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わたしの王子様

わたしの王子様  2

作者: 城田 直

ノブミを愛してしまった啓だが、ノブミは啓の生い立ちをしりたがるようになり、聞かれてカミングアウトした啓の生い立ちはすさまじく現実離れしていた。

 最近、友達が減っている気がする。

 なぜなんだろう?

 きっと、啓と付き合い始めたからだ。啓と出会って、三ヶ月になる。

 啓は、相変わらず優しいし、最近はご飯のほかに、スィーツとか作ってくれるようになって、わたしは六キロ太った。

 むちむちしてきた。

 啓は、わたしの横っ腹をくにくにつまんでうれしそうに笑っている。

 ノブミのぷにぷに、だいすき、とかなんとか言って。

 あまり、うれしくない。というかぜんぜんうれしくない。啓は自分のことをちっとも話さない。どこで生まれたとか、兄弟はいるのか、とか、飛び級で大学に入る前はどんな生徒だったとか、趣味はなんで、音楽は何が好きで、旅行はどこに行ったの、とか好きな食べ物とか、好きなタイプの女の子はどんなアイドルとか、そういうごく一般的な要素はまるで話してくれない。

 多分、それは啓が天才だからだと、わたしは理解した。天才とはすべからく、変わっていて、奇妙な人のことだと思うからである。

 それにしても、ものすごくかっこいいのに、ものすごく奇妙な性格を持って生まれてきたというのは、幸せなのか、不幸なのかわからない。

 きっと、それは思うに、あまり幸せとはいえないのではないだろうか?

 なんて、思うことがたまにあるけど、

 やっぱりわたしは、啓のくしゃって笑うかがみたくて、いつも一緒にいたいと思う。

 だから、友達なんてどうでもいいのだ。

 しかし、それはわたしの本質とは微妙にずれているなあ、と思うのも確かで、わたしはときどき、ブルーな気持ちに陥るのだ。

 ああああ・・・・

「ねえ、啓?」

「なあに?」

 啓はくしゃって笑った。あああ

 それを見るともうなにがどうなってもいいとさえ思うのだが、一応一緒に暮らしている以上、相手の最低限の情報は知りたいな、と思うのはノーマルな感情でしょう。

 わたしは意を決した。

「啓ってさ、自分のこと話さないよね、なぜ?」

  「自分のこと?僕の何が知りたいのかな?」

 わたしは、いつも思っているさっき挙げたような疑問を啓にぶつけてみた。

「啓ってどこで生まれたの?お父さんとおかあさんはどこに居るの?兄弟は?」

 啓はうーんとうなってしばらく黙り込んだ。そして、「それは、のぶみが知りたいことなのかな?」と逆に問い返された。

「なんでそんなこと、聞くの?ぼくのことってそんなにたいしたことじゃないし、聞いても面白くないと思うよ」

 啓は珍しく困った顔をした。眉の間を潜めて、しーっと唇に人差し指を当てる。

 やめて、やめて、そうゆうポーズって自分がとっても困ったチャンに成り下がった気がするじゃないの。

 わたしは黙った。すると啓は、

「ねーねー、ケーキバイキングにつれってあげるから、支度しなよ」

 とくしゃって笑いかけた。

「ケーキはいいです」

 わたしはめずらしく毅然とした態度になった。

「これ以上太ったら、豚になります。っていうか、もうぶたさんです」

 ぶたさん、ぶたさん、ぶひぶひぶひ・・・・

 啓は鼻の先を上に向けて、豚の鼻をまねる。そういうことをしても、いや、そういう子供っぽいことをするから彼はますますかわゆく見えて赤ちゃんモデルの男の子みたいに見えてくる。エンジェル君だ。

 あうあう、エンジェル君、とわたしは叫んだ。

 突然、啓にスィッチが入った。

「それだけは言わないで」

 え、なんで?エンジェルくんのどこがいけないの?

「思い出すのよ、むかしそういうコードネームで呼ばれてたの」

 コードネーム?あなたってスパイだったんですか?啓クン?

「いやいや、スパイじゃないけど」

 啓は耳をふさいでいやいやをした。

 かわいい、かわいすぎる、そのしぐさ。

「仕方ないから、ほんとのこと教えてあげるね」

 そして啓はわたしの耳元でささやくように静かな声で話し始めた。

 耳が熱い、あああ。そこ、だめ・・・


 僕のお母さんはパソコンなのよ。

 マザーがランダムに遺伝子情報を検索して

 その条件に合う保存卵子と精子を掛け合わせて試験管で受精させたわけ。

 その条件というのは、スカンジナビア系と

 クロアチア系とインディアとモンゴロイドとスパニッシュとアフリカ系とおよそ地理のかけ離れた地域の人種と、遺伝情報的には理科系と芸術系の要素を併せ持つ才能を取り寄せて遺伝子操作したんだけど、やはりよい遺伝子だけを抽出するというのは無理があるみたいで、感情面がどうしてもいびつになっちゃうみたいなのね。

 サヴァン症候群って知ってるかな?

 高機能自閉症のいっしゅなんだけど、生活能力はおそろしく劣っているんだが、ある種の才能に欠けては天才的な能力を持つ人のことで芸術方面、技術方面、音楽方面に傑出したひとが多いんだけど、まあ、ぼくはかけあわせがよかったのか、サヴァンにまではいたらなかったのね。

 だけど、対人関係には問題あり、だよね。

 だいたい、人の気持ちとかわかんないし、

 大学で講義することも、研究のプロジェクトに参加して何かを作り上げることもできるんだけど、どうしても人の気持ちっていうのがわかんないんだよね

 とくに大勢の人とコミュニケーションとるのが苦手なの。だからたいてい独りでいるんだけど、それにそういう状態ってけっして不快とかじゃないんだけど、なんか、さ

 自分も人間なんだよねってあるひふと気がついちゃって。それが、献血車から出てきたノブミを見た瞬間で、あれ、僕にも血って流れてるよねって思ったときに、おそろしくふつーそうな、ノブミを見て、この人なら人間の普通さについて行為でレクチャーしてくれるんじゃないかって思って、あー、この子だ。って。

 それで後をついってって、ずっとそばにい観察してたわけよ。

 そうか。あたしって本当に普通そうに見えるんだ、よかった。

 とわたしはつくづくそう思った。

 僕の呼び名はエンジェルくんだったの。昔の学術ビデオがあるんだけど、それは僕がおなかを貸してくれたイタリア人のお母さんから出てきたところから始まるんだけど、生まれたての僕って、赤ちゃんじゃなくて、しろたんって言うくらい白かったのよ。んで、彼女が出てきた僕を見て,アンジェロ・ビエンコって呟いたの。それを聞いたスタッフがエンジェル君って呼ぶようになって、世の中に出てくるまでにずっと実験用の施設に入ってたんだけど、飛び級でハーバード大学に入学するまでね。

 そうなんだ・・・わたしは絶句しながら耳をそばだてる。嘘だあ、でもなんでそんなひとがわたしの目の前に居るわけ?

 疑問はあとからあふれ出てくるのだが、あまりにも荒唐無稽な話なので絶句したままわたしは啓の瞳を見続けている。

ま、そんなわけで今僕はここに存在するわけなんだけど、だいたいそれくらいの説明でよいのかな?

あ、ああああ・・・

わたしはあいまいな答を口にする。

ま、いいじゃん僕がどんな人間だって。僕はノブミを愛しているんだし、ね?

そしてそして・・・・ああああ

くしゃって、エンジェル君は笑うのだ。

ぼく、のぶみだあいすき。

甘い声で子供のようにささやかれて、おまけにバニラと石鹸みたいな甘い香りがするもんだから、わたしはほんとうに倒れそうなくらい幸せを感じてしまう。

啓の存在は幸せホルモンを誘発させる。

目が開いて間もないくらいのふかふかした子犬とか子猫とか、乳臭い人間の赤ん坊を抱いたときみたいな癒しに取り込まれてしまう。

ほにゃぁああああああ、って。

もう、どうにでもしてぇって感じかな。

幸せすぎて涙が出てくるのだ。ああああ。


まだ続きます。

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