表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚獣はランク圏外  作者: さやか
5/11

休み明け試験

暫くして、アルバートと呼ばれた幼体が戻ってきた。

「あっ!シロ!ダメじゃないか、袋からでちゃ!」

アルバートと呼ばれた幼体はダメといいつつあまり怒ってはいないようだ。

「おい、アルバート。」

三体のうち一体が声をかける。

「その蜥蜴、魔物だと聞いたが?」

「…ギル兄様から聞いたの?」

…兄様?

もしやアルバートと呼ばれた幼体とギルバートと呼ばれた幼体は同じ父母から生まれたのか?

改めてアルバートと呼ばれた幼体の顔を見る。

黒い髪を無造作にくくり、黒いたれ目。

幼い顔立ちの幼体だ。

対してギルバートと呼ばれた幼体。

あちらは、銀色の巻髪に切れ長の灰色の瞳。

常に心を不快にさせる笑みを浮かべた幼体。

同じ父母から生まれたなら、似ているものだが、

全く似ていない。

「そうだ。召喚した訳ではない、野良魔物を学内に持ち込むなど、事故があったらどうする気だ?」

「僕もここで確認するまで唯の蜥蜴だと思っていたんだ。それに、こんな小さな蜥蜴だよ?

何が起こるの?君達は優秀な召喚士じゃないか。」

…僕と違ってね

小さく呟いた声を我は聞き逃さなかった。

ショウカンシとはなんだ?

「見た目は問題ない!人間のいう事を聞かない魔物が学内にいるのは事故の元だ!」

「我々召喚士だって万能じゃない!」

「寮内では魔力が封じられているから召喚術は使えないんだ!」

「その蜥蜴は小さくても魔物だぞ!?暴れたらどうにかできるのか!?」

口々に喚く三体。

しかし、摩訶不思議な事を言う。

まるで、魔物は人間のいう事をきくかのように此奴らは語る。

笑止!

下等な生物たる人間如きに従う魔物等いるものか?

アルバートと呼ばれた幼体は我を無言で皮袋にしまう。

またか!!

袋の中でひたすら暴れる。

「…袋の中にしまえるんだよ?

確かに、僕が魔術で召喚した訳ではないから、思念伝達もできないし、裏側の世界に閉じ込める事も、隷属もできない。でも、こんな小さな魔物、魔法を使うまでもなく従える事くらいできるさ!」

…ほう?

我は動きをひたりと止める。

中々面白い事を言う。

この我を従えるとな?

「召喚術さえ使えない魔力無しが馬鹿を言うな!」

「そこまで言うなら勝手にしろ!」

「言っておくが、その魔物がこちらを少しでも害せば問答無用で先生に訴えるからな!」

「普段偉そうな事を言って、こんな小さな蜥蜴を怖がるなんておかしいね!」

「なんだと!?」

暫し沈黙。

恐らく睨み合っているのだろう。

我は袋の中だから本当のところはどうだか知らぬが。

結局、特に彼らは暴れる事なく、事を納めた。

我は袋の中で一晩過ごす事になった。



翌朝。

我前に赤い果実が置かれた。

人間の手のひらぐらいよ大きさの果実だ。

アルバートと呼ばれた幼体はナイフで赤い部分を削り取り細かく切って我に差し出したのだ。

…これを食べよと?

我は神格魔物ぞ?

この世界に溢れる魔力を糧に生きてるのだぞ?

人間は他者の死骸を喰らうが魔物は下等種族でない限り食事など不要ぞ?

…わかるわけないのだろうな。

我は渡された果実の欠片に足を置く。

…別に食べれない訳ではないし、喰らうくらいしてもよい。

しゃり。

瑞々しく、甘露が口の中に広がる。

ふむ。

悪くない。

しゃりしゃりしゃり。

「よかった!シロは林檎が気に入ったんだね!

ジルクは肉食だって言ってたけど、草食でよかった!」

こら、指で我が頬を撫でるでない。

くすぐったいわっ‼︎

はっ!

この赤い果実…林檎というのか?がもうなくなってしまったわ。

「…もっと食べる?」

ちらっと見せる林檎の欠片に不覚にも視線が釘付けになってしまった。



我を肩に乗せアルバートと呼ばれた幼体は建物を出た。

出た先でジルクと呼ばれた成体がいた。

此奴、この建物に入らぬのか?

まあ、居たくない気持ちはわかる。

「おはようございます。」

「おはよう。」

「蜥蜴はおとなしくしてましたか?」

「蜥蜴じゃなくてシロね?」

アルバートと呼ばれた幼体は歩きながら言う。

「失礼しました。それでおとなしくしてましたか?」

「うん。袋の中でおとなしく寝てた。」

「食事は食べましたか?」

「林檎を半分食べたよ」

「半分!?」

ジルクと呼ばれた成体は驚いたような声を上げる

「明らかに体より食べた量の方が大きいじゃないですか?」

「言われてみればそうだね。」

アルバートと呼ばれた幼体は今気づいたように言う。

「だから、そんな腹を膨らませて仰向けで満足気な顔してるんですね。」

…見るでない。

我とてこの姿は不本意なのだ。

しかし、調子に乗って食べ過ぎた故、苦しくてうつ伏せでは辛いのだ。

たぷんたぷんの腹をさすりつつ思う。

「本日の授業ですが、休み明けテストがあります。」

「…それって、座学?実技?」

「両方でございます。」

アルバートと呼ばれた幼体は天を仰ぐ。

「最悪。」

空はどこまでも青く澄み渡っていた。


アルバートと呼ばれた幼体は大きな建物に入った。巣がある建物を屋敷と称するなら、この建物は城と呼ぶのが相応しいだろう。

建物の大きさはそれぐらい違う。

アルバートと呼ばれた幼体は迷うことなく、ある部屋に入った。

「おはよう、アルバート!」

「おはよう、ナキ!」

どうやら、ナキと呼ばれた幼体はアルバートと呼ばれた幼体に悪意は抱いていないらしい。

「おはよう、アルバート!休みはどうだった?」

「おはよう、ルナ!休みは…まあ、いつも通りだったよ。」

このルナと呼ばれた幼体もアルバートに好意的だ。

どうやら、三人は友好関係にあるらしい。

「聞いたよ、それが例の、蜥蜴?」

「そうだよ。シロって言うんだ」

「…クロでなくて?」

…やはり、そう思うよな。

「それだと単純だからね。シロにした。」

『…』

二人は無言だ。

「ねえ、それはともかくその…シロ?撫でても平気?」

ルナと呼ばれた幼体が聞く。

アルバートと呼ばれた幼体は許可を出す

ルナは我の腹を撫でる。

くすぐったい!

我は体を捻り体勢を整える。

ナキと呼ばれた幼体も撫でる。

こら、頬をグリグリするでない。

「可愛い…」

「そうかな?」

ルナと呼ばれた幼体の呟きにナキと呼ばれた幼体が疑問を呈する。

失礼な奴だ。


ガラリ

そこに、扉を開けて成体が入ってきた。

途端、複数いた幼体は皆椅子に座る。

「おはようございます。

みなさんお休みはどうでしたか?

私は、この休み中、可愛い女の子をとっかえひっかえして遊び暮らして給料がなくなりました。」

…この成体大丈夫なのか?

無性に不安になる。

「ですから、腹いせにテストします。」

『えー!?』

至る所から不満の声が聞こえる。

「アルバート知ってた?」

「今朝、ジルクから聞いたよ」

アルバートと呼ばれた幼体は肩をすくめる。

「勉強した?」

「まさか!」

アルバートと呼ばれた幼体の問いにナキと呼ばれた幼体はきっぱりと言い切った。

そうこうしている内に紙が裏返った状態で配られる。

これがテストなるものか?

興味津々だ。

「では、はじめ!」

成体の声を合図に素早く紙を表向きにする。

アルバートと呼ばれた幼体は羽根筆を片手に問題を解こうとしている。

「…何?召喚術の歴史…?

8代王弟の名前…?覚えてない…。」

この辺りの文字がショウカンジュツ、ここが、レキシ…となると、ここが…。これが、数字か。

我はこの時間を利用して文字を覚える。

やはり、人間の文字など容易だ。

この調子なら数日で覚える事が出来るだろう。

だが、アルバートと呼ばれた幼体のテストの結果はおそらく芳しくないだろう。


テストがおわり、アルバートと呼ばれた幼体は灰になっていた。

「ご苦労ご苦労!次は外で実技試験だよ。

運動着に着替えて10分後に集合!

あ、女子は着替えなくてもオッケーだよ!

スカートがめくれて見える桃源郷見たい!」

雌は皆無言で運動着片手に部屋を出て行った。

雄の幼体は皆この部屋で着替えるらしい。

アルバートと呼ばれた幼体は紺色のジャケットを脱ぎ、タイを外し、ブラウスを脱ぐ。

代わりに半袖のシャツを着た。

焦げ茶の短パンを脱いで、代わりに黒い短パンを履く。

靴も革靴から布靴に変えた。

周りを見ると、皆同じ服装になった。

そういえば、最初に着ていた服も皆揃いだった。

ここでは着る服が決まっているようだ。


アルバートと呼ばれた幼体とナキと呼ばれた幼体は連れ立って外に出た。

随分広い空き地だ。

この空き地で何をするのだろう。

そう思っていると、視界の端にギルバートと呼ばれた幼体を捉える。

笑いながら嫌な事を言う奴だが、昨日窓から捨てられずにすんだのは此奴のおかげ。

少し感謝しておこう。

少しな!

「さーて、みんな集まったね。

これから、模擬戦をやるよ。」

モギセン?

「みんな、自分の召喚獣を使い、3撃先制した物が勝ち。簡単な、ルールだよね!じゃあ、ペアになって各自やってみよー!」

「ナキやろう!」

「いいよ!」

「あっ、待って!言い忘れてた!

今日は星組と倫理組の合同テストだから、同じ組の子とは組まないで、他組の子とやるように!」

『え』

アルバートと呼ばれた幼体とナキと呼ばれた幼体は同時に声を漏らした。

どうやら、二人は組めないらしい。

「アル!僕と組もう。」

「ギル兄様。」

「ふふ。他の子に迷惑かけるわけにはいかないから、兄弟のよしみだよ。」

二人は空いたスペースに陣取り距離を開け対峙する。

他の幼体も同じようにスペースを見つけペアの子とそれなりの距離を保ち対峙していた。

何する?

「じゃ、はじめ!」

成体の声がする。

途端、幼体の声が響く。

呪文だ。

「アル!」

目の前にいるギルバートと呼ばれた幼体が声をかける。

「お前は召喚術が使えない。でも、肩の魔物を使うんだろ?」

「…」

アルバートと呼ばれた幼体は一歩引いた。

肩に乗る我に手を乗せる。

守るように。

「使わないの?使わないとまた、僕の召喚獣で吹っ飛ばすよ。」

「…!」

また?

もしや、よくやられておる?

ギルバートと呼ばれた幼体も呪文を唱える。

「我が影よりいでよ!」

途端、ギルバートと呼ばれた幼体の影より出たのは…

一羽の鳥だった。

無論、魔物だ。

見た目は銀色の鳥。

長い尾。

翼を広げれば1メートル位の大きさか。

透明な瞳を持つ鳥だ。

…下級種族、サンダーバード

…の、雛だ。

愛い奴め。

我が、爪の先に触れる事さえ不可能な弱き者よ。

して、この下等な魔物がなんとな?

「どうする?その魔物を使う?」

ふふふと笑う。

「あ、そういえばその魔物、召喚獣として書類提出したんだよね。」

楽しそうに言う。

「それが?」

「召喚獣として登録されてる魔物を使用しないと使役不能とみなされてその魔物、廃棄されちゃうよ?」

心底楽しそうに我を見ながらギルバートと呼ばれた幼体は言うのだった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ