小泉八雲と火曜の木箱ー03ー
その日の放課後春子達は手紙に指定された東棟2ー3の教室に居た。そこには誰も居らず不良達の溜まり場になっているせいか教室は少しタバコの匂いがした。16時迄あと5分という時にいきなりドアが開いて三人は中に入ってきた人物に驚いた。
「柴田先生...どうしたの?」
初めに春子が言う。
「えっと…。今帰りますから。」
次に夏歩が言う。
「じゃあ...そういう事で。」
最後冬馬が言ったところで柴田が口を開いた。
「じゃあ出席とるから三人とも座って下さい。市ノ瀬夏歩さん。」
三人が混乱する、何故ここに柴田がいて出席をとっているのか、しかも毎日の事なのでついつい条件反射で「はい」と返事をし天高く手を上げていたことに夏歩は気付きそれを柴田は自慢の笑顔で返し出席を続けた。
「木瀬春子さん…木瀬さん。大丈夫ですからお返事して下さいね。」
春子は柴田に言われるがまま「はい」と返事をした。夏歩みたいに元気な声ではなくか細い声を柴田は聞き漏らさないように耳を澄ませて聞いた。春子の声をしっかり聞いた後で柴田は春子を安心させるようにニコリとし、そして冬馬を見た。
「湊冬馬...はい。いいお返事ですね。朝もこうだと先生は助かりますよ。」
冬馬にそういうと柴田は「最後に」と言い一番後ろの席まで歩き出し一人の男子生徒の前で足を止めた。その柴田の行動を不思議に思い三人は柴田が歩いた方に目をやると、そこには先程迄誰も座っていなかった椅子にふんぞり返って座っている男子生徒の姿があった。その男子生徒は緑王高校の制服を着ているからこのがら生徒で間違いがないのだが、三人の知り合いではないようだ。だが、この男子生徒はいつ入ってきたのだろうか?後ろのドアは閉まっていたので開ければ誰かが気付くはずなのだが、誰も気づかなかった。
「小泉八雲」
柴田にそう呼ばれ「はい」と気だるそうに返事をする八雲の頭をポンっと叩いた柴田は右向け右で教卓に向かった。その途中で夏歩に「誰?」と問いかけられると教卓に向かいながら八雲の説明をした。
「彼。小泉八雲は君達と同じ高校生で、『火曜の木箱』という七不思議の正体ですよ。いやー驚きましたよ。八雲が七不思議の一員になっていたとはね。八雲今の気持ちはどうですか?」
八雲は柴田をジロっと睨み柴田の問に答えた。
「妖怪や怪奇現象扱いされていい気分の人間がいたら教えてほしいな。それより出雲今回の依頼は何だ?」
「それが、残念な事に依頼主の篠香田秋君が自ら退学してしまってね。」
「知ってる。そいつは大馬鹿者だな。折角助けてやると言っているのに何故逃げた。そんでそいつ等は俺のクラスの女子と隣のクラスの馬鹿湊だろ。ってか!!俺が聞きたいのは依頼主じゃなくて依頼内容はなんだって話だ。」
「えっとですね…」
八雲と柴田の話しについていけない三人は暫く口を挟めずにいたがここでようやっと黙ったので春子は思いきって八雲に今までの疑問をぶつけた。
「あの...質問なんだけど」
「はぁ?何」
素っ気ない態度に心が折れそうになるが、ここで八雲に負ければ話が続かないと判断しもう一度八雲との会話を試みる。
「小泉君は私と夏歩と同じクラス何だよね?見たことないしクラスに『小泉八雲』って人いないんだけど。あと!私達は秋ちゃんの下駄箱に手紙が入ってたから秋ちゃんが置いていったのかなって思って来たの。それと…」
八雲は、春子の話しを最後迄聞かずに「あのさ」と話しを無理やり終わらせ、春子の質問に答えた。
「木瀬さん話し長すぎ。じゃあ答えるね。俺の本名は『恋丘なつめ』で朝も君達が教室を出ていく時にぶつかりましたけど。謝ってくれるかな?それと下駄箱に手紙を入れたのは出雲だ。んで回収忘れだろ。無駄足残念だったな。あっ!それと何だ?」
八雲が話し終えると春子は今朝の事を思い出してた。確かに誰かにぶつかった気はしていたのだがそれが誰だったのか分からずにいた。しかし、春子は自分と八雲が同じクラスだという事実がどうしても腑に落ちず夏歩の顔を見て「知ってる?」とアイコンタクトを交わしたが夏歩も同じく首を傾げるだけだった。その行為を見て八雲は頭をクシャッと掻き「影が薄くて悪かったな」と聞こえない声で二人に言ったが柴田には聞こえていたらしくヨシヨシと頭を撫でなれた。
「そうだ!」
春子は唐突に大声をあげそこにいる皆を驚かせた。
「何だよ急に大声出して。」
冬馬が皆を代表して春子に言ったが、春子は冬馬を無視して八雲に詰め寄り先程の話しの続きをした。
「秋ちゃんの事馬鹿って言わないで下さい。秋ちゃんは本当は実家に帰りたくないの。六日後は秋ちゃんの誕生日だから、無理やり帰ったのよ。怖がってたの…狐に消されるって言ってたの、殺されるって言ってたのよ…」
春子の言葉に夏歩と冬馬は驚きを隠せず、冬馬は春子を自分の方に向かせて「今の話しは何だ」と言いたげな顔で春子を見ている。春子は自分の肩に乗っている冬馬の手を掴み優しく下に下ろした。
「去年の誕生日にね、来年は夏歩と冬馬にも祝ってもらおうねって言ったら来年は『狐に化かされて消される』から無理って言われていて、意味は分からないけど。そして昨日木箱に悩みを解決してもらうって言ってここに来たんだけど、私ただの七不思議だから止めようってそしたら今日秋ちゃん居なくて…私のせいだ。」
そう言い終わると春子は泣き出し、冬馬と夏歩は春子を庇うように言葉を掛け抱きしめた。しかし、八雲だけは違い春子達を見て「で?」と短く言葉を発しこう続けた。
「俺は木瀬さんの涙を見にきた訳じゃないの。次いでに言うと狐が人を化かす話しなら聞いた事あるだろ?封神演義の蘇妲己しかり玉藻前しかり狐狸ってのは人を化かすのが仕事なんだよ。」
悠然と八雲は述べたが夏歩は凄い剣幕で八雲の話しに反論した。
「それは物語の話しでしょうが!!こっちは現実の話しをしているのよ。だいたい恋丘君だっけ?小泉君だっけ?が、春子を泣かしたんだから責任とりなさいよ!!」
「は?意味不明なんだけど。確かにさっきのは物語だが、安倍晴明の母親は葛の葉という白狐だと言われているだいたい木瀬さんは...分かったよ。狐狸から篠香田君を助ければいいんだろ!!」
その言葉に今まで黙って聞いていた柴田が口を開け「明日から休みだしね」と三人に笑顔で言った。三人は「はい!!」と頷き、八雲はガクッと項垂れた。そんな八雲に春子は「ありがとう」と頭を下げた。