<3章>未知との遭遇
<3章>
未知との遭遇
「どわぁああああ~~~~!!」
ぱっと目の前の景色が切り変わる。
ん?うっ!眩しい。
すでに地球の地上にいた。
「おうわ~~さ、さぶ・・・・・・・・・・くない!?」
「シベリア・・・・・・・・・・じゃ・・・・ない。」
極寒の国に着いたはずであったが、なぜか猛烈な暑さが襲う。
「ここはシベリアでは。」
「そのはずだったのですが。」
辺りを見回すと一面畑が広がっており、青々とした草があちらこちらでゆらゆらとゆらめいている。
すぐそこにはひまわりがたくさん咲いていて、その向こうにはビニールハウスも見える。
二人はなぜか畑のど真ん中にぺたんと座っていた。
思わず顔を見合わせる。
どこ?
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「ゴホン!まあ、その、そんなわけでですね。」
ごまかした、この人ごまかしたぞ・・・。
「緯度・経度計の不具合のようです。これではおそらく言語同時解析装置もやられてしまって使えないでしょう。」
大気圏突入前に左耳につけたカフはブレーンと言われるだけあって言語同時解析装置としても使える。リアルタイムで使用言語を確認し、自動照合して自然に相手と会話ができるようにする機能も無論あったが、計器の不具合がみられるときは大抵同時に複数の不具合を生じることが多いため、この地域の言語を瞬時に理解することはおそらく期待できないと思われる。
「え?それではこの地の者とは意思の疎通が図れないということですか。」
「修理をするにも道具がなければ何とも言えませんね。しかし、この際シベリアでなくたってかまいません。乳児・幼児など明確な意思表示が出来ない者は無論対象外ですが、一定以上の思考力があると確認できる者であるならば本来対象者は誰でもかまわないのです。地球時間の一日はあっという間に終わってしまいますし、粛々と調査を進めるしかありません。」
「といいますと、とにかく誰でもいいから大人に遭遇したら、その人の生態と思考の調査を済ませれば問題ないということですね。」
「そういうことです。数人でよいのですからすぐに終わらせて戻りましょう。」
昔アロンが一度だけ踏み入れたことのあるロシアにおける言語がこの地でも役に立つことを期待するばかりだ。
「あわああああぁ!」
「はうっ!」
アロンがふと顔を上げた時、向こうから何者かがゆっくりとこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
「第一村人・・・発見。」
ちょ、言い方っ!ダーツで旅するあの番組見たいな言い方しないでくださいっ!
「しっ!静かに。挨拶してとりあえず一人目は様子見で通り過ぎ、第二村び・・・もとい二人目を対象者としましょう。なんせ相手は極悪非道な戦闘種かもしれないのですからね。慎重にいくことです。」
ルカがゆっくりとうなずく。
二人はゴクリと生唾を飲み込み、意を決してすっくと立ち上がり、サッと人の前へと出た。
「Здравствуйте!(ズドラーストヴィチェ)」
アロンがとりあえず記憶の片隅にあるロシア語で笑顔でこんにちはと話しかけてみた。
また背中に極上のシャボン玉見えてますけども。
その人は急に声をかけられて驚いた顔をした後口を開いた。
「あんらぁ~まあ~~~外人さんがぁ~そげん格好で何しとる?どっがら来た?あ?よく日本までおいでなすったなあ。」
「人」と初めて接したルカは、思わずポカンとしてしまった。
人は思ったよりずっと小さくて地味で、不思議な形の装備を着けていているものの、一見凶暴そうには見えず、サタンのように屈強な肉体にも見えないため、驚くと共になんだか少しほっとしてしまった。
今ニッ、ポ、ンと言ったか?
やはりここはシベリアではない。
日本なのか?
そこには白い手ぬぐいを頭に巻いて半袖の白い割烹着をつけたしわくちゃな年配女性の姿があった。右手には大きな籠を持っており、その中には何やら緑色の物体が入っている。
そう、この第一村人・・・もとい、彼女は典型的な日本の田舎のおばあちゃんであった。
「何やら僕達の格好がどうのこうの言ってるみたいですが。どういう意図なのでしょう。」
「はい、これがどこかおかしいのでしょうか。」
彼らはまだ気がつかなかった。百年前のロシアでよく使用されていた分厚く重いロングコートに毛皮の帽子のシベリア上陸用の装備は、現在のここ日本の夏の風景においては、完全に不審者だということに。
彼女が身振り手振りでいろいろ服装について何か言っているものの、一向にその意図がわからない。まごまごしていると、
「あんだたち、こっちさ!」
そう言って彼女は右手に持っていた籠を背負い、二人の腕をおもむろに両脇からがっちりと掴んでずるずると引きずり、あっはっはと豪快に笑いながら近くの民家の方角へ向かっておもむろに歩き出した。
「わ~~なんだなんだ?」
「な!!!」
「は、話せばわかる!ま、まずあなたの上官と話をさせてくれまいか、私どもは決してそなた達を攻撃するつもりはあ``あああぁ~~~」
「あぁぁぁ僕もやっぱりあの時内勤にしとけばあぁぁ~」