我が正体
我を宮廷魔導師共は見る。
ひょい。
あっ、こら、もちあげるな!
ひっくり返すな!
「へー。これが、例の?」
「本当に魔法が聞かないの?」
「よし、試そう。」
ぽい
我を水槽に入れる。
「水よ!」
魔法で生まれた水は我に触れた先から消えていく。
「おー!」
「すげー」
宮廷魔導師共は感心している。
妙に楽しそうだ。
新しい玩具を手にした子供のような目をしている。
「じゃあ、物理攻撃いくね。」
言って取り出したのは、短刀!
え?
ちょっと、そこの魔法使いよ。
も、し、や。
ザク。
「!!!!!」
我右前足に短刀を突き刺した!
血が流れる。
赤い血が流れる。
「あれ?」
「え?」
「うそだ。」
宮廷魔導師共は口々にいう。
うん、我も驚いた。
赤い血が流れたからだ。
魔物に血など流れていないのに。
「え?でも、魔物なんだよね?」
「魔法耐性があるから魔物だと思ったけど、実際は違うってこと?」
「これはさ、何かあるよね?」
「呪いか?」
「その類いが関わってるでしょ。」
宮廷魔導師共は楽しそうだ。
「呪いを解く新魔道にかけてみる?」
なんだ、そのてくのろじーって?
ちらっとギルバートと呼ばれた幼体の肩に止まるサンダーバードを見る。
『人間がここ数十年で開発した新しい技術っす。
魔力で雷を起こしそのエネルギーを利用して機械を動かし特定現象を起こすっす。』
『例えばランク判定ね。』
ギルバートと呼ばれた幼体が継ぎ足す。
なるほど。
テクノロジーとやらは我に直接魔法をかけるわけではないから効くかもな。
まあ、我にかかっているのは呪いではなく封印だけどな。
『よし、かけよう。』
我は水槽に入ったまま、魔法陣が描かれた台の上に置かれる。
「ぽちっとな。」
声と共に魔法陣が光る。
『呪い測定中…呪い測定中…呪い判定…
呪い感知せず』
「あれ?」
「呪いじゃない?」
「じゃあ、この生物名確認する?」
「ああ。森蜥蜴じゃ…ないよな?」
「色、黒だしね。」
「よし。みよう」
今度は我を鏡の前におく。
「ぽちっとな。」
『正体確認中…正体確認中…正体判明
肉体名森蜥蜴、精神名竜』
「!?」
「はっ!?」
「肉体名?精神名!?」
「なんでわかれるの!?」
「肉体は生き物で精神は魔物!?意味不明!?」
宮廷魔導師とは慌てふためく。
まあ、我を分別するならドラゴンだな。
ドラゴンにもピンからキリまでいるけども、そこまではわからぬようだ。
それにしても肉体と精神が不一致なのは我にもわからぬ。
我の肉体は何処だ?
未だ亜空間にて眠っているのか?
「これは、研究しないとわからないな。」
我をアルバートと呼ばれる幼体に返しつつ宮廷魔導師は言う。
「そうですか。」
水槽の中に手を入れられたのでひょいと乗る。
当たり前のようにその手は肩へと移動したので、肩の上に移動する。
うん、ここが、我の居場所。
満足気に目を細める。
「しかし、アルバート様に懐いておりますな。」
「これは、召喚はしてませんが、これだけ懐く魔物がいるなら立太も可能かもしれませんな。」
瞬間、空気が冷たくなる。
「僕は立太に興味はないです。
簒奪には与しません。」
ふむ、アルバートと呼ばれる幼体は王には興味ないらしい。
「僕は自身の血の中に勇者の血が混ざっている事を証明できればよいのです。」
「勇者ね。」
ふふふ、と笑う宮廷魔導師。
「勇者なる者が実在したのかも怪しいですがな。」
どうやら此奴は勇者に対して否定的なようだ。
「僕は信じているんです。勇者がいた証拠は何もないですが、勇者の子孫と言われた自分を含めこの血筋に魔力が宿らない理由があると。
僕はその理由が知りたいだけです。」
「そのような理由があればよろしいですね。」
「まあ、そんな事はいいとして、王城に滞在中はこの魔物を貸してください。
調べたいんで。」
嫌だ!
勇者をないがしろにする連中にこれ以上この身を晒しとうない!
『サンダーバード!なんとかしろ!』
『えっ!ご、ご主人様!この蜥蜴嫌がっているみたいっす!』
「僕にとめろと?ったく。」
ため息ついてギルバートが動く。
「お前ら、これから父上の所にこの蜥蜴を連れていく必要がある。」
「では、その後でも。」
「ダメだ。お前らは魔法を使って調べるのが本業なのに、その魔法が通じないんだ。
わかる事なんてさしてないだろう。
無駄に時間を費やすな。アル行こう」
こうして、我らは宮廷魔導師共と別れたのだった。