会長不在
黒板に貼ってあった掲示物はどこまでもシンプルで、どこまでも説明不足だ。
少なくとも、俺はなにも聞いていない。
「それは会長から説明があるはずなんだけどねー」
長い脚を組んだまま、宮本はチラッと視線を上に向けた。
壁に掛けられた時計の針は、既に八時を回っている。もうすぐ朝礼が始まる時間だ。
「その会長がまだ来てないんだよね。姫乃ちゃん、なにか聞いてる?」
「聞いてません」
ふるふると首を横に振る橘。
「全く緋彩さんってば、自分で呼び出しといてどこほっつき歩いてるんだか」
「私から連絡しましょうか?」
「うーん……いや、いいよ。多分、職員室か部室で捕まってるんでしょ」
そう言うと、宮本は飛び跳ねるような動きで椅子から腰を上げた。
橘も取り出したスマホをスカートのポケットに仕舞い、静かに立ち上がる。
「んじゃ、そういうことで今朝の活動はおしまい。かいさーん」
「お疲れ様でした」
「お疲れー。姫乃ちゃん、朝から面倒事押し付けちゃってゴメンね」
「いえ、それより例の件、よろしくお願いします」
「分かってるよー。それじゃ柏くん、また放課後になったらここに来てね」
テキパキと机の上の書類を片し、宮本はすれ違い際に俺の肩を叩く。
「…………お、おう」
俺がワンテンポ遅れて返事をしたときには、もう二人の足音は廊下へと消えた後だった。
「あ、縄……」
人通りの少ない、校舎の五階。どこか神聖な雰囲気もある教室の片隅には、椅子に縛り付けられた俺だけが取り残されていた。