普通科に限らず、俺たち体育科の生徒も大学への進学を前提に入学している。


一般的に、大学入試というのはセンター試験と個別試験の結果によって合否が決まるため、高校受験のように学校の成績を気にする必要はない。


ただし、それは普通に受験する場合の話だ。俺たち体育科は少し事情が違ってくる。

部活で成果を出し、大学から声を掛けて貰う。もしくは指定校推薦を使って大学でも部活を続けるためには、学校の内申点が合否を大きく左右する。

 

特に指定校推薦に関しては、内申点が上位の生徒ほど選択肢が多くなり、例え希望が他の生徒と被ったとしても優先される傾向がある。

 

体育科はどうしても部活が学校生活の軸になってしまうが、先々を考えれば内申点、つまり学校側に評価されるという点は決して蔑ろにできるものではない。


「で、どうする? まあ、拒否権は無いんだけどさ~」

 

お気楽な調子でそう言うと、会長は俺に紙を一枚差し出してきた。


「なんですか、これ?」

「えーっと、なんて言うんだろ。受任通知?みたいなもんかな。形式上、一応学校側に提出するから」

 

机の引き出しから印鑑を取り出し、あらかじめ記入してあった自分の名前の横に押印する会長。どうやら、断られることはハナっから考えてもいないらしい。


「ははっ……あんた、めちゃくちゃだよ」

 

尊大とも奔放とも取れる会長の言動に、思わず笑いが零れる。

一瞬迷ったが、俺は机の上に無造作に置かれたボールペンに手を伸ばした。

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