我、王宮へ行く
今から500年程前。
100の国を滅ぼす神格持ちの魔物が現れた。
その強さは時を経ても弱まる気配はなく、このまま人類は滅びると思われた。
ところが、突如人間の中に勇者が現れる。
その勇者は神格持ちの魔物を凌駕する魔力で長い時間をかけ、遂に神格持ちの魔物を倒した。
その後勇者は我が国…イブベニア王国の王の側室となる。
その後子供を成し80歳でその生涯を終える。
『その子供の子孫がアル。僕と第一王子は正室の子孫にあたる…とされている。』
『されている?』
我は反芻する。
『500年も昔の資料は殆ど残っていない。
歴史学者の中にはそんな魔物等いなかったのではと言うものもいる。』
なんと!
我、いなかった事にされてる!
『従って勇者もいなかった。
即ち、勇者の子孫はペテンである。』
いや、勇者は確かにいたぞ!
『仮に勇者が存在したとしても、あまりに常軌を逸してる。神格持ちの魔物を凌駕する魔力を持つ人間なんて後にも先にも勇者以外聞いた事がない。』
確かにあれは異常だった。
実際この目で見て戦い、負けた我が言うのだ。
『にも関わらず勇者の子孫は代々魔力無しが生まれる。』
『は?』
我は思わず声をあげる。
魔力がないだって?
そんな馬鹿な。
この世界は魔力で溢れている。
この世のありとあらゆるもの全てにおいて魔力が備わっている。
道端の石ころにも、死体にも、有機も無機も関係なく等しく魔力は存在する。
勿論、今の我も行使できないだけで魔力は存在している。
そんな世界で、魔力無し?
『蜥蜴さんはわからないかな?』
『我、魔力から完全に遮断されてしまっている故、アルバートとやらに魔力があるかないかの判断は出来ぬのぅ。』
『そうなんだね。とにかく、莫大な魔力を持っていたとする勇者の子孫が代々魔力無しというのも可笑しな話。莫大な魔力持ちならわかるけどね。』
確かに。
魔力は遺伝する。
親が巨大な魔力を持っているなら子もそうなる可能性が高い。
なのに、魔力無し。
『なるほど、500年も経ち勇者の存在もあやふやであり、その子孫と称する者たちは勇者に似ても似つかぬ。では、一体何者なのか…という事か。』
『そう。イブベニア王国の当代王に側室が入り子を成したのは間違いない。しかし、その人物が勇者かどうかの確認はとれない。何故なら側室故に王家図に乗らないから。』
『名前すらわからぬと?』
言われてギルバートと呼ばれた幼体は頷く。
我は知ってるけどね。
名前。
『故に疑惑の血筋が。』
『それだけじゃない。この血筋の人間は王家本筋に子供が生まれると必ず数年以内に子供を成す。』
『…それって…』
『そう、まるで王座を狙うように』
ぞっとする。
500年も執念深く王座簒奪を目論む事も、疑う事も。
『だから、この国では召喚士を優遇する。』
魔力無しが王座につけぬよう。
万が一疑惑の血筋に巨大な魔力が宿った時に対抗する手段となれるよう。
500年もずっとそうやって生きてきたのだ。
『人間はこわいのぅ。』
我は単純な魔物でよかった。
『そなたはだからアルに帰って欲しいのだな。』
王座簒奪を狙ってるなどと言われて欲しくないのだろう。
己が悪役をかってでも。
『本流と傍流は近くて遠い。同じ王宮で兄弟として過ごしたのに、かたや未来の王だ王弟だ、かたや簒奪者だの詐欺師だの言われる。
アルは王宮に帰っても肩身が狭い。
それでも、学校を退学して戻れば少なくとも簒奪の意思無しとみなされ少しはましな生活ができる。』
『のう?ならば今回の騒ぎあまりよろしくないのではないか?』
『…だろうね。間違いなく、王家に連絡がいく。
場合によっては処刑されるかも。』
『処刑!?』
ギルバートと呼ばれた幼体は真面目な顔をする。
『ずっと前からそういう一派がいたんだ。
疑惑の血筋等争いの種にしかならないのだから、処刑してしまえという…ね。』
なんと、非情な事を!
『理由なんていくらでもでっち上げる事ができる。
今まで処刑されなかったのは歴代王が良しとしなかったからだ。
でも、今回は…』
ちらりと我をギルバートと呼ばれた幼体は見るのだった。
予想通り
3日後、王宮よりアルバート宛に書簡が届く。
アルバートと呼ばれた幼体は、ジルと呼ばれた成体とギルバートと呼ばれた幼体の三人で我を伴い王宮に行く事となった。
ジルは魔力の無いアルバート専属の護衛だそうな。
ギルバートは主に事情説明役でお供する事になった。
王宮まで約1日。
立派な王城が見えた。
学校も城のようだったが、本物には敵わない。
王城の周りには近衛兵が剣を腰に差して直立不動で警護している。
門を潜り、王城内へと進む。
馬車を降り、さらに進む。
行き先はまず、宮廷魔導師の実験室らしい。
可能なら我を隷属したいのだろう。
大きな扉を潜るとそこは広い部屋であった。
中にいるのは皆ローブ姿。
彼らが宮廷魔導師なのだろう。
皆がアルバートと呼ばれた幼体の肩に乗る我に注目していた。