2話 〜恋〜
"キーンコーンカーンコーン"
校舎中に鳴り響く鈴の音と共に授業が終わった。
次の瞬間、男子の何十名か教室を飛び出して行った。先生の注意を無視して。
裕翔はそれを(なんだあれ?)という顔で見る。
「アンパンだな。数個限定の。」
そう教えてくれたのは中島 浩介というスポーツ少年だった。
浩介と裕翔は幼馴染で実は引きこもり中に家に来て遊んだり勉強をほんのちょっと一緒にしていた。
「アンパンか…お前はいらないのか?」
「俺は母ちゃんの弁当があるから。」
浩介は引きつった顔でハートの風呂敷に包まれた弁当箱を見せる。
裕翔が学校に来てからまだ10分。しかしもう時は昼だった。
そのためさっきまで誰にも喋りかけられていなかった。
当たり前だろう。
今まで不登校だった子が急に学校に来て無言で席に着いた。あまりにも唐突すぎてどう声をかければいいか分かるはずがない。
(あ、お弁当持って来てない。)
裕翔が気づく。
「裕翔くん。はい、これお弁当。」
そう言ってお弁当を渡してくれたのは今日妹になった早苗だった。
「た、高橋さん⁈」 浩介が顔を赤く染める。
裕翔は弁当を無言で取り、開ける。
中身は色とりどりで全て出来が良かった。
「私が作ったの。味は保証するよ。」
早苗が可愛い笑顔を見せ浩介、その他何人かが白目になる。
裕翔は箸を手に取り卵焼きを食べた。
「うまい…」
思わず口に出す。
とろける甘さに程よい食感。まさにお店で出せる物だった。
「あ、やっと喋ってくれた。」
また笑顔を見せる。流石に不意の笑顔は裕翔も落とした。
早苗は裕翔の驚いた表情を見るとそれでいいのか女子グループの方に向かった。
「おい、裕翔。お前高橋さんとどうゆう関係だ⁈」
ボーと早苗の背中を見ている浩介に体を揺さぶり聞かれた。
裕翔は意識を取り戻すと元の表情に戻りいつも通り言う。
「なんでもないよ。」
「なんでもなくねぇだろ。」
そう浩介が言った丁度いいタイミングで"ガラガラ"っと扉が開いた。
その瞬間、裕翔は廊下から入って来た人物に目をやった。
「あ、晃くん。」
早苗が明るい表情をする。
斎藤 晃。
ルックスがよくさらに優しい性格。女子に大人気で早苗も実は気になっているようだ。
「早苗ちゃん。お弁当一緒に食べる?」
「うん。」
そのやり取りを見ている裕翔は何か言いたそうだった。
放課後、自宅。
裕翔は早苗より先に帰っていてまたいつも通り部屋で引きこもっていた。
「ただいま。」
早苗が帰って来た。
「お帰りなさい。」
瑠美さんが応える。
「早苗ちゃ〜ん、ご飯できたから裕翔くん呼んできて〜」
「は〜い。」
キッチンから聞こえてくる声に合わせて早苗が返事する。
"コンコン"
早苗がドアをノックする。
「裕翔くん、ご飯できたよ。」
「…」
返事がない。
「裕翔く…」
"ガチャ"
早苗がまた声をかけようとするといきなりドアが開いた。
「わ、ゆ、裕翔くん。えっとご飯できた…」
「わかってる。」
「う、うん。」
裕翔は早苗を避けて下に向かおうとする。
すると急に足を止め、首だけ早苗に向けて言う
「アイツには近づかないほうがいい。」と。
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