3話
「アイツに近づかないほうがいい。」
「え?」
裕翔がボソッと言った言葉に疑問を抱く早苗。
「アイツって?」
早苗が聞くと裕翔は顔を正面に戻し背中を向けたままで言った。
「斎藤 晃。」
驚いたまま固まる早苗。それを無視して歩き始める裕翔。
早苗は"晃くんに近づくな。"と言われたと気付いて叫ぶ。
「待って!」
その言葉で裕翔は歩みを止める。
「な…なんでそんなこと言うの⁈」
裕翔は何も言わない。
「私が晃くんに近づくのは裕翔くんには関係ないでしょ⁈」
早苗は叫んだせいで息が切れていた。裕翔はすでに階段を降りていた。
早苗は涙を浮かべた。
次の日、裕翔は学校に来なかった。
早苗は自分の好きな人に近づかないほうがいいと言われただけであんなに怒鳴ってしまったことを後悔していた。
「早苗ちゃん、何暗い顔しているの?」
そう優しく言って来たのは晃くんだった。
「いやなんでもないよ。」
早苗は作り笑顔で言った。
「そうか、早苗ちゃん放課後空いてる?」
晃の誘いを聴いて明るくなる早苗。
「うん。」
この返事が間違えだと知らずに。
放課後。
早苗は約束の時間より先に待ち合わせ場所に来ていた。
待ち合わせ場所はこの街に1つしかないポストの前だった。この時間帯は人が少ない。
鏡で髪を整えたりして準備をしていたが約束の時間を過ぎても晃の姿はなかった。
早苗は嫌われたんだと思い始めた。
その直後、早苗の前に黒いワゴン車が来たと思えばドアが開き中に引きずりこまれた。
「んっ!」
大男に口を手で押さえられ声が出せなかった。
手足を動かしてどうにか逃げようとするが視界に入った人物を見て力を失う。
「やぁ、さ・な・え・ちゃん。」
そこには不気味な笑みを浮かべる晃の姿があった。
晃は早苗の頬に手を当てて言う。
「可愛がってあげるからね。」
その時、泣き出してしまうほどの恐怖が早苗を襲った。そして後悔も。
(裕翔くんは私を守るために言ったのに、なのに私は、私はなんて酷いことを…)
早苗は涙を零す。
ワゴン車は見知らぬ人気の無い廃ビルに来ると止まった。
大男に抱えられながら運ばれる。
「きぁ!」
大男にポツンとあったダブルベッドに投げられ早苗は声を上げる。
すると晃が語り始める。
「やぁ〜やっぱり早苗ちゃんは可愛いね〜。食べちゃいたいよ。こいう時に金があると便利だよね〜。」
晃は実はある会社の社長の一人息子で金持ちだった。
そのせいで晃は欲しい物があれば金で全て手に入れられると思い込んで今までも色々な女を襲ってきた。
襲われた女の子達は晃に脅されその事を言えなかった。
「だよな、金があると便利だよな。」
そう言って出てきたのはなんと
「裕翔くん!」
早苗はその人を見ると自然と安心感を感じ嬉し涙を浮かべた。
「あぁ?お前は確か…誰だ?まぁいい。アイツ邪魔だからやっといて。」
晃がそう言うと大男は裕翔に向かって歩き始めた。
大男は裕翔の前まで来ると止まりジッと見下ろしてきた。
裕翔は殺気を放つ。
大男はその殺気に怯むが裕翔に殴りかかった。
「きぁ〜!」
早苗は目を手で塞ぎ叫ぶ。
「ぶはぁぁ!」
その呻き声を聴いて早苗は不思議に思った。裕翔の声にしては低い声だったからだ。
恐る恐る見るとそこには腹を抑えて倒れている大男とさっきと同じ場所に立つ裕翔の姿があった。
「な、なんだと…」
晃はその光景を見て理解が追いつけなかった。
体格差がある二人。どう見ても大男の方が有利だったはずなのに裕翔は大男の拳を避け、がら空きになった腹にカウンターを入れたのだ。
「でもな、金で買えないものだってあることを覚えさせてやるよ。」
裕翔はゆっくりと早苗に歩みよる。
晃は裕翔から伝わる殺気で動けなかった。
裕翔は近くまで来ると早苗を抱きしめ耳元で言った。
「兄さんがいる。」
早苗は全身の力が抜け泣き出した。