さがしもの
探し物は、探している時に見つからず、急なタイミングで見つかることがよくあることである。
「そういえば、この間のなくした物は見つかりましたか? 」
私は大熊に、気になったのできいてみた。
これのことか、と大熊は探し物を見せながら言った。
「この本は、高校の時からのお気に入りで、何度も読み返したよ」
大熊が、探していた物は、本だったらしい。
その本の表紙はボロボロで、何回も読み込んだ本であることが、よく分かった。
「タイトルは、何というのですか? 」
私も読みたいと思ったので、大熊に本のタイトルをきいた。
「この本のタイトルは、『さがしもの』だ」
それにしても大熊が、なぜ何度も読み返しているのだろうか。
私は気になったので、理由が気になったのできいた。
すると、大熊からは意外な回答が返ってきた。
「高校時代を思い出そうとするときに、よく読むな。それから不思議なのが、本に足でもついているように、独りでにどこかへ行ってしまうのだよ」
「それは、奇妙ですね。実際に、歩いているところを見たのですか? 」
「いいや、それはないな。でも、大切に保管しているのにすぐになくなるからな。もしかすると、この本かが、私のことを嫌いなのかもしれないな」
「へえ。今度、図書館へ行った時に、借りてみようかな」
「それがいい」
大熊からその話をきいてから、興味をもった私は、島の図書館へ行き、本を探した。
しかし、いくら探してもなかったので、大熊に借りることにした。
市役所へ行き、大熊に本のことについて尋ねた。
「あの本を借りることはできませんか? 」
「私は二度となくさないように厳重に、保管していたのになくなってしまったのだよ」
「それは、困りましたね・・・・・・ 」
「図書館には、置いていなかったか? 」
「いいえ、そのようなタイトルの本は置いてありませんでした」
「そうか・・・・・・ 」
大熊は、そうのように言うと黙ってしまった。
それから、私と大熊は、その本の行方を探したが見つからなかった。
そして、その本の存在を忘れてしまったのであった。
しかし、その本は、意外な場所で姿を現した。
「なぜ、このような場所にあるのか? 」
大熊はその本に質問するように言った。
その本は、南港の持ち主不明センターに届けられていた。
不思議そうに、センター長の野口さんは、大熊に質問した。
「くまさんの本であることが、分かってよかった。私は気になって、この本の中身を見たのですが、あるページを除いて、すべて何も書いていなかったのですよ」
私は本のページをペラペラとめくるが、何も書いていなかった。
前見たときには、びっしりと文字が書かれていたのに・・・・・・ 。
「それで、『あるページ』とは、どこなんだ? 」
大熊は、ハラハラしながら、野口さんにきいた。
「ここですよ」
野口さんは、該当するページを開く。
私と大熊は、恐る恐るそのページを見た。
そのページには、以下のように書かれていた。
「文字の冒険」
小説の文字たちは、自分たちの本来の居場所を探すために、旅をする決心をするのであった。
ある文字が言った。
「冒険するために、他のページの文字を誘おう」
すると、別の文字が言った。
「それもいいが、旅から帰ってきたときに、この小説がお払い箱にならないように、この章のこのページの文字たちには待っていてもらおう! 」
その言葉に異議を唱えるものはいなかった。
そして、そのページを除く、すべてのページの文字たちは、小説の中から抜け出して新たな冒険へと旅だったのであった。
この文章を見た大熊は、ビックリしたような顔をしていた。
そして、少し落ち着くと、独り言のように言った。
「そうか、旅に出たか。ならば、お前たちが、旅から帰って来るのを待つとしよう」
私は不思議そうに、質問する。
「この奇妙な話を、信じるのですか? 」
「しょうがないだろう。思い出のある本だから、どんなに気味が悪くても捨てられないから、文字たちの帰りを待つのだ」
「そうですか・・・・・・ 」
大熊が、奇妙な現象をすぐに受け入れたのは、不思議であった・・・・・・ 。
終わり