人間の巣は不快也。
アルバートと呼ばれた幼体は我を肩に乗せて建物の奥へと進む。
なんと、移動に便利な事か!
蜥蜴の足で進むより早くて楽だし、風景も見える。今後はこの方法で移動しよう。
此奴の肩は我専用だ。
階段を登り廊下を進み、扉の前に立つ。
すぅーはー
アルバートと呼ばれた幼体は深呼吸をする。
この扉の向こうに何があるのだ?
そういえば、ジルクと呼ばれた成体は何故着いて来なかったのだ?
アルバートと呼ばれた幼体は扉を開いた。
中には、人間が三体いた。
いずれも幼体のようだ。
部屋の中を見渡す。
二段になった寝台が二つ。
折りたたみ式の、台が二つ。
備え付けの棚が4つある。
どうやら、人間の巣のようだ。
人間の巣の内部など初めてみた。
中々興味深い。
だか、同じ巣で暮らしていると思われる三人はアルバートと呼ばれた幼体を快く思っていないようだ。
「…」
「…」
「…」
三体はアルバートと呼ばれた幼体をちらりと見たら後は無視をした。
「…」
アルバートも無言で寝台の一つに腰をかける。
寝台に置かれていた木製の鞄を開けて整理を始める。
「戻ってきたよ。」
「しんじらんね」
「俺ならとっくに辞めてる」
三体は集まりアルバートと呼ばれた幼体をちらちら見ながら額を寄せ合い小声で話す。
なんと、不快な事だろう。
ギルバートと呼ばれた幼体といい、此奴らといい、ロクな人間がアルバートと呼ばれた幼体の周りにはいない。
アルバートと呼ばれた幼体は腰にくくりつけていた籠からオロチと呼ばれていた蛇を出し、寝台の横に置いてある硝子籠に移す。
硝子越しとは言え、その目と舌は見ると身が竦む。
「蛇だよ」
「肩に蜥蜴がいるし」
「気持ち悪い」
三体の声が聞こえる。
何故、アルバートと呼ばれた幼体はこのような不快な場所に身を置くのだろう?
我ならとっくの昔に出て行くのだが?
それからしばらくの間、アルバートと呼ばれた幼体は荷物の整理をし、三体はアルバートと呼ばれた幼体の悪口を言いつづけた。
だが、日が沈むと同時に終わりを告げる。
「さあ、シロ!食事に行こう!」
寝台の上で丸くなりうつらうつらしていた我を肩の上に乗せる。
「え!?ちょっとアルバート!
蜥蜴を食堂に連れてく気?」
「ダメなの?」
「不潔だよ!」
「蛇と同じようにしまっときなよ。」
言われてアルバートと呼ばれた幼体は暫し考える。
「そうか…。仕方ない。シロはお留守番だね。」
言って我の体を皮袋に放り込む。
なんと!
連れて行ってはくれぬのか!?
袋の中で暴れるも、どうやらアルバートと呼ばれた幼体は行ってしまったらしい。
くそ!
くそ!
出たいぞ!!
暫し暴れる。
疲れた、一休み。
また暴れる!
お、口が緩んだ!
必死でもがき遂に袋から出る事に成功する。
ふっ!
我にかかればこれくらいどうという事はない。
でも、疲労を感じる…。
我は腹を出して肩で息をする。
よし、落ち着いた。
我は体を捻り体勢を整える。
改めて巣を見る。
どうやらこの巣をあの三体と共有しているようだ。
嫌だのう。
悪意が満ちておる。
大体、我にわからぬ事が多いのも気に入らぬ。
ガクナイ?
ショウカン?
ギワクノチスジ?
一体なんだというのか?
それに魔物は人間に仇なす存在ぞ?
なのに、幼体の側に置いておくとはどういう判断だ?
あと、我をランクガイと言った絵図。
あれもなんなのだ?
我は初めて見るぞ。
これらも全てアルバートと呼ばれた幼体と共に過ごせばそのうちわかるのだろうか?
我は周りを見渡す。
寝台の上には先程までアルバートと呼ばれた幼体が整理していた鞄が置いてあった。
我は二本足で立ち上がり、留め具を開ける。
単純な留め具故、蜥蜴の身でも開ける事が出来たわ。
よっこいせ。
力を込めて蓋を開ける。
バネがきいているらしく、意外な程楽に開いた。
中には…
本だ!
本が入っている!
我は本を見てみる事にする。
よっこいせ。
我は本を開いた。
ほう。
この幾何学模様が人間の使う文字なるものか。
ふむ。
初めてみたが、読めないな。
だが、規則性を感じる。
教えて貰えば簡単に解する事が出来そうだ。
アルバートと呼ばれた幼体は我に教えてくれるだろうか?
ガチャリ
扉が開く音がした。
あの三体が入ってきた。
三体は本の上に乗る我を見下ろす。
「うわー、蜥蜴が袋から出てる!」
「まじか!なんでこんな気持ち悪い生き物を持って帰ってくるのかな!?」
「迷惑なやつ!」
「捨てよう!」
今、此奴ら不穏な事を言いおった!
我は逃げの態勢に入る。
だが、遅かった。
三体のうち一体が、我を捉える!
離せ!
離すがいい!
「どこに捨てる?」
「この下でいいでしょ」
窓を開けた。
まさか、窓から我を放り投げる気か!?
よせ!
よすのだ!!
「辞めた方がいいんじゃなぁい?」
聞いた声がした。
『ギルバート様!』
三体の声が同時に響く。
そこにはあの嫌な奴がいた。
相変わらず、楽しそうに笑っている。
「それ、一応魔物だよ?」
『えっ!?』
「これが!?」
「あはは、そう。こんなんでも一応魔物だからね。下手な事して恨みを買ったら呪われるよ。」
三体はまじまじと我を見る。
呪わないし、呪い方なんて知らないけど、呪うつもりで此奴らを見る。
「うわっ!」
我を捉えていた人間が我を床に投げつける。
べしっ。
なんとか四つん這いの姿で着地できたが痛いではないか。
「あはは!この蜥蜴はアルの召喚獣だからね。
大事にね?」
「召喚獣!?」
「成功したのですか!?」
「あはは!アルは魔法が使えないんだよ?
これは何処かから勝手に連れてきたんだよ。」
「野生の魔物を捕まえた、という事ですか?」
「そう。だからね?」
ギルバートは楽しそうにいう。
「アルとこの蜥蜴は思念伝達で意思を伝え合う事もできないし、魔法で隷属させてる訳でもない。
いう事を聞くと決まっていない魔物がどれだけ危険かはわかるよね?」
だから、下手に触らない方がいいよ。
きっとこの魔物がアルをここから追い出してくれるからと笑いながら言い帰って行った。