4話 『始まりの声』
キーンコーンカーンコーン
授業の終わりを告げる鐘が鳴り響く。教師が出ていき教室が喧騒に包まれる。
「雪季、さっさと行こうぜ!食堂の場所が埋まっちまうよ」
「わーってるよ。」
席を立ち上がろうとした時だった。
『ゴーン。ゴーン。ゴーン』
置時計の鐘が鳴るような音が響き渡る。校内放送ではない。
「何の音だ?」
武が怪しみながら尋ねてくる。そんなこと聞かれても俺もわからねぇよ。
「さぁ。何かの合図か?」
『あー。マイクテスト中。通ってるみたいだな。全世界の歴戦の猛者たちに告ぐ』
なんだこりゃ。俺だけでなくクラス中の生徒たちがあたふたとしている。
『これより最強の『勇者パーティ』を決めたいと思う。パーティーの構成はランダムで
決める。かつて組んだ者と同じパーティーになることもあれば誰ひとりとして知らぬ
パーティーとなることもあるだろう。しかしどんな状況においてもベストを尽くすこと
のできる者こそ真に強き者だと私は思う。私が誰なのか、それは今は隠しておく。
ただ君たちの前に『最後に立ちふさがる者』とだけ言っておこう。舞台となるのは
『ジ・アース』。争いのないこの世界に君たちを『召喚』する。ただし召喚するのは
君たちだけではない。まぁ、それは実際に来てからのお楽しみとしようか。
召喚は只今より五分後に開始します』
ツッコミどころが多すぎるが一番気になったのは『ジ・アース』という言葉。
それって地球のことか?争いのない世界ってのも多少各国間でのゴタゴタはある
ものの俺が召喚された『アルベルツ』のように殺伐とした雰囲気ではない。
「……」
先ほどまでの慌てようが嘘のように武は真剣な目をして空を見上げていた。
「武?」
「わり。雪季、俺ちょっと用ができたわ。すまん」
「いや。それはいいんだが」
「じゃぁな」
右手を俺に上げて武は小走りで教室を出て行ってしまった。
先ほどの放送を聞いて様子が変わったようだが。あの放送を『何も』知らない奴が
聞いたら何かのイタズラのように取るだろう。しかし俺のように事情を知っている奴
となれば話は違ってくる。武、お前もしかして……。
それと五分後ってタイムリミット近すぎだろ。こういうときは最低でも一時間
くらい取ってくれないとこっちの心の用意が出来ないってもんだ。おまけにパーティー
の構成がランダムっていうのも気にかかる。俺の力はかなり特殊だからな。
「なんかこわいねー」
「そうだね。それより早くお昼食べにいこ」
クラスの女子がそんなことをしゃべりながら教室を出て行く。そうだよな。それが普通
の対応なんだろうな。けど事情を知っている俺は悠長にランチを楽しむなんてことは
できない。
それから数分ほど俺は教室の窓に肘をつき空を眺めていた。腕時計を数秒単位で
見ながら。時計を気にするなというほうが無理だと思う。
謎の放送から五分後。巨大な魔法陣が空を覆いつくした。
「なにあれ!?」
「え!?うそ!?なになに!?宇宙人かなんか??」
クラスの女子や男子が窓際に駆け寄ってきて目を見張りながらつぶやく。
先ほどの放送はタチの悪いただのイタズラではなかったようだ。
『それでは始めよう。これより新たな冒険の始まりだ』