表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
召喚獣はランク圏外  作者: さやか
3/11

我はランク圏外

眠りから目が覚めた。

アルバートと呼ばれた幼体の膝の上だった。

うむ。

やはり、あの一連の流れは夢でなかったか。

という事は、やはり我が身は蜥蜴のようだ。

我はアルバートと呼ばれた幼体を見つめる。

かの者はねむっていた。

振り返り、ジルクと呼ばれた成体をみる。

かの者は本なる物を読んでいた。

ふむ。

我は知ってる。

人間は下等故、思念を直接脳へ伝達する事は出来ない。

では、知識の継承はどうするかと言えば、

その手段の一つに文字を書き連ねた物…本なる物を読み解くというものがある事を。

これが、その本なる物なのだろう。

ふむ。

我にも見せるがよい。

我はアルバートと呼ばれた幼体の膝の上から抜け出し、ジルクと呼ばれた成体の膝の上に行く。

かの者は我が膝の上に来た事に驚いたようだ。

ふははは。

高貴なこの身を触れる事を許してやろう。

感謝するがよい。

我はジルクと呼ばれた成体の手に向かって…

べち。

なんと、この雄、我が身を振り払った!

なんと罰当たりめ!!

我はジルクと呼ばれた成体の膝の上でひっくり返る。

「本が汚れる。全く。そうだ。」

ジルクと呼ばれた成体は皮袋を取り出した。

ま、まさか!?

がばり

我は皮袋にしまわれてしまった。

出せ!

出すのだ!!

皮袋の中で暴れる。

出れる気がしない…。

勇者の封印並に頑丈な袋よ!

「うん?ジルク?」

袋の外で我が保護者…ではなく、守る栄誉を与えた下僕の声がする。

「あ、起きました?」

「何してるの?」

「蜥蜴をしまったのです。」

「さっきまで僕の膝の上で寝てたのでは?」

「起きて、私の所まできて、本を汚そうとしたのです。」

汚そうなんてしとらん!

本なる物を見たかっただけだ!

「ああ、じゃあ、仕方ないかぁ。」

なんと!

我をしまったままにすると申すか!?

我は暴れるのをやめて呆然とする。

「おとなしくなりましたね。」

袋ががさりと動いた。

どうやら、ジルクと呼ばれた成体がアルバートと呼ばれた幼体に袋を渡したようだ。

アルバートと呼ばれた幼体が、袋の口を緩めて中を覗いた。

「…なんか、落ち込んでる…?」

「…まさかぁ」

ジルクと呼ばれた成体が鼻で笑う。

「ところで、あと、どれくらいで着くの?」

「もう間もなくです。」

「そうか。もう、街中だものね。」

なんと!?

街中とな!?

みたい!みたいぞ!!

我は再び暴れる。

が、袋の口がきゅっと閉じられ出る事は叶わなかった。

「ところで、学内に魔物以外の生き物を持ち込む場合、許可を取らないといけないのですが。」

ガクナイ?

なんだ?それは??

「そうなの?」

「ええ。でも、森蜥蜴ですからね。まあ、書類に名前を書いて出せば5分で許可は降りるでしょう。」

「あ、そうなの?よかった。」

「名前は決めましたか?今のうちに決めておいた方がいいですよ。正門前は混みあいますからね。」

「ああ、確かに。」

名前?

名前なら、我にはちゃんとあるぞ!

伝える術がないがな!!

「うーん。じゃあ、黒いからシロで!」

解せぬ

「意味がわかりません。」

あ、意味が理解できなかったのは我だけでなかったようだ。

「そこはクロにすべきでは?」

「それじゃ、単純じゃん!」

「シロなら単純でない…とお思いで?」

「クロよりは捻った!」

捻ればよいというものではない。

が、そういえばあの蛇の名前はオロチだったな。

どうやら、アルバートと呼ばれた幼体は名付けのセンスが壊滅のようだ。

「まあ、好きにすればよいかと。」

「うん!今日からこの子はシロだから!」

はっ!

ちょっと待て!

我が名がシロに決定した!?

我には別に名前があると言うておろう!

袋の中で暴れる。

「気に入ったみたい!」

「…嫌がっているのでは?」

ジルクの鋭い指摘は無視され、我が名がシロに決まってしまった。


馬車が何かの建物に入ったらしい。

我は袋の中故確実な事はわからぬが、馬車の揺れが緩まり、動きが緩慢になったからそう、判断した。やがて、馬車は止まった。

袋がふわりと浮かんだ。

どうやら持ちはこばれているらしい。

外がみたい!

出せ!

出すのだ!

暴れたいが、足元が不安定でうまく暴れる事が出来ない。

「アル!」

「げ。」

アル…アルバートの事か?は誰かに呼ばれたようだが、嫌そうな声をあげる。

「なんだ、戻ってきたのか。帰ってこなくてもよかったのに!」

「ふん!」

どうやらアルバートと呼ばれた幼体は声の主を無視する事にしたらしい。

「戻ってきても、才能も知識も劣る君じゃあ、ここではやっていけないよ。君は帰るべきだ。」

「…」

「本当はわかっているのだろう?」

「次の人!」

「あ、はい!」

誰かに呼ばれ、アルバートと呼ばれた幼体は先程からうるさく話しかけていた者から離れる。

「新しい生物の持ち込み許可ですね。見せてもらえますか?」

「はい!」

途端、袋がひっくり返る。

どさ。

我は袋から出され、木で出来た台の上に乗せられる。

なんと、乱暴な!

我は両前足で頭を押さえる。

「随分、人間臭い動きをしますね。」

目の前に雌の成体がいた。

「それが面白くて連れてきたんです!」

「もしや、人間なのでは?」

「え?」

「何らかの呪術により人間が蜥蜴に変えられた物かも…」

なんと!

人間はそのような無体をするのか!

人間は存外残酷な生き物のようだ。

「調べてみましょう」

雌の成体は言うが早いか、呪文を唱える。

「かの者の、正き姿を映し出せ!」

バン!

途端、我が身を乗せていた机が弾け飛んだ。

べし。

床の上に我が身は落ちる。

絨毯がひいてあったか、痛くはないが、

成体の雌もアルバートと呼ばれた幼体もジルクと呼ばれた成体も、驚き声を失っていた。

今のは…

抵抗(レジスト)!?」

…ではないな。

単に我が身にかかっていた封印に弾かれただけだ。

我は抵抗(レジスト)などしていないのだから。

やはり、勇者がかけた我が封印は解けたのではなく、解けかけているという状態のようだ。

中途半端な状態のようだが、簡易な解析魔法は弾いてしまうようだ。

まあ、人間にはそんな事分かるはずもないがな。

「これは、生物ではなく、魔物のようです!」

成体の雌が言う。

「魔物!?」

む。

魔物はまずいか?

人間と魔物は天敵同士。

もしや、愛らしい蜥蜴でない我はこのまま殺されてしまう!?

我は身構える。

身構えたところでどうにもならないが。

「あはは!」

笑い声が聞こえた。

そちらを見ると、先程アルバートと呼ばれた成体に無視された声の主だった。

「よかったじゃない。召喚できないから、自力でつかまえたんでしょ?一応、魔法耐性もあるみたいだし、その蜥蜴を使役すれば、ここにはいられるんじゃない?」

ケタケタ笑っている。

ショウカン?

シエキ?

なんだ?

何を言っているのだ。

だが、どうやら魔物でもいることはできるらしい。

「どうします?」

成体の雌が問う。

「ランク確認お願いします。」

「かしこまりました。」

言って成体の雌は我が身を捕らえると後ろに設置されている…絵図の上に我を置く。

これはなんだ??

途端、絵図が光った。

『ランク判定確認中、ランク判定確認中、ランク判定確認完了。ランク圏外。』

「…」

「…」

「…」

なんだろう。

いたたまれない。

この絵図にものすごく失礼な事言われたような。

と、いうか、成体の雌の魔法は抵抗(レジスト)できたのに、絵図の魔法はできないのは何故だ。

「あはは!」

先程から笑ってばかりの人間だ。

「ランク外!初めて見た!所詮蜥蜴の魔物だよね!」

「ギルバートさん!」

雌の成体がいい加減注意する。

そうか、この煩い人間の幼体はギルバートというのか。

「あはは!でも、アルには丁度いいんじゃない?

出来損ないの疑惑の血筋君にはさ。」

ギワクノチスジ?

「ギルバートさん!」

再度注意される。

「はいはい。ごめんなさいね。」

ぺろっと舌を出す。

「でも、事実でしょ?」

この幼体は注意されても特に気にするそぶりを見せない。

「君にはランク圏外の魔物かお似合いだよ。

嫌なら、別の魔物を召喚すればよい。出来ればだけどね。」

ギルバートと呼ばれた幼体は笑いながら去っていった。

我はアルバートと呼ばれた成体を見る。

かの者は下唇を噛み涙をこらえていた。

もしや、我のせいなのか?

ランクケンガイの意味はわからぬが、そのせいで傷ついたのでは?

人間の心は脆いと聞く。

これが原因で捨てられては、我は生きてゆけぬ。

ここは、慰めるのが得策か。

我はアルバートと呼ばれた幼体の肩に素早く乗り、そっと頬にすり寄った。

「シロ…僕を慰めてるの?」

そうだよ。

我を捨てられては困るからな。

「ありがとう、大丈夫。」

にこりと微笑む。

うむ、我を捨てるなど、ゆめゆめ思うなよ。

「すみません、この子、とりあえず、召喚獣に指定します。」

「えっ!いいんですか?」

雌の成体が驚く。

「はい、今のところ、僕は魔物を召喚できないですし…僕はここにいたいんです。」

「そうですか…では、書類はこちらになります。」

雌の成体に促され、アルバートと呼ばれた幼体は書類を書き始めた。

そんな様子をジルクは見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ