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第五章:準備と出立

ヴィンセントは、カフェ店で店番をしている間、暇を持て余していた。


誰も来ないのだから暇なのは当然である。


あれから女が出て行ってから3時間ほど経つ。


時刻は午後の16時を回っていた。


「あー、まだかー」


苛々とJPSを吸いながらヴィンセントは、女の帰りを待った。


灰皿は既に山のように吸殻が溢れ返っており、それが2個になろうとしていた。


17時になり、とうとう灰皿の山が4つになった。


「ただいま・・・・・って、何よ。その山のような吸殻は」


女は煙草の山を見て唖然としていた。


4時間でよくこれだけ吸えるな、とつい思ってしまった。


「遅かったな?」


ヴィンセントは悪びれもせずに煙草を蒸かした。


「・・・・店番を頼んでおいて・・・・・・煙草をこんなに吸う男が何処に居るのよ?」


プルプル、と身体全体を震わせながら女はヴィンセントに訊ねた。


「ここに居るだろ?」


対してヴィンセントは悪びれた様子も見せずに答えた。


それが起爆剤となった。


「こ・・・・んの・・・・・・・・馬鹿男が!!」


バッチン!!


強烈な音が店内に響いた。


「・・・300万で揃えられたのはこれだけよ」


淡々とした口調で女はテーブルに武器を並べた。


「やっぱり300万で用意できる物なんて高が知れてるな」


ヴィンセントは武器を手に取りながら文句を垂れた。


左頬には、真っ赤な紅葉が咲いていた。


「煩いわね。これでも頑張ったのよ?おまけに車の事もあったんだから」


感謝しなさい、と女は両手を腰に当てて言った。


女が用意した武器は、以下の通りだ。


自動拳銃-1丁


予備弾薬-10個


狙撃銃-1丁。


「最近は、暗黒街も“不景気”で銃器の値段が跳ね上がっているのよ」


おまけに失業率も上がり堪ったものじゃない、とパリ・ジェンヌは言う。


どうやら暗黒街でも不景気らしく、失業率も高いらしい。


表も裏も然して就職から経済まで変わらないようだ。


ヴィンセントはその言葉を無視して拳銃を手に取った。


「アメリカ製の拳銃じゃねぇか。アメリカ製は余り好きじゃないんだが」


ヴィンセントは拳銃を弄びながら文句を垂れた。


彼が持っている拳銃はS&W SW1911DK。


アメリカの老舗銃器メーカー、S&W社が造ったコルト・ガヴァメントのコピー品である。


だが、ただのコピー品ではない。


コルト社には無かったグリップセフティ連動のAFPBを備えている。


このAFPBとは、オートマチック ファイアーリングピン ブロックの略称である。


このシステムはファイアリングピン(撃針)の前進を常時ブロックし暴発を防ぐ。


このシステムを使用するとセイフティトリガーを引き切った時のみ解除され、撃発可能になる。


この他にも外見からトリガー、スライドなど様々な点で改良されており現代でも通用する拳銃となっている。


ライバル社のコピー品であるのに多少の違和感を感じていたが、売れ行きは絶好調でコルト社を凌ぐほどである。


まさに皮肉な話だ。


口径はガヴァメントのコピー品であるため45口径でマガジンに8発+銃自身に1発で合計9発。


ストッピング・パワーは言うに及ばず、おまけに45口径のためサプレッサーを取り付けた時は9mm以上の消音効果を叩き出す。


しかし、45口径はヨーロッパでは余り好まれていない。


理由として、反動が大きく扱い辛いのが理由だ。


何よりヨーロッパには45口径と同じく有名な9mmがある。


それもまた理由の一つだ。


「一々うるさいわね。それが一番マシだったのよ」


その他の銃だとルガーP08やワルサーP38、M.A.BモデルD、と古臭い物ばかりだったらしい。


「何でそんな物しかないんだよ」


「300万でこれだけの物を用意しろと言う方が無理なのよ!?」


それを交渉して手に入れて来たんだ、と女は怒鳴った。


「ちっ・・・・狙撃銃はヨーロッパ製か。しかし、安物だな」


ヴィンセントは女から視線を外して狙撃銃を見た。


狙撃銃は、H&K社のG3SG/1。


H&K社の開発したアサルトライフルG3の中から精度の高い物を選んで命中精度を高める改良を施した物だ。


外見的な改良として2脚を取り付け、狙撃用のスコープ、通常よりも長いストックを装着させた。


しかし、アサルトライフルをベースに改良した物なので、正規の狙撃銃に比べれば劣る点がある。


ただし、フルオート射撃は可能なので、いざと言う時には役立つライフルだしH&Kが作り上げたライフルだから安ものとは言え値もそれなりだ。


それを乏しめるような言葉を言うのだから、口が煩いとしか言えない。


「文句が多過ぎるわよ。これでも最良の物を選んで来たんだから。それにそのライフルは分解可能だからアタッシュケースに入るわ」


「へいへい」


ヴィンセントは肩を落としながら、S&W SW1911DKの木製グリップに黒い布を捲き始めた。


「滑り止め?」


「あぁ。これで汗を掻いても問題ない」


銃のグリップなどに包帯や布を捲くのは長時間の射撃時を考えての事だ。


汗などで滑り易くなったグリップなどに、ある程度吸湿製のあるクッションの役目を果たしてくれるのだ。


そしてH&K G3SG/1を組み立て始めた。


2脚を立て試しに狙いを定めてみた。


特に問題は無い。


「スコープは無いのか?」


「無いわ。それにスコープがあっても試射をする時間と場所があるの?」


女の言葉は的を射ていた。


スコープは遠く離れた獲物を狙う時には必需品だ。


しかし、ちょっと動いただけでも狙いが狂う。


外してしまえば、また1から全てやり直しで何処かで試射をして調節しなければならない。


利点はあるが欠点の方がどちらかと言えば多いのがスコープだ。


ヴィンセントとしては別にスコープ無しでも狙えなくは無い。


ただ、あった方が良いと思っただけだ。


「それじゃ行くか」


布を捲き終えたS&Wの拳銃を用意されたホルスターに入れた。


エプロンを外してYシャツの上からマニューリンMR73の入ったホルスターを右腋に吊るした。


左利きである彼はホルスターを右腋に吊るしているのだ。


S&Wは腰に装着したヒップホルスターに吊るした。


こちらは右側に装着し、右手で抜けるようにした。


G3SG/1を分解したヴィンセントはアタッシュケースに予備弾薬を一緒に入れた。


「じゃあな」


ヴィンセントは何百本目かの煙草を銜えて火を点けると女に背を向けた。


そして悠々と出ようとしたが、首根っこを掴まれてせっかくの格好も台無しとなった。


「ちょっとまだ半分の報酬が残っているわよ?」


「痛ッて・・・・後払いで頼むわ」


怒りたい所を抑えながらヴィンセントは言った。


「ちゃんと払ってくれるんでしょうね?」


「ちゃんと払う」


疑わしい女を尻目にヴィンセントは乱れたコートを直した。


「分かったわ。その代わり、ちゃんと払ってもらうからね?」


「へいへい」


ヴィンセントは笑いながら店を出た。


店の外に出ると青いルノー・メガーヌだった。


フランス車会社のルノー社が開発した車で、日本車などが人気のあるヨーロッパでも手堅く人気を獲得している。


「まぁ、無難だな」


出来るならポルシェ何かが良かったとヴィンセントは思ったがそんな事を言えばどんな目に遭うか分からない。


だから肩を落とすだけにした。


そしてドアを開けて乗り込んだ。


「さぁて・・・・先ずはあいつ等を見つけるとするか」


エンジンを作動させて、走り出す。


「まったく世話が焼ける男なんだから・・・・・・・・・・」


ヴィンセントを見送った女は溜め息を吐いた。


「まぁ、“将来”は良い男になるから大目に見る事にするわ」


そう独白しながら煙草の山と、どう格闘しようかと頭を回転させた。


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