覚悟しろ?
そうか、アルバートと呼ばれた幼体は王座に興味はないのか。
あるのは、勇者の存在確認と魔力無しの意味を知る事。
この二つが此奴にとって存在理由を確固たるものにする要素なのだろう。
それはわかるが、此奴が勇者の子孫かまでは我にもわからぬの。孫くらいまでなら、面影もあったかもしれぬが、500年経っての子孫ではのう。
そうこうしているうちに、謁見の間に着く。
奥に王が玉座に座り、その脇を近衛兵が固める。
さらに、緊張感甚だしい金色の騎士服を着た者が数十人おり、銀色のローブを着た魔法使いも数十人いる。
かなり広い間の為、これだけ人間がいても狭苦しく感じない。
「竜騎士に、召喚士…すごい、警戒されてる。」
アルバートと呼ばれた幼体はポツリと零す。
『おい、サンダーバード!リュウキシとはなんだ?』
『召喚士の中でも才能があり竜を従える事が出来た者を指すっす!召喚士最強っす!』
『ほぅ。人間が竜を従えるとはのう。』
中々凄いではないか。
『あれ?蜥蜴さんもアルバートさんに従っているんすよね?
だったら、アルバートさんも竜騎士?』
『おい、こら、我は別に此奴に従っている訳では…』
慌てて訂正しようとした時。
「アルバート、ギルバートよく来た。」
『はっ』
二体は揃って膝をおる。
「それが例の蜥蜴か。」
「はい。魔法は一切効かず、代わりに魔法を行使する事は叶いません。」
「魔法が使えなくても、威嚇だけで、下等魔物を発狂死させる程とはな。」
王は玉座から降りる。脇に控える近衛兵も共に着いてくる。
アルバートと呼ばれた幼体の前に立つと我を凝視する。
「アルバート!ついてくるがよい!」
「は、はい!」
言われてついていく。
後を追うように、数人の竜騎士と召喚士も着いてくる。
ギルバートと呼ばれた幼体は呼ばれてないのでついてこない。
一行は地下へ地下へと進む。
「地下牢より地下へ…?」
どうやら、アルバートと呼ばれた幼体も予想外な場所へと進んでいるらしい。
階段を下りきった先には壁があった。
王は壁に触れ、何やら呪文を唱える。
すると、壁に穴が開き前に進めるようになる。
「ここから先はこちら側の世界ではない。」
「…それは、裏側の世界という事ですか。」
「そうだ。ここから先は我らは行けぬ。
其方だけが行ける場所。
何が起きても行くがよい。覚悟せよ。」
アルバートと呼ばれた幼体は一歩踏み込んだ。
瞬間、我の意識は飛んだ。
アルバートと呼ばれた幼体の声が聞こえる。
何を嘆く?
何をその手に持っている?
…ああ、我の体だったものか。
嘆くな、このまま、進め。
それの役目は果たしたのだから。
それから暫し時が経つ。
我前にアルバートと呼ばれた幼体がいた。
ここは亜空間。
人間が裏側の世界と呼ぶところ。
本来ならば決して来る事の出来ぬ場所。
唯一これるのは、其方だけ。
『我声が聞こえるか?』
『!?な、な、何!?』
アルバートと呼ばれた幼体は唯声をあげる。
この、先の無い亜空間を占めるように我巨体が収まっている。
『そのように怯えるで無い、林檎をくれた仲ではないか。』
『えっ!?シロなの!?』
『うむ。』
『一体、何がなんだか…』
アルバートと呼ばれた幼体は手の中で死に絶えた蜥蜴を見つめる。
『それは我の仮想体だ。』
『アバター?』
『そう、我を封じていた封印が一部壊れた。我意識の一部が宿ったのがその蜥蜴だ。
蜥蜴故、魔法を行使出来ぬ。 封印の影響で他の魔法を寄せ付けぬ。
それがその蜥蜴だ。』
『封印?』
『勇者の封印よ。』
『な!?じゃあ、お前は!?』
『そう、我こそが人類の天敵魔物の頂点に立つ神に最も近い魔物、魔王よ』
『!』
『其方、ここまでこれたのだ、間違いなく勇者の子孫よ。』
『?』
『ここは勇者とその血に連なる者のみが入れる場所。他の者は決して入れぬ。我が入れぬ。』
『勇者はいたの!?』
『おお、いたとも。』
ここで、我はニヤリと笑う。
『其方が勇者よ?』
『…?』
アルバートと呼ばれた幼体は首をかしげる。
我は愉快だと思う。
アルバートと呼ばれた幼体がこの空間に足を踏み入れた瞬間、我意識は本体に戻った。
瞬間、事態を、正しく理解した。
実に痛快なこの事実。
勇者は500年も経ってからこのような面倒で面白い事を根回し無くやらせるのだから困ったものよ。
いや、退屈していたのだ、全然困らないな。
さあ、アルバートと呼ばれた幼体よ。
覚悟しろ?




