2話 『戸惑い』
森を抜け出て道行く行商人なんかの後をこっそり付けて
俺はなんとか王国の入口までたどり着くことができた。ゲームとか
やってる人はわかると思うんだけど王国とかの入口ってでっけぇ門が
あるだろ?お約束のようにその門を守る兵士がいてな。どうやって入ろう
かと小一時間ほど悩んだんだ。天才的な頭脳をフル回転してな。悩んだ末に
思いついた案が『行商人の荷物にこっそり紛れ込む』だった。こんなことに
なるなら最初から行商人を付けるんじゃなくて忍び込んでたほうが絶対
早かったのにな、って思ったが人の荷馬車に無断で乗り込むってのは結構
気が引けるんだよ。
なんとか王国に入ることができた俺はさっと軽やかに荷馬車から飛び降りた
んだ。華麗にな。そしたらそばにいた見回りの兵士に見つかった。
これじゃぁ荷馬車に忍び込んだ意味がまるでないと思うだろ?まじで意味
なかった。がっちりした腕で俺を羽交い絞めにしようとするからこっちも
抵抗しようと右ストレートを兵士の顔面に叩き込んだ。喧嘩は地球でも弱い
ほうじゃなかったんで少しくらい効くかな?と思ったら俺のパンチを受けた
兵士が数十メートルも吹き飛ぶもんだからびびったぜ。吹き飛ばされた兵士
は泡吹いて気絶していた。どうすればいいのかな、と悩んでいたら騒ぎを
聞きつけた兵士がたくさん寄ってきて俺をぐるっと囲む。
よくわからんがパワーアップしてる俺でもこの人数を相手にすれば間違いなく
負けると直感的にわかったので俺は両手を高々と上げた。『戦う意思はない』と
いう意味で。この意味を正確に理解してもらえるか少々不安だったがどうやら
兵士たちに俺の意思が伝わったようで兵士たちの殺気は消えた。
それから俺は口を開いた。異世界だから言葉が通じない相手だと思っていたが
行商人と門番の話が聞こえてきた時に意味が理解できたので言葉による意思疎通が
可能だということは分かっていた。いわゆる『勇者補正」ってやつだろうな、って
思った。
「聞いてくれ。俺は『勇者』だ」
高らかに俺は言い放った。
「殺すぞ。小僧」
消していた殺気を再び兵士たちは撒き散らす。こわ……。よかった、さっき手を
上げる前にこのセリフ言わなくて。先に言ってたら間違いなく剣で斬られてたわ。
「待て。頼むから話を聞いてくれ。俺は異世界から来たんだ。」
「お前がどこから来たのかは知らん。だがな、この世界にはすでに勇者がいるんだよ!」
……?え?さきほどからリーダー各の男が俺に返答していたのだが今こいつ何て
言った……?勇者がいるって。いや、それはおかしいだろ。だって勇者なら
ここにいるじゃん。
「……?」
いや、とりあえず整理しよう。どうもこの壮年の兵士は本当のことを言っている
ようだ。周りの奴らも同意するように首肯していた。ということはつまり本当に
もう『勇者』がいるのだろう。信じられないことだが。
「じゃぁ、たぶん勇者の仲間だ。戦士とか」
「勇者以外の者もすでに揃っている」
「はぁ!?!?」
え!?どういうこと?勇者のパーティーっつったら勇者をはじめ戦士や僧侶、
魔法使いだろ?え、こいつらももう埋まってるの!?じゃぁ俺なに!?
「じゃぁ俺は何なんだよ!?」
考えてもわからなかったので兵士に聞いてみた。
「知らぬ。もうお前の与太話には付き合いきれん。おい、こいつを牢屋に
ぶち込んでおけ」
「お、おい!待て!頼む、王に会わせてくれ!」
たぶん王に会ったらうまくいくんだって。なんとなくそんな気がするんだよ。
「黙れ。ここで殺してやってもいいんだぞ」
「……」
そう言われたら黙るしかねぇだろ。壮年の兵士の部下と思われる兵士に両脇
を固められ俺は牢屋に連行された。