我が力を見せてくれよう
「なっ!?」
アルバートと呼ばれた幼体が声を上げる。
「じゃ、いくよ!」
ギルバートと呼ばれた幼体の声に合わせてサンダーバードの雛は、羽を羽ばたかせこちらに向かってくる。
むき出しの爪には青白い雷が這っている。
雛にはこれが限界であろう。
人間に直撃すれば気絶と言ったところか。
対するアルバートと呼ばれた幼体は我を肩から引き剥がし、胸に抱え、サンダーバードに背を向け丸まる。
もしや、庇ってるのか?
弱き人間が、我を?
サンダーバードの爪は正しくアルバートと呼ばれた幼体の背に触れた。
「がっ!!」
ビクッと震え、アルバートと呼ばれた幼体は我を押しつぶすように倒れる。
「まずは一撃!」
ギルバートと呼ばれた幼体は楽しそうだ。
サンダーバードは空中を旋回している。
アルバートは我の予想通り気絶したようで動かない。
我は、アルバートと呼ばれた幼体の下から這い出る。
「あはは、サンダーバード!あの蜥蜴をやれ!」
サンダーバードは旋回をやめ、我に爪を向ける。
その爪は我の体を傷つけようとして…
寸前。
バチッ!
爪が纏っていた雷が弾かれる。
「!?」
ギルバートと呼ばれた幼体から初めて笑顔が消えた。
雷が弾かれ、驚いたサンダーバードは空中へ避難する。
「サンダーバードの雷爪を抵抗した!?」
ギルバートと呼ばれた幼体から驚きの声があがる。
ふと、視線をずらせば、成体を含め他の幼体達もこちらを見ている。
幼体の周りには下等な魔物がうようよしていた。
ギルバートと呼ばれた幼体と同じように影から出たのだろうか?
「蜥蜴ごときがサンダーバードの雛とはいえ攻撃を抵抗!?ありえない!」
ギルバートと呼ばれた幼体はかなり焦っているようだ。
『のう。聞こえるか?』
我は思念伝達をサンダーバードに送ってみる。
ビクッ
見てわかるくらい震える。
『お前、何者だ!おいらの攻撃を抵抗なんて!唯の蜥蜴じゃないな!?」
お、どうやら思念伝達は出来るようだ。
ようやく会話が成り立つ者に会えて機嫌がよくなる。
『我か?我は本来お主などとは口もきけぬ尊い者よ。』
『唯の蜥蜴だろ!』
『これは仮の姿よ?』
『仮だと?』
『そうよ!のう、そんな事より、我、ここがどこか、とか、この人間共が何をしてるのか、とか、知らぬ事が多い故、我に教えるがよい!』
『あ?蜥蜴ごときが偉そうに!
ご主人様!こいつ、隷属しちゃいましょうよ!』
サンダーバードはギルバートと呼ばれた幼体の肩に止まり思念伝達を行う。
なんと、この人間思念伝達が使えるのか!
『おい、ギルバートとやら、我の声が聞こえるか?』
『こんな蜥蜴、隷属してもと思ったけど。アルにあげるにはもったいない玩具かもね?』
『おい、我の声が聞こえぬか?』
『蜥蜴はやはり馬鹿だ。隷属関係でない魔物と人間の間で思念伝達が成り立つ訳がないだろう。』
なんと!
つまり、我の声はギルバートと呼ばれた幼体には届いておらぬか!
ギルバートと呼ばれた幼体がこちらをみながら呪文を唱える。
「かの魔物よ、我に従え!隷属」
パキン!
我が足元でうっすらした絵図が描かれたがすぐに音と共に搔き消える。
「!!!!」
ギルバートと呼ばれた幼体は声もなく立ち尽くし、サンダーバードの雛はこちらを凝視した。
「あの蜥蜴…サンダーバードの雛より格上?」
「それを隷属できてないんだよね?」
「ものすごく危険なんじゃ?」
「ギルバート!下がれ!試験は中止だ!!
生徒全員避難!」
あの成体が叫ぶ。
ギルバートと呼ばれた幼体は言われた通り、逃走を開始。
その他生徒は…
『蜥蜴だろ?』
『所詮雛鳥だ。それより強いだけだろ?大した事ないし。』
『ギルバートざまぁ』
『ご主人様なら隷属できますよ!』
『こら、いう事きけよ!』
『避難だって!』
魔物は好き勝手言い、人間は抑えようとする。
だが、魔物は人間のいう事などちっともきかない。
寧ろ、向かっていこうとする。
人間に隷属している魔物がここにいるのだろうが、魔物の本能故に闘いたがるのか、人間の技量不足か、統率がとれていない。
「隷属!」
成体の声と共にまた我が足元に絵図が現れるが先程と同じく、すぐに搔き消える。
「なっ!?」
「先生の術がきかない!?」
驚く成体に、既に避難済みのギルバートと呼ばれた幼体が声を上げる。
ここに至って、人間の幼体達は焦り始める。
魔物は未だいう事を聞かない。
…これ、我のせいかのう?
別に我、なんもしとらんよ?
周りが勝手に騒いどるだけ。
それにしても、アルバートと呼ばれた幼体は未だ目を覚まさぬのぅ。
べしっと足で頬を突くが反応無し。
周りは騒がしいし…
そんな中。
一体の犬がこちらに向かって走ってきた。
犬の姿をした魔物だ。
中々立派な体で赤い瞳が爛々と輝いている。
大きく口をあけ、舌を出し、涎を零す。
我を狙ってる…
のではなく、アルバートと呼ばれた幼体を狙っている!
犬風情が!
こちらに来るでない!
瞬間、周りが静かになった。
人間は皆、例外なく気絶。
魔物は狂い死にしたからだ。
助かった魔物は唯一避難が完了していたサンダーバードの雛のみだった。
威嚇…が、まずかったのかな?