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2 とある巨人の初戦闘

 俺と対峙する醜い小男たちは体格に見合った小さな剣を構え直した。戦闘する意思は消えていないようだ。

 ダメか。出会い頭の「コンバンハ」は結構ズッコケる物なんだけどなぁ。


 まったくぅ、こっちは素手なんだぜ。

 ま、俺のビッグブーツはこいつらにとっては馬鹿でかいハンマーみたいな物だろうけど。


 彼らは俺を囲むように移動し始める。

 戦いを避けるのは無理だな。

 俺だけならともかく、後ろの娘さんが襲われたら厄介だ。

 そう思った時、俺はようやく小男たちの頭に小さなツノが生えているのを発見した。小男ではなく小鬼だったようだ。してみると、俺は生き返ったのではなく地獄落ちしたのかもしれない。


 俺はこちらから見て一番右の小鬼に向かって踏み込んだ。

 大股の素早い一歩。

 そのまま体重を込めた蹴りを打ち込む。

 小鬼は避けるそぶりも見せずに吹き飛んだ。


 俺が攻撃するとこういう事がよく起きる。

 多分、俺の身長が高すぎるのが原因なのだろう。俺の一歩は普通の人間の一歩より、かなり大きい。俺が普通サイズのように錯覚していると、一歩踏み込んだだけでは到底詰められない距離を一瞬で近づかれる事になる。小鬼サイズからなら錯覚も一際だろう。

 決して「自分から当たりに来てくれてる」訳では無いのだよ。


 俺は反転して二人目三人目を文字通り蹴散らした。

 ん?

 小鬼の数え方は「ひとり、ふたり」で良いのかな?

 ま、柱で数えるような相手ではないし、どうでも良いか。


 四人目がようやく俺に反応した。

 小振りの剣を振り上げる。

 剣には錆が浮いていた。手入れが悪いと怒りたくなるが、敵を病気にする為の戦略かもしれない。侮るのはやめにする。

 俺は手を伸ばした。剣を持ったその手を捕まえる。

 河津掛け、河津落としへと繋ぎたくなる体勢だが、それをやるには相手の身長が足りない。それに敵が他にもいる状況では、自分も倒れる技はリスクが大きい。

 俺のいつもの技ではないが、ワンハンドのボディスラムで小鬼を叩きつけた。やつは腰を強打して悶絶する。


 最後の一人は逃げ腰になった。

 俺がちょっと威嚇してやると、剣を放り出して逃げていく。


 卑怯?

 臆病者?


 あまりそう言ってやる物でもない。

 一対五から一対一へ。まるで勝負になっていないのだから逃げるのは合理的だ。俺と小鬼とでは大人と子供以上の体格差がある。だから、剣にさえ気を付ければ勝てるのは当たり前だ。


「ブギャッ」


 だが、そう思ってくれない者もいたようだ。

 逃げる小鬼が粗末な民家の陰に隠れようとしたとき、その肉体が叩き潰された。血肉の塊となって飛び散る。

 それをなしたのは巨大なこん棒だった。

 こん棒の持ち主が民家の向こうからのっそりと姿を見せる。


 デカイ。


 俺よりは身長が低い。が、それでも190センチはあるだろう。身体の厚みは俺よりも上だ。体重は俺と大差ないぐらいか?

 肉が少々たるんでいるのが気になる。

 恵まれた体格の上に胡坐をかかずにもう少しトレーニングぐらいしろと言いたくなる。

 いや、こいつは俺の弟子ではないし、プロモーターとして呼んだ選手ですらない。気にするような事でないのは承知しているのだが、つい、癖でな。


 気が付くとこいつの頭にも角があった。

 小鬼に対して大鬼という訳か。


 大鬼はゲヘヘと笑いながら、血肉にまみれた棍棒を引っさげて近づいて来る。

 小鬼を殺したからと言って別に味方ではなさそうだ。


「姫、無事ですか!?」

「姫、お逃げを!」

「そこの化け物、姫から離れろ!」


 お、今度は本物の味方がやって来た。俺じゃなくて娘さんの味方だけどな。「化け物」って言うのは俺のことかい? 傷つくな。

 新しく来たのは三人のいかにも「兵士」という感じの男たちだった。

 似たような感じの鎖帷子を着込み、剣や斧で武装している。


 兵士たちは俺を警戒しながらも大鬼を取り囲んだ。

 熟練した兵隊さんの動きだが、微妙にへっぴり腰。大鬼の事を恐れている様子がうかがえる。

 対して鬼の側は余裕たっぷりだ。

 これはさっきの俺と小鬼たちの関係の相似形じゃ無いか? 違うのは俺がさっさと包囲を突き崩したのに対して、大鬼はその場で迎え撃つ様子な点だ。


 鬼の正面に立つ兵士がフェイントをかける。

 鬼は動じない。

 左右の兵士が同時に攻撃をかける。

 鬼は自分の右側から攻撃だけに反応した。剣と棍棒がぶつかり合い、剣のみが折れ飛ぶ。

 左の兵士の攻撃は鬼の皮を裂き、肉を抉った。


 この攻防は引き分けかな。


 兵士の一人が武器を失ったが鬼も流血した。時間を稼げば出血で体力を奪える。

 そう思った。

 実際には大鬼の傷口はすぐにふさがった。ビックリだ。まるでカメラを逆回しにしたような速度で傷が消える。既に流れ出た血までは戻らないが、あの体格からすればあの程度はダメージとも言えまい。


 攻撃が効かないのでは兵士たちに勝ち目はない。

 斬りかかるそぶりを見せても牽制にもならないのだから。


 正面の兵士が下からすくい上げるような一撃を食らって吹き飛んだ。

 飛んできた身体を俺がキャッチ。これは肋が折れているな。内臓も損傷しているかもしれない。俺は彼をその場に横たえる。


「あとは任せろ」


 大鬼は俺と娘さんを敵視している。ここで逃げ出すのは悪手だ。既に鬼たちを敵に回している上にそれと戦っている人々にも敵視される事になる。

 もしここで起こっている戦いが「人間vs人外」であるならば、俺が「人外」側にカウントされる可能性も考慮しなければならない。この背の高さには昔から散々泣かされているが、「ジャイアント」だからな。上手く立ち回らなければアメコミのダークヒーローコース待ったなしだ。

 試合が終われば普通で居られる悪役(ヒール)とは訳が違う。


 俺が前に出ると、まだ立っている二人の兵士が後ろに下がった。

 一人は倒れた兵士の看護にまわり、もう一人が娘さんをガードする。


「オーガー相手に素手でなんて無理です!」


 娘さんが叫ぶが、俺は剣なんか使えない。

 ま、何とかなるだろう。


 俺は両腕を前に突き出して構えた。

 鬼が嗤った。

 デカイ棍棒をグルグルと振りまわす。

 アレに当たったら痛そうだ。パイプ椅子とは比べ物にもならない破壊力だろう。俺なら即死はしないと思うが、当たりどころによっては危ない。


 こちらの蹴りが届かない間合いから棍棒が打ち込まれる。

 俺は回避する。

 兵士たちの敗因の一つは鎖帷子を身につけていた事だろう。鎖帷子では重い鈍器に対しては有効な防御足りえず、ただの重しにしかなっていなかった。裸の俺ならば棍棒ごときを避けるのはたやすい。


 棍棒が通り過ぎた後を狙って踏み込む。


 蹴りやチョップで相手をするのも良いが、武器を持った相手に打撃戦を挑むのはリスクが大きい。

 打撃戦の間合いを素通りして、組み打ちに持ちこむ。

 鬼の角による攻撃も少しだけ警戒するが、たぶん大丈夫だ。頭蓋骨の形状が人間のそれに準じるのならば、あの角に飾り以上の機能はないはず。下手な使い方をすれば、あちらの頭蓋のほうがもたない。


 肌が密着するほどの至近距離。鬼が驚いた顔をするが、プロレスならば普通の距離だ。


 鬼に絡みつくように立ち関節技に入る。プロレス技としてはポピュラーな部類だが、こちらでは知られていないだろう。

 知らない技に対しては対処が遅れるものだ。あっさりと技が完成する。


 俺は打撃技がメインの印象を持たれがちだ。あとは独特の投げ技を使うとしか思われないが、実は関節技もちゃんと使える。そして、俺の長い手足はうまく使えば関節技の威力を何倍にも高められる。


 俺は大鬼の身体を絞り上げ、ねじり上げた。

 鬼は呻く。

 傷口の治癒能力はすごいが、関節技の痛みはちゃんと感じるようだ。


 鬼の手から棍棒がポトリと落ちる。

 鬼はもがくが、一度極まってしまった関節技はそう簡単には外せない。ギブアップしろ、と言おうとして俺はそれがまず有り得ない事だと気づいた。殺し合いの最中にギブアップはない。


 俺は大鬼を締め上げる腕の位置を変えた。

 プロレスの試合ならばまずやらない行動。意図的に相手の頸動脈を締めにいく。


 この大鬼も生き物ではあるようだ。

 それも人間と大差ない構造を持った生き物だ。ならば脳への酸素の供給の途絶は致命的な結果をもたらすはず。


 大鬼は落ちた。


 その体から力が失われ、ぐったりとなる。

 俺はそれが擬態である事を警戒し、今しばらく締めを継続した。そして、ゆっくりと技を解く。

 大鬼は意識がないことが明白な動きで、顔面から地面にぶっ倒れた。


 レフリーは居ないが俺は右腕を挙げた。


 観客は居たはずだと振り返る。


「……」

「……」

「……」


 彼らは顎が落ちるのではないかと心配する程に、あんぐりと口を開けて俺を凝視していた。

 いや、俺は長年にわたってコレで食ってきた人間だからね。鬼が相手だってこのぐらいの事は出来るよ。

 だから娘さん、はしたないからそのお口を閉じなさい。

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