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アリとイノシシとニンゲン

作者: 佐藤列

 木造住宅の床下にはおぞましき姿のアリが住んでいる。夜眠っていると微かにカサカサと乾いた音が聞こえてくることがある。やつらが活動しているのだろう。やつらは私たち夫婦の肉を狙っている。けれど私たちには大根がある。アリは大根おろしの臭いが大嫌いなのだ。私たちはそれを知っている。だから計画的に大根を育て、下ろし金の手入れを怠らないように生活をしてきた。

 家の大根が無くなったので、雪の下に保存していた大根を取りに行った。大根は残らず消えていた。

 イノシシのやつに違いない。私たちとイノシシの関係は悪い。畑を荒らすので、罠を仕掛けて生け捕ったりしている。私たちにはイノシシ鍋はごちそうだ。アリとイノシシが手を組んだのだろう。賢しらなイノシシのやつがこのプランをプレゼンしやがったに違いない。イノシシが大根を食い尽くす。アリはニンゲン食う。私たち以外は誰も困らない。

 空は昼とは思えないほど薄暗い。吹雪になるかもしれない。助けを求めようにも山を一つ超えなければいけない。吹雪いてしまえばどうすることもできない。

「僕たちはアリと戦えるだろうか」

僕は妻に問うた。

「戦えるならもうとっくの昔に滅ぼしてるわよ。私こんな寂しい土地でアリに食べられて死ぬなんてイヤだわ」

「大丈夫。僕がなんとかしてみせるよ」

僕の言葉に妻の返答はなかった。

外は風と雪が渦巻いているようだった。家がガタガタ揺れ、隙間風が入ってくる。

「アリと契約をしましょう」

と妻が言った。

「アリに言葉なんか通じないよ」

と僕は言った。

「契約に言葉は要らないわ」

そう言って妻は台所に立った。干してあるイワナの干物を持った。僕は吹雪の中外へ出て、床下にそっと投げ入れた。

 その晩とうとうアリは現れなかった。アリはイワナの干物に満足したようだ。そのようにして私たちはかりそめの平和を手に入れた。

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