表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
本当の嘘  作者: marusato
3/5

本当の嘘 第3話


 僕の身体が音楽に合わせて反応しているのがわかったのだろうか。オッサンがひとりごとのようにボソボソと話しかけてきた。

「兄ちゃん、この歌知ってるんだ」

「ええ、まぁ…」

「題名言える?」

「卒業写真」

「へぇ~、すごいな。兄ちゃんいくつ?」

「二十八です」

「兄ちゃんが生まれた頃の歌だよ」

「学生時代に先輩から教えてもらったんです」

 オッサンは最初に僕に話しかけたとき以外はずっと前を向いたままだった。ほかの人が見たら二人が会話をしてるとは思わないだろう。少し間をおいてからがまた話しかけてきた。…ボソボソと。

「兄ちゃんは若くていいな」

「ええ、まぁ…」

「俺、今はこんなだけど前はちゃんとしてたんだ」

「はぁ…」

 オッサンがため息をついたような感じがした。会話は途切れた。


 雨はまだやみそうもない。僕は地図を広げた。配布が終わった地域を確認するためである。スマホがバイブした。


件名:褒められたhimi2です。

from himi2

本文:masaさんは私と同じ性格なのではないかと勝手に想像しています。masaさんなら私の気持ちわかりますよね。人を好きになるって辛いですよね。


 僕の初恋は高校時代である。あのときは僕も辛かった。相手は学校のマドンナと言われていた女の子である。当然片思い…。3年で同じクラスになったときはうれしくて学校の帰りに神社に寄ってお礼にお賽銭を100円もはずんだ。席が斜め前になったときは200円はずんだ。一日中彼女のうしろ姿ばかり見つめていた。もちろん誰にもわからないように…。


 毎日毎日彼女を見つめていた。そしていつからか辛くなってきた。自分の気持ちを伝えられないもどかしさからである。僕のような地味な男が告白などしたら学校中の笑い者になるだけだ。世界中の誰よりも、彼女のことを好きな気持ちは負けない自信があった。でも笑い者になるに違いなかった。好きなのにそれ以上どうしようもできないことが辛かった。大学でもカノジョを作らなかったのは彼女のことが影響しているかもしれない。

 あ、ちょっとカッコつけた。「作らなかった」のではなく「作れなかった」のだ。



件名:あなたは幸せ者です。

from masa

本文:確かに辛いですよね。でも好きな人がいるって幸せなことでもあるんですよ。好きな人がいるから頑張れるってことあるじゃないですか。


件名:そうですね。

from himi2

本文:仕事で嫌なことがあったりしたとき彼のこと思い出して乗り切ってますから。でもやっぱり夜にひとりになると辛くなります。


件名:思い切って…。

from masa

本文:思い切って告白することを勧めます。まずは一歩を踏み出さないとなにも変わらないのではないでしょうか?


件名:乱暴では…

from himi2

本文:告白ができるなら最初から相談なんかしません。それができないから相談しているんです。友だちにこのアドレスを紹介されたんですけどちょっとガッカリかな。


件名:すみません。

from masa

本文:ちょっと強引でしたね。勇気づけようと思って勇み足でした。本当にすみません。


件名:言い過ぎました。

from himi2

本文:こちらこそ申し訳ありません。嫌みな言い方をしてしまってすみませんでした。自分の不甲斐なさに苛立っているんですよね。お許しください。


件名:いえいえ。

from masa

本文:やはりhimi2さんはよい方ですね。自分を客観的に分析しそして素直に謝る姿勢に感激しました。尊敬します。私も見習いたいと思います。


件名:今、照れてます。

from himi2

本文:それではしきり直しということで…。私はどうすればよいでしょうか?


 僕は面倒になってきていた。雨はまだ降っている。雨が上がればこのメールをやめることができる。飽きてきた。


 オッサンが僕に向かってなにか呟いた。

「えっ?」

「兄ちゃんは運転すんの?」

「ええ、たまに」

「運転するときは慎重にな」

「ええ」

「俺、…事故で人を死なせちゃったんだ」

「そうなんですか」


 突然の身の上話である。


「バイクに乗ってた19才の子…。その子の親に責められたときは辛かったよ。ああいうときこっちはどうしようもないよなぁ。ただ頭を下げるしかないしさ」

「そうですよね…」

「本当に辛いときは時間が過ぎるのを待つしかないな」

 僕はなんと答えてよいかわからなかった。しかし、オッサンの言葉が僕にhimi2さんへの回答を思いつかせてくれた。


件名:ときが解決するかも…。

from masa

本文:僕の経験をお話しますね。僕もhimi2さんと似たような状況のときがありましたがそのときは時間が解決してくれました。これも一つの方法ではないでしょうか?


件名:そうかもしれませんね。

from himi2

本文:結局、告白する勇気がない私です。masaさんに相談してるのも自分を癒しているだけかもしれません。masaさんは後悔はしていないのですか?


件名:していません。

from masa

本文:ただ、思い出として懐かしんではいますよ。青春の一ページというか勲章です(笑)。

それに人を好きになると人間として成長することは間違いありません。


件名:そうですよね。

from himi2

本文:私も相手の人を好きになってからいろいろなことを考えるようになりましたから。これだけ辛い思いをしてるんですから一つくらいご褒美がないと損ですよね(笑)。


件名:そうそう。

from masa

本文:僕なんか勲章の数だけは誰にも負けない自信があります(笑)。変な自慢でお恥ずかしいですが(笑)。

 本当の僕は勲章は一つだけである。しかしmasaは回答者である。


件名:ところで…。

from himi2

本文:masaさんはいつ頃から恋愛相談をやってるんですか? 友だちはmasaさんのこと超有名人って言ってましたけど…。


 雨がやんでほしかった。


つづく

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ