6話
「え?お兄ちゃん何やってんの?」
ハゲたおじさんとゲームをしている裕翔につい口が滑る。
「え?早苗ちゃんってお兄ちゃんいるの?」
琴美が首を傾げる。
「えっと、それはね…」
早苗が返事に困ると琴美がからかってくる。
「もしかしてお兄ちゃんの事、好きなの?」
いきなり突飛惜しみのないことに投げられた質問に早苗は慌てる。
「な、ななな何を言い出すの!わ、私がお、お兄ちゃんの事好きなわけないでしょ⁈」
「へ〜そうなんだ〜早苗のお兄ちゃん結構イケメンだし私狙っちゃおうかな?」
「だ、ダメ〜〜!」
(え…高橋さんってブラコンだったの…)
一人ショックを受ける住田。またそれを「どんまい。」と言いからかう琴美。
(あれ?お兄ちゃんが裕翔くんって気づいてない?…あ!そうか。髪を切ったから。)
早苗はその事に気づき少しホッとする。
(まぁ気づかれてもいいけど色々めんどくさそうだし。)
「はぁはぁワシの負けじゃ。お主やるのぉ。」
「爺さんもな。」
早苗からかわれているうちにいつの間にか裕翔はゲームを終えていた。
「お兄ちゃん。」
「早苗?」
早苗は寄り添い小さな声で問いかける。
「どうしていなくなったの?」目を細める。
「クラスメイトに俺が兄だって知られたくないだろ。」
裕翔の表情が少し暗い。
「大丈夫。髪切ったお陰でみんなお兄ちゃんが裕翔くんだって気づいてないから。」
「そうか、それならよかった。」
「私は知られた方がいいけど…」
「ん?また何か言ったか?」
「んんん。」
明るい表情で早苗は首を横に振る。
「おい!そこのお前 ︎」
突然香苗が指を指して大声で叫ぶ。
「え?俺?」
裕翔はいきなりのお前呼ばわりで驚く。
「お前しかいないだろ!」
「えっと、何?」
「私と…私と…」
「勝負だ ︎」
「「「えー⁈」」」
予想外の言葉に早苗達が驚く。
「よし!わかった。いいだろう。」
「「「えー⁈」」」
裕翔の言葉にもう一度驚く早苗達だった。
「お兄ちゃん。いいの?それにいつもと雰囲気が違う気が…」
「髪型を変えたおかげでなんだか自分じゃないみたいだ。」
早苗は変なことを言い出す裕翔に不安とため息をこぼす。
(早苗様は残念ながら、残念な・が・ら・お兄ちゃんとやらを好きなようだ。だったら私はその男を倒し早苗様を手に入れるんだ。)
香苗はゲームセンターを見渡しゲームを探す。
(あった。アレだ。アレなら楽勝だ。)
「よし。アレで勝負だ。」
香苗が指したのはダンシングゲームだった。
「いいだろ。」
裕翔は軽い足取りでゲームの前に向かう。
(お兄ちゃんお願い勝って。)
早苗は心から願った。それが無意味なことを知らずに。
『レッツダンシーング ︎』
ゲーム機から男の声が聞こえる。
『モードを選べ ︎』
香苗は対戦モードを押す。そしてついに始まった。
『ミュージックスタート ︎』
最初は香苗から踊り出す。香苗のステップは華麗で裕翔を応援する早苗でさえ見入ってしまった。
(早苗様が見てる。もっと頑張らなきゃ!」
香苗はスピードを上げる。常人ではできないような速さで。すると香苗の重視がズレ倒れかける。
「危ない!」
住田が叫ぶ。その時。誰かの手が香苗を助ける。
「次は俺の番だな。」
裕翔だった。裕翔は香苗をステージから優しく下ろすと踊り出す。それも遥かに香苗を超えるダンスを。
「えっ?!」
(私助けられた?この男に?敵なのに?でも温かい手だった…いけないいけない!私は早苗様一本 ︎)
その頃香苗は頭の中で戦っていた。
『ふぅ〜!パーフェクト!!Youのダンス最高だったぜ。』
ゲーム内の男が言う。
早苗達は裕翔のダンスを見て固まっていた。
(え?お兄ちゃん踊れたの?もう!もっと好きなっちゃうじゃない。)
早苗が惚れ直していると香苗が悔しそう?に言う。
「くそ、負けた…」
「すげー…」住田が棒立ちする。
「すごい。早苗ちゃんのお兄ちゃんすごすぎ。」
琴美が悪そうな目で言う。そして
「じゃ次は私とね。」
琴美はシューティングゲームの銃を持ち上げた。