悪役令嬢は最後に笑う
ジャンルを『異世界・恋愛』から『コメディー』に変更しました。
5/17日間ジャンル別コメディーランキング1位になりました!
楽団が音楽を奏で、キラキラとした色鮮やかな衣装が舞う中アリシア・バーナードは1人会場に入場した。
今、行われているパーティーは学園の卒業を記念したものだ。パートナーが必須のパーティーをアリシアが1人で入場した。その姿に、ザワザワと周囲が騒がしくなる。
アリシアは、会場の中心で足を止める。
そこには、王太子のレイナードが苛立たし気な表情で睨んでいた。傍には、フワフワとしたピンク色の髪をもつ令嬢が立っていた
「ごきげんよう。王太子殿下」
淑女の礼をとるアリシアに王太子は手を伸ばした。そして、ドンッと肩を押した。
急なことで受身もとれずアリシアは床に転がる。
緩く結われていた銀の髪が解れ、深い碧の瞳が見開かれる。
「私は、侯爵令嬢アリシア・バーナードとの婚約を破棄し、レイラ・トイルとの婚約を結ぶ」
皆が呆気に取られる中、王太子はアリシアを見下ろし睨みつけた。
「そして、アリシアは嫉妬という醜い感情からレイラを傷つけた。よって、拘束の腕輪をつけた上で魔の森に追放とする」
呆然とし何も言えないアリシアを無理矢理跪かせ、『拘束の腕輪』をつけた。
綺麗な翡翠色の腕輪は付けたものの魔力を吸い上げ、拘束、監視する。
また、魔力が尽きるまで外すことが出来ないため半永久的に罪人を監視することが出来る。
「姉上。あなたは、本日を以てバーナード家から勘当します」
いつの間にか傍に来ていたアリシアの弟、アベルからの言葉にアリシアは俯く。
その姿は、自分の犯した罪を認め後悔している様に見えた。
王太子はそんな姿を冷ややかに見下ろし、連れて行けと一言いった。
アリシアは抵抗することなく、騎士に連れられ会場から姿を消した。
****
はい! ただいま、私こと元侯爵令嬢のアリシアは魔の森です! あの騒ぎの後、すぐ馬車に乗せられ魔の森へと連れてこられました。 やったね!
さっきと性格が違うって?
気にするな。そんなの、作ってたに決まってるじゃない。
念願叶って、魔の森追放ですよ!
魔の森は、帝国との境にある魔物が闊歩する森だ。
陽の射さない真っ暗な森は、罪人を処刑するのに使われる。1度入ったら二度と出ることは出来ないなんていわれてる。
ふふ、私にとってこの森は庭も同然。
むしろ、ここに追放してくれて嬉しいくらい。
というわけで、王太子殿下には感謝を伝えなければいけませんよね?
そんな訳で、王宮へと繋ぎましょうか。
そもそも、腕輪を開発したのは誰かな?
監視魔法を乗っ取るのぐらい造作もないのにね?
おっと、つながりました。
おー! 私がいなくなってもパーティーを続けるなんていい度胸してるよね。
「ごきげんよう! 王宮の皆様。こちらは魔の森のアリシアでごさいます。ご機嫌いかが?」
『アリシア?!』
この声は王太子殿下だね。
ダンス中だったかな? レイラ嬢をだいてポカンとしてますね。
「えぇ、たった今あなた方に追放されたアリシアでごさいますよ?」
『何故、魔法を使っている?!』
あれ? 本当に知らなかったの?
「拘束の腕輪のことですか? そんなの私が開発したからに決まってるじゃないですか」
『はっ?!』
「本当に知らなかったのですね~。陛下はご存知でしたよ?」
これは、私が10歳ぐらいの時かな?
魔法付与の練習でできた偶然の産物。
本当は魔力を抑えるための魔道具を作ろうとしてたんだけど、そこから色々あって『拘束の腕輪』は作られました。
「こんなの解除するなんて簡単ですよ? だって、元々は私の魔力を抑えるために作ったんですから。これが、吸える量よりもたくさんの魔力を流しちゃえば」
ほら、と自分の腕にはまっている腕輪を見せる。
そこには、ヒビが入り壊れかけた腕輪がぶら下がっていた。
目の前には、王太子たちのポカンとした間抜け面が並んでいた。
紳士、淑女の皆様、その顔はやめた方がいいよ?
「と、これはどうでもいい話ですよね。さて、ここからが本題です!」
いま、私は満面の笑みを浮かべているだろう。
淑女の言葉遣いじゃなくて、素の口調を使っているけど気づいてないし。
「さて、それでは質問です。ロゼ商会は知っていますか? 王国一の商会でとっても有名ですよね」
『もちろん、知っている。だが、それがどうした』
「ではでは、商会長が誰かはご存知ですか?」
わざと馬鹿にするように告げれば、面白いように顔を真っ赤にさせて睨んできます。
まぁ、全く怖くはないんだけどね。
ふふ、商会長が誰かはしらないよねー?
だって、世間の皆様も知らないんだもんねー。
では、答え合わせと行きましょう。
「ロゼ商会の会長は様々な魔道具を作ったことで有名ですよね。その代表作は拘束の腕輪。さて、これで王太子殿下も分かったでしょう?」
ねぇ、もう分かったでしょう?
「それでは、改めてご挨拶を」
膝をおり礼を1つ。
「ロゼ商会、商会長を務めているアリシアと申します」
顔を上げれば間抜け面がずらりと。
やっぱり、その顔はやめた方がいいと思うよ?
『う、嘘よ。貴方が商会長なんて嘘に決まってるわ!』
あら、レイラ嬢が顔を真っ赤にさせて怒ってる? のかな。嘘つき呼ばわりは、あなたにはして欲しくないんだけどな。
「証拠ならありますけど? そうですね、じゃあこれなんてどうでしょう」
手を上げて魔力を手のひら全体に這わせていく。
「今から、5秒後に王都中のロゼ商会製の魔道具の電源を切りましょうか。あれらは、もしもの為に作製者の権限で使えなくなるようにしていますからね」
これを行って困るのはどなたでしょうか?
平民の方たちはもちろんの事、貴族の皆様も困りますよね。
では、いきましょうか。
5、4、3、2、1。
パチン、と指を鳴らすと画面の向こうで一斉に明かりが消えた。
あらら、会場の照明に使っていたんですね。というかうちの商品割と高いんだけどどんだけ使ってんの。
「理解していただけましたか? これで、私が商会長兼開発者だということが分かったでしょう。では、もう一つプレゼントを贈りましょうか」
空間から一枚の紙を取り出しながら告げる。
驚くことはこれだけではないよ。
「我がロゼ商会は本日をもって王国との取り引きを中止します。ああ、もっと細かなことは王宮へ話が行っているはずですよ?」
真っ暗ななかでも皆様方の呆然とした顔はしっかりと映っていますよ。
この婚約破棄騒動で、商会の子たちが怒っちゃってたいへんで、宥めるための最善がこれだったんだからしようがないよね。でも、その分私のことを大切におもってくれているって分かったからうれしかったなぁ。
っと、話がズレた。
「ねぇ、王太子殿下。もう、分かったでしょう? あなた方がしたことは自らの首をしめるようなもの」
ロゼ商会の魔道具が無くなり困るのは王国。
高品質の魔道具はロゼ商会の専売特許だ。
そして、後ろ盾が無くなり困るのは王太子殿下。
侯爵家の後ろ盾が無くなったら陛下はすぐに王太子殿下を王太子の座から降ろすだろう。
彼は、王太子いや国王の器ではなかった。
勉強が出来るだけでは国は治められない。
「王太子殿下。何故、私が殿下の婚約者になったか知っていますか?」
知らないよね。
知ってたら、婚約破棄なんてしないもんね。
「私達が婚約したのは10歳の時。私は、その時初めて魔道具を作りました。それがこの腕輪です。けれど、私が作ろうとしたのはこの腕輪ではなく魔力を吸収する魔道具を作ろうとしていたんです」
私は、魔力が強かった。
それこそ、この王国の誰よりも。
本来、魔力というものは体が成長するに従って強さを増していく。
けれども、私は生まれた時から大人以上の魔力を持っていた。
そこから、導き出されるのは私が成長した時、私のもつ魔力は今よりももっと強大になるということだ。
両親は恐怖し、まだ生まれたばかりの私を離れに監禁した。必要最低限のメイドと魔力を抑える結界を施して。
「突然変異の様に大きな魔力を持ち、今までになかった画期的な魔道具を作る。それに、家格も問題ない。これ以上に優れたご令嬢はいるかしら? それに、この婚約は王家から打診されたもの。私が断れるわけないじゃない」
『嘘をいうな! お前如きが王族よりも強い魔力持ちなわけない! いつも、学園の試験でもおちこぼれているだろう!』
だから、言ったじゃない。私は、魔力を吸収する魔道具を作ろうとしたって。
「そんなの、当たり前じゃない。私が何個の魔道具をつけてると思ってんの? 常に5個以上付けてるのを知ってる?」
いまは、イヤリングとネックレス、それに髪飾りに腕輪など。あ、髪飾りはさっき落としたんだっけ。
そしたら、今つけているのは7個ぐらいかな。
感情の起伏でも、魔力は大きくなったりするからもしもの為にいっぱい付けてきたんだよね。
「私は、常に魔道具をつけていないと制御に失敗して暴走してしまう。という設定だったんですよ。おかげで、学園では落ちこぼれだの侯爵家の恥さらしだの散々言ってくれましたね。実際は、魔道具なしでも全然大丈夫なんですけど」
『そんなこと、私は知らない......!』
「言ってませんもん。てか、言う必要ある?」
いや、これほんとに。
婚約者だからとかで、今までいいように使ってくれたでしょ。
それに......。
「私がこれだけの魔力を持っていたとして、戦場に送らないと言う保証があった?」
そう、聞くと王太子殿下たちは一斉に黙り出す。
だから、嫌だったんだよ。
この国の人達は。自分たちのことしか見ない。
自分の安全が自分の利益が。貴族も王族も、民をかえりみないで贅沢ばかり。そうじゃない人もいるとは分かってる。でも、私には耐えられない。
だから、私はこの国を出ていく。
「長く、話しすぎました。もう二度とあなたがたに会わないことを祈ります」
それではと告げピィーと高い口笛を吹いた。
この音は私の使い魔を呼ぶ合図。
しばらくすると大きな羽音とともに空から降りてくる影が見えてきた。
「ぐーちゃーん。久しぶりねぇー。しばらく会えなくてごめんね」
私の使い魔のグリフォンのぐーちゃん。
可愛い名前でしょ!
あ、通信切るの忘れてた。画面の中では、貴族たちが阿鼻叫喚。
だって、グリフォンって幻獣と言われるくらいには珍しいんだよ。私が契約出来たのは偶然だし。
『お、おいアリシ......』
あれ、王太子殿下なんか言ってた?
うん、聞かなかったことにしよう。うん。
「ぐーちゃん。帝国まで飛んでくれる? さすがに夜中にこの森は私でもきついから。それに、新しいお菓子を考えてきたの! 帝国に着いたらさっそく作るから楽しみにしててね!」
こう見えてぐーちゃん、結構甘いものが大好きなんです。よく、私のおやつを取られちゃうし。
っと、話がズレた。
「それでは、レッツゴー!」
ぐーちゃんに飛び乗り笑う。
『ガゥー!』
ぐーちゃんも大声で鳴くと飛び立つ。
久しぶりにぐーちゃんと飛んだよ。夜だから、寒いね、やっぱ。それに、風も強いし。けど、気持ちいい。
私は、アリシア・バーナードからただのアリシアになったんだ。その事実がやっとストンと自分の中に落ちてきた気がする。
ふふ、これから何をしよう。まずは、商会をもっと大きくさせないと。
「ねぇ、ぐーちゃんはどこ行きたい?」
『ガゥ?』
「やーっと、自由になったんだもの。色んな国まわって、色んな体験してみたいじゃない?」
笑いながら問いかけるとガゥ! と大きな返事が返ってきた。
帝国はもうすぐ。帝国の皇帝には話をつけてある。
ただ、帝国は完全な実力主義。私の行動しだいではどうなるか分からない。
でも、それも楽しそうじゃない?
0か100かの真剣勝負なんてとっても燃える。
どっちにしろ、生き残るためには頑張らないとね?
さぁ、これからは新しい人生を楽しく歩んでいこうじゃない!
読んで下さりありがとうございますm(_ _)m
番外編をそのうちあげるかもしれません。
王太子のその後の話とかアリシアちゃんの帝国での話とか。
楽しみにしていてください(*´▽`人)