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デッド・オア・ハーレム  作者: 来夢
デッド・オア・ラブ
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生徒会長・橘緋彩

今日二度目の訪問となった生徒会室は、朝と変わらず厳かな空気に包まれていた。というか、これが本来あるべき教室の姿なのかもしれない。体育科は賑やか過ぎる。


「それ……また襲われたんですか?」


ゾンビたちにもみくちゃにされた俺の制服を見て、嫌そうに顔をしかめる橘。


「仕方ないだろ、あいつらおかしいんだ」

 

頭が。


「私が助けてあげなかったら、今頃はまた妖怪イス人間になってたかもね」

「誰が妖怪だ、誰が」


そもそも、俺が午前中の大部分を椅子と同化して過ごしたのは、この二人が朝の時点で縄を解いてくれなかったからだ。


「というか、唯先輩が助けられるなら私は朝行かなくてもよかったんじゃ……」

「適材適所ってやつだよ。それにしても、緋彩さん遅いねー」


頭の後ろで腕を組み、宮本は所在無げに足を揺らした。


「いつもはすぐに来るんですけどね」

「ほんと、なにしてるんだろ」


生徒会長がいないと話が進まないということなので、俺は椅子を窓際に移動させ、外の景色に目を向ける。黙ってても気まずいし、なんか疲れたし、ぼーっとさせてもらおう。


風に当たりながら微睡むことしばし、校庭のサッカー部から何度目かのホイッスルが響いたところで、ようやっとお目当ての人物が現れた。


「いやっほ~」

「あっ、やっと来た」

「ん?」


能天気に片手を上げた生徒会長は、宮本に声を掛けられると小さく首を傾けた。


「唯ってばどうしたの? 怒ってる?」

「いや、怒ってはないですけど。緋彩さんこそどうしたんですか? 今日は珍しく遅いし、朝も来ないし」

「いやーごめんごめん。ちょっと色々手間取っちゃってさ」


申し訳ない、と両手を合わせる生徒会長。

当然俺は面識がないが、全校集会などで度々姿は見かけている。


「まあ、いつもは私が一番乗りだし、たまには許してねっと」

 

空いた席に勢いよく腰掛けると、会長の目が窓際の俺に向けられた。


「おっ、もう来てるじゃないか。優秀だね~」

「なんなら朝から待ってますよ」

「うんうん、ツッコミも良い感じじゃないの。それじゃ、さっそく始めようか」


満足気に頷く会長が手を叩くと、宮本と橘は椅子をガタガタと移動させ、中央の大きなテーブルを囲うように席に着いた。一人窓際にいるのも決まりが悪いので、俺も宮本の正面の空いた椅子に移動する。


「さて、それじゃ今日の議題を発表します」


会長はそう言うと、設置されたホワイトボードにペンを伸ばした。

でかでかと書かれた文字は“柏虹輝くん、着任おめでとう”


「議論する気ないじゃないですか」

「おめでたくもないです」


書き上がるなり、即座に指摘を入れる宮本と橘。

二人に釣られた訳ではないが、一応俺も小さく手を上げる。


「そもそも俺、なにも聞いてないんですけど」

「大丈夫、今から説明するよ」


会長はそう言うと、よっこらせと妙におっさんくさい声を出しながら席に座った。


「まず、柏くん」

「は、はい」


不意に名前を呼ばれ、自然と背筋が伸びる。

年上の女子と話すこと自体が久々で、緊張というか、どうにも変な感じがする。


「生徒会のメンバーって、どうやって決まるのか知ってる?」

「どうやってって……選挙じゃないんですか?」


生徒代表の人間を、流石にジャンケンでは決めないだろう。

俺自身、去年の秋ごろ投票用紙に○とか×とか記入した覚えがある。


「うん、そうだね。でも、選挙で決まるのって生徒会長だけなんさ。他のメンバーは会長に任命権があって、好き勝手決めていいってわけ。まさに独裁」

「独裁とか、自分で言っちゃうんですね」


不穏な単語を放った会長は、自分で言ったことにけたけた楽し気に笑っている。


……でも、そういやそうか。


言われてみれば、宮本が選挙に出ていた覚えはない。

全員を選挙で決めるのだとしたら、入学間もない一年の橘が生徒会にいるのもおかしな話だし。


「私が当選したときに唯を副会長に選んだでしょ? それで、最後まで手伝ってくれてた先輩が卒業しちゃったから、四月からは姫乃にも入ってもらったってわけさ」

 

行儀よく座る橘と退屈そうな宮本を指差し、会長は言葉を続ける。


「事務的なことは三人でどうにか回してたんだけど、ここ最近どうにも手が回らないことが多くなってきてね。力仕事もそれなりにあるし、ここいらで男子の役員も入れようって思ったのだよ」


私ってば頭良い~と舌を出す会長。

そのおどけた様子を見て、宮本は得心がいったかのようにポンと手を叩いた、


「あー、柏くんってそのために入ってもらうんですね」

「そうだよ。言ってなかったっけ?」

「聞いてませんよ。だいたい、男子が入るって私たちが聞いたときには、もう先生に話通しちゃってたじゃないですか~」

「なんなら、その男子が柏先輩だということを聞いたのは金曜の放課後です」


補足するようにそう言うと、橘は小さく息を吐いた。

……おいおい、マジで独裁じゃねえか。


「なんとなく話は分かりましたけど。で、なんで俺なんですか?」

 

現メンバーの負担軽減という名目で男を入れるというのは分かった。

分からないのは、それが何故生徒会に縁もゆかりもない俺なのかということだ。

突然訳も分からず指名され、逆恨みで縛られた。その理由が知りたい。


「それはアレだよ、ほら、この前の中間テスト」


毛先を指で一回転させ、会長はつらつらと言葉を続ける。


「ゴールデンウィーク明けのテスト、キミ体育科で1番だったでしょ?」

「あー……そういやそんなのありましたね」


怖いぐらいにヤマが当たって、どの教科もそこそこ良い点数が取れたのは覚えている。

ただ、点数自体は完全にマグレだし、順位だってあくまで体育科内での話だ。

特進科はもちろん普通科と比べても学力は数段落ちるだろう。


「まあ、細かいことはどうだっていいんだよ。生徒会の体面上そうするってだけで、別に誰を任命しようが私の自由なんだし」


怪しく目を光らせ、会長は口元に笑みを浮かべた。


「それに卒業した先輩から聞いたんだけど、この学校が共学になった時にも同じような理由で男子が生徒会に入ったことがあるらしいんだよ」

「え、そうなんですか?」


女子9割の学校だし、そういう重要なポストは女子がやるもんだと思っていた。


「日に日に生傷が増えていって、卒業する頃にはランボーみたいになってたらしいけど」

「完全に襲われてるじゃないですか!?」

 

どう考えても、嫉妬に狂ったシバリストたちの仕業だ……。いや、だからシバリストってなんだよ。


「大丈夫っ!」


思わず渋い顔をした俺に対し、会長はぐっと親指を立てた。

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