00話 第二次人魔大戦
<魔法歴>
終末戦争(第一次人魔戦争)により西暦が終わった後の時代のこと。
多くの人類が魔法を使えるようになったのが西暦との大きな違いである。
魔法歴500年6月18日。
西暦に終止符を打った異界の魔物達が地上を進行していると聞き、人類は協力して本拠地【魔王城】を奇襲した。
古代の科学を吸収した魔物達は恐るべき強さだったが、人類が作った魔法仕掛けのロボット……通称RMMはそれ以上であった。
魔物が持つ対魔法用防護壁はRMMのミサイルによって意味を無くし、物理特化の魔物は機関銃で蜂の巣にされた。
西暦人は魔法を知らなかった……信じていなかったので魔物に勝てなかったが、今の人類は魔法を知っている。それは人類において大きな躍進となった。
しかし……敵もそう甘くなかった。
【魔王城】門前。
全長3mのRMM『ラグナロク』に乗る青年、ラグナ・ルーズカルムは驚きに目を見張っていた。
【魔王城】から現れた戦艦型の魔物が、味方を次々に破壊している。
『くっそぉ!化物があああああ!!!』
隣の量産型RMM『メイジ』が放った魔法誘導ミサイルも、あの戦艦型魔物には大したダメージにならないようだ。
ガコンと音がして、戦艦型魔物の至るところから機銃が現れる。そこから放たれる弾丸は、微弱なものであった。
が、何か良くないものを感じ取ったラグナは、後退する。
直後ー
『ぐああああああ!?』
激しい爆音と共に先程の『メイジ』が粉々になった。
「成る程……止まったら死ぬってことか」
敵の行動を理解したラグナは舌を巻く。あの戦艦型魔物は機銃で足を止め、ミサイルで的確にRMMを撃ち抜いている。そこまでの知性があるとは中々である。
ならば止まるまいとフットペダルを踏む。そして黄金の道筋を描きながら『ラグナロク』は進む。
『ラグナロク』は【魔王城】に最も近いヘイオス大陸の国王、キル・ルーズカルムが息子の為に用意したものだ。自分の名前が入っているから『ラグナロク』と言う名になったRMMをラグナは心底嫌いだったが、今はこの高機動性に頼るしかないと考えている。
『ラグナロク』は戦艦型魔物の正面に出ると、息を飲んだ。
戦艦の正面には大きな頭骸骨のようなものがついている。それが赤い目を光らせ『ラグナロク』を睨むと、目からレーザーを放つ。
「チッ!!」
反射的に背中の大剣を使い防ぐも、傷一つつかない事に疑問を持つ。
『まさか!?』
その真意に気づいた時には、視界が青白く染まっていた。
「くっ……」
どうやらRMMが吹き飛ばされたことで気を失っていたらしい。ラグナは自分が無事であることにほっとしているが、周りを見たときには絶句した。
先程まで大量にいたRMMのほとんどが破壊されており、戦艦型魔物がほぼ無傷のまま空中に佇んでいた。
『ラグナロク』は左腕と大剣が半分消しとんでおり、各関節部分が悲鳴を上げている。
この絶望的な状態を見ても、ラグナは退かなかった。
それは気が狂った訳ではなく、ただ単純に『死にたくない』だけであった。
「ケツ撃たれて死ぬか、アホみたいに立ち向かって死ぬか……それだったら」
ラグナの意思に答えるように『ラグナロク』が立ち上がる。
『アホみたいに勝ってやる!』
ーいくぜ、『相棒』
フットペダルを踏むと全速力で駆け抜ける。再び戦艦型魔物の正面に立つと、放たれる魔砲やミサイルをかわし、ジャンプした。
『おおおおおおおおおおお!!!』
RMMの装甲越しに聞こえる有声の気合い。それを体現したような動きで折れた大剣が骸骨部分に突き刺さる。
前に、見えないフィールドがなければ。
大剣は戦艦型魔物のフィールドに突き刺さった。そのフィールドはあらゆるものを通さぬフィールドで、魔法は当然のことながら、剣すらもそれを通過出来ないのである。
格好の的となった『ラグナロク』に止めを刺すべく魔砲を放とうとしたその時ー
奇跡が、起きた。
大剣に触れた部分からピシッと音がする。そこから音は広がり、戦艦型魔物は氷で包まれる。
『ラグナロク』の大剣にはちょっとした仕掛けがあった。これは剣先から氷塊を生成し、発射できるものであったが、その回路が生きていたのだ。
ラグナはその回路で、魔力を全て使ってフィールドを凍らせ、巨大な氷塊を作ったのだ。
「……ざまぁ……みろ……」
己の魔力も使ってしまったラグナは意識を失い、『ラグナロク』も魔力切れでスラスターが止まる。
巨大な氷塊は重力に導かれるまま【魔王城】の門を大地ごと破壊し、深海へ沈んでいった。
その僅か10分後。【魔王城】は完全に破壊され、人類の勝利が言い渡され、この戦いは永遠に語り継がれることとなる。
ーしかし、その中にラグナとその搭乗機『ラグナロク』の名前は、一切なかったという。
……そして舞台は魔法歴1493年へ移ることになる……